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ユッシ・エーズラ・オールスン 特捜部Q―檻の中の女―(2011ハヤカワ・ポケット・ミステリ) [日記(2019)]

特捜部Q ―檻の中の女― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕  映画が面白かったので原作を読んでみました。ネタばれのミステリを読んでもつまらないわけですが、「与圧室」という普通ではない装置がなぜ民家の納屋にあったのか?、20年前の交通事故が誘拐、殺人の動機となりうるのか?映画の疑問が気になったので原作にあたったわけです。主人公カール、助手のアラブ人アサドの魅力も手伝ってのことです。

カール・マーク
 警部補、コペンハーゲン警察の「特捜部Q」の責任者。殺人捜査課時代、部下一人が死に一人が全身マヒ、自身も重傷を負い2か月後に復帰すると席は無く、過去の迷宮入り事件を再捜査する新設の「特捜部Q」に追いやられます。事務所は警察署の地下、責任者とはいうものの部員は助手のカール一人。殺人課の課長は、ハミ出し刑事カールを追い出し、「特捜部Q」に付いた予算を殺人課に流用しようという一石二鳥を狙ったわけです。
 カールには妻と妻の連れ子の息子がいるのですが、妻は男を作って家出、中学生?の義理の息子とレンタルビデオ店でアルバイトをする下宿人の三人暮らし。義理の息子はカールから金をせびり、学校をサボって遊び暮らし。下宿人は料理が得意で、カール家の主夫?。

ハーフェズ・エル・アサド
 警察の仕事がしたくて日参するうちにガールの助手となったムスリムのシリア移民。従って警察官ではない。濃いアラビアコーヒーと地下事務所でアラブ料理を調理し、ダマスカスで培った恐ろしいスピードで車を運転するなどで、カールの顰蹙を買います。本人によると、車はおろかバイクから戦車まで運転でき、シリアに帰れば殺されるという謎の存在。捜査資料を読み込み、カールが必要とする情報はすべてアサドが提供するという仕事ぶりで、刑事顔負けの働きをします。迷宮入事件の中から「ミレーデ失踪事件」を取り上げたのもアサド。
 政治亡命者?が普通に暮らし警察で働くという、日本人にとっては理解不能の設定ですが、これが面白いです。

 カールとアサドが失踪した女性国会議員ミレーデの行方を追う2007年と、ミレーデが誘拐され監禁された2002~2007年の二重構造でストーリーは進行します。『檻の中の女』の特徴は、カールとアサドのコンビの妙もさることながら、誘拐の動機と「檻」の特殊性でしょう、以下ネタバレです。

動 機
 20年前ミレーデが14歳の頃、父親の運転する車が無謀な追い越し運転で事故を起こし、ミレーデは無事だったものの両親は死亡、弟は脳に損傷を受け精神障害に陥ります。追い越された車も大破、運転していた男と少女が死亡、妊娠していた男の妻は事故現場で双子を出産し、双子のひとりは死亡、以後車イスの生活となり、少年ひとりが無傷で生き残ります。この事故で少年と少女の運命が大きく開きます。
 ミレーデは障害のある弟を抱えながら国会議員となり、美貌と弁舌によってマスコミの寵児となり野党第一党の副代表にまで上り詰める一方、少年は車椅子の母親と幼い弟とともに辛酸をなめ成長します。

 ミレーデの車が無理な追い越しをしなかったら…と少年の(20年経って30代半ばの大人ですが)恨みはミレーデへと向かい、自分が受けた苦痛をミレーデにも与えるため誘拐し檻に監禁します。これが動機。ミレーデの檻の中の悲惨な境遇は執拗に描かれますが、少年が受けた苦痛は描かれません。動機にリアリティが乏しい(特に映画では)のはこのためです。


 もうひとつの謎「檻」です。これがなんと潜水病の治療などに使われる「与圧室」。誘拐されたミレーデは与圧室に閉じ込められ、5年の歳月をかけて1気圧から5気圧までゆっくりと気圧を上げます。この5年は、少年が里親から虐待を受けた歳月。同じ苦しみをミレーデに与えた末、気圧を一気に下げ殺そうという計画です。5気圧に慣らされた肉体が一気に1気圧に晒されると、内部から爆発。この残忍さもさることながら、救出すればミレーデは死ぬわけですから単純に救出できません。減圧プログラムが走り、刻一刻とミレーデの死が近づきサァどうする?と云うなかなかよく考えられた設定で、映画よりサスペンス度は勝っています。
 この与圧装置がなぜ民家の納屋にあったのかというと、技術者である少年の父親が研究のため所有していたいうのです。映画ではこの辺りを端折っているので、何で与圧室?となるわけです。この殺害方法はかつてなかった斬新?なアイデアです。

 デンマークの人名は慣れないうえ、次々に新たな人物が登場するので混乱しますが、面白いです。シーリーズ化されていますから、当分楽しめます。

 『キジ殺し』『Pからのメッセージ

タグ:読書
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