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ユッシ・エーズラ・オールスン 特捜部Q―Pからのメッセージ―  [日記(2019)]

特捜部Q-Pからのメッセージ(上) 特捜部Q-Pからのメッセージ(下) ボトルメール
 『檻の中の女』『キジ殺し』に続く特捜部Qシリーズ第3作。コペンハーゲン警察の未解決事件捜査班「特捜部Q」が、13年前1996年に書かれたボトルメールを解読し誘拐事件に挑みます。ボトルメールとは、手紙を瓶に入れて海に流すアレです。失踪事件(檻の中の女)、すでに犯人の捕まった殺人事件(キジ殺し)、今度は犯罪があったのかどうかも不明の事件。特捜部Qは未解決事件捜査班ではなく、事件を掘り出して自ら解決するマッチポンプ捜査班では、と突っ込みたくなります(笑。

 基本は4グループ
 ・カール、アサド、ユアサ(ローセの双子の姉)の特捜部Q三人
 ・1966年誘拐された〈エホバの証人〉信者一家
 ・新興宗教〈神の母〉の信者一家
 ・誘拐犯と妻、妻の愛人
この4グループが1996年と2009年(現在)を行きつ戻りつ、事件の全貌が明らかとなります。

新興宗教
 ボトルメールの解読から特捜部Qは1996年の誘拐事件を捜査し、新興宗教〈エホバの証人〉信者一家のふたりの子供の誘拐事件を突き止めます。この2009年の捜査と〈神の母〉信者一家誘拐事件が同時進行します。ふたつの誘拐事件は同一犯で、新興宗教の信者の子供を狙うという特殊な犯罪です。兄弟ふたりを誘拐し、身代金を得た後はひとりを殺しひとりを解放します。新興宗教の信者は排他的であり、誘拐、殺害という家族の不幸も信仰の力で堪え忍ぶため、警察に駆け込む恐れがないと誘拐犯は考えたわけです。さらに、ひとりを殺しひとりを助けることで、両親の恐怖を煽ります。この設定は秀逸です。
 誘拐犯は、父親が牧師を務める新興宗教の厳格な戒律のなかで育ちます。宗教に対する憎しみから、信者を殺すことためらいはなく、むしろこの世の悪が減ると考えています。作者としては、生い立ちのなかに犯罪の背景を求めたわけです。作者の描く犯罪のなかでも、誘拐を生業として妻と子を養う犯罪者は、飛びきりの異常。

天国と地獄
 身代金の受け渡しは、走る列車の窓から金の入ったバッグを指定の場所に投げるというもの。これ黒澤明の『天国と地獄』のパクリでしょう。このパクリ?を、列車と車のカーチェイスに繋げるあたりはさすが。カーチェイスを文字で読んで面白い?と思うのですが、これがけっこう面白い。誘拐された子供の母親と犯人に騙された女性のふたりが追うわけですが、さながら『テルマ&ルイーズ』。

 特捜部Qシリーズの面白さのひとつは、カールを取り巻く面々。今回はローセがムクレて帰ってしまったため、双子の姉ユアサが代役として登場します。これが何とローセ自身で、彼女は二重人格だったというオチ。アサドは、アラブ人の警察職員と大喧嘩をしてシーア派であるあることが判明し、カンフー?を披露し、この人物の謎は深まるばかり。今回もこのふたりの助手が大活躍し、事件を解決に導きます。

 カールは、「ステープル釘打機事件」で首から下が麻痺した元同僚ハーディを自宅に引き取り、下宿人モーデが介護。ハーディの活躍はありませんが、ゆくゆくは「アームチェア・デティクティブ」として活躍しそう。義理の息子のイェスパも健在で、血のつながらない4人が「家族」となります。元鑑識係ラウアスンが登場し、ボトルメールの解読に協力します。ラウアンスは、宝くじを当てて警察を辞め、投資に失敗して無一文となってコペンハーゲン警察の食堂で働いているという設定。カールの周りは奇人変人ばかり。『キジ殺し』で離婚したセラピストのモーデとの恋はどうなったのか? →見事射止めます。

 面白さに釣られて3冊読みました。特に本書は1日半で読了。食事と駄犬の散歩と風呂以外ずっと読書。シリーズ第4冊も発注したので、引きこもりになりそうです(笑。

タグ:読書
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