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ピエール・ルメートル 天国でまた会おう(2015早川書房) [日記 (2024)]

天国でまた会おう 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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  第一次世界大戦終結間近の1918年11月、西部戦線で戦う若いフランス兵アルべール、エドゥアールとプラデル中尉、3人の話です。

プラデル:没落貴族の末裔。戦争で英雄となり余剰軍需物資で富を築く。エドゥアールの姉と結婚しペリクール家に取り入る。社会的勝者となるためには悪事も働く。
アルべール:元銀行員。プラデルの引き起こした無益な戦闘で生き埋めとなり、死の寸前にエドゥアールに助けられる。
エドゥアール・ペリクール:父親は富裕階級、特異な絵の才能がある。アルべールを助けた際に被弾し口と頬と顎を失う。復員を拒否しアルベールの助けで戦死者ウジェーヌとスリ替わる。

 簡単に言うと、戦争を踏み台に成り上がったプラデルと戦争に痛めつけられたアルベール、エドゥアールの物語です。わりと古典的な設定ですが、本書を決定づけるのがエドゥアールの口と頬と顎を失った顔。どんな顔かというと、

エドゥアールのほうは平然として、鼻孔から煙草をもう一服しただけだった。 そしてもう片方の鼻孔を手でふさぎ、同じ道筋を通って煙が出てくるようにした。喉からなんてとんでもない。だってエドゥアール、とアルベールは言ったものだ。正直、クレーターが噴火しているみたいで、ぞっとしないからな。

  後にこの醜い顔を隠すため、エドゥアールは能面の様なシンプルなものからラメの入った幻想的なものまで様々な仮面を作りこれを被ります。この物語では仮面=ペルソナがひとつのカギです。仮面は醜い傷を隠すと共に、本来の自分を隠し情況に応じて変身し匿名性を獲得します。復員を拒み死んだ兵士の名前を騙りますから二重の意味でAnonymous。したがって第一次世界大戦で傷ついた兵士、死んだ兵士の象徴でもあるわけです。エドゥアールは戦場の病院で国が提供する「補綴(ほてつ)器具」=仮面を断っていますから、いま仮面を被るということは、引き込もりの生活を捨て社会へ出て行こう、仮面の匿名性の下で自分を戦争に引き摺り出しこんな顔にした奴と対峙しようというわけでしょう。

 舞台となるのは第一次大戦の終わったパリ。国は戦死した兵士を葬る共同墓地を計画、市町村は戦没者追悼記念碑を計画します。プラデルは墓地を整備し遺体を掘り起こし埋葬する事業を請け負い、不正をはたらいて一儲けを目論むわけです。アルべールとエドゥアールの計画は、戦没者追悼記念の機運に乗じ記念碑を販売しようというもの。パンフレットを作り予約を取って実物は納品せずズラかろうという詐欺です。自分たちを戦場に駆り出した国や市町村にひと泡吹かせようというわけです。ここに来て小説の全貌が明らかになります。
 エドゥアールは生きる目的を見い出し、アルベールは引きづられるように計画にのめり込みます。プラデルの企みは破綻するのか?、エドゥアールの詐欺は成功するのか?、と言う興味で引っ張ってゆきます。読者としては、悪役プラデルに比べ人のいいアルベールと顔を半分失ったエドゥアールを応援したくなりますが、どちらも死者を喰い物にしようと言う悪人のクライムノベルです。

 ちょっと分からないのがエドゥアールと父親の葛藤。父親は銀行や企業を経営する富豪。風刺画を描いて問題を起こし退学を繰り返している息子に愛想をつかし、二人は険悪な関係となります。そのためエドゥアールは復員することを拒み死んだ兵士とすり替わります(これも匿名Anonymous)。ところが、父親は体調を崩し(都合よく)死んだ息子を悼むようになり戦没者追悼の記念碑に大金を投じます。エドゥアールは架空の彫刻家を騙り父親の記念碑を請け負い、騙されたと知った父親はプラデル(娘婿)を使ってその正体を暴こうとします。エドゥアール→父親→姉マドレーヌ→プラデルの連環なんでしょう。
 父親は彫刻家の絵にエドゥアールの特徴を見出し彫刻家に会いに出かけます。父と子は和解するのか? →和解はなく「天国でまた会おう」となります。

 でこれが面白いかというと?。第一次世界大戦でフランスは多大の犠牲を払っています。アルべール、エドゥアール、プラデルの存在も、共同墓地や記念モニュメントとそれに関わる不正など、この小説が成立する背景があるのでしょうが、日本人には正直ピンと来ません。

 『その女アレックス』の様な緊迫感を期待すると裏切られます。本書は2013年のゴンクール賞受賞作でミステリーではありません。映画化されているようなので観てみます。

タグ:読書
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