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映画 クワイエット・プレイス(2018米) [日記(2019)]

クワイエット・プレイス [AmazonDVDコレクション]  エイリアンの地球侵略ものです。少し変わっているのは、このエイリアンは視覚でも嗅覚でもなく(盲目)、発達した聴覚で獲物(すなわち人間)を狩るというエイリアン。人類は音をたてず声をひそめ地下室に籠もり滅亡の淵にあるという設定です。従って登場人物の会話は手話、映画はほぼサイレント。
 エイリアンものですが、描かれるのは「家族」です。叫ぶ呻く泣くという感情の原初的な表出が出来ず、言葉を奪われた中で家族はどうやって絆を結ぶのか?、これもテーマです。

 父母と三人の子供が物資調達の帰路、4歳の次男が玩具を鳴らしたためエイリアンに襲われ亡くなります。画面をかすめるように登場したエイリアンは、終盤でその姿を現すまで全貌は分からず、恐怖の源泉としてこの映画を支配し続けるという構図です。出るぞ出るぞでも出ない、という観客の想像力に訴えるホラーの常道を使い、音を立てれば、声を出せば襲われるという恐怖を、サイレントで増幅しようというのがこの映画のミソ。

 その恐怖が臨月の母親のエミリー・ブラントに凝縮されます。出産の苦痛で叫び声をあげればエイリアンが襲ってきます。赤ん坊が生まれれば、当然赤ん坊は泣き、エイリアンが襲ってきます。母親はどうやって出産し赤ん坊を守ったのか。答えは花火。父親は息子に花火をあげさせ、エイリアンを家から離れた場所に誘導し、その間に赤ん坊は無事産まれます。

 ネタバレ...。全編通じて「音」がキーワード。エイリアンは音を頼りに人間を襲うという習性を逆に使い、音を使ってエイリアンから逃れ、音でエイリアンを撃退します。聴覚の発達したエイリアンは、コウモリように人間の可聴範囲を超える音を発し、その反射で対象を識別しています。これに気づいた長女は、超音波を使って家に侵入したエイリアンを撃退し、母親はひるんだエイリアンを銃で撃ち殺します。銃声を聞きつけてエイリアンの群れが家に集まってくるシーンで、幕。to be continuedというわけです。

 なかなか良く出来た映画で、おすすめです。ヒットしたようで、キリアン・マーフィー、ジャイモン・フンスーを迎えて続編が2020年3月に公開されるようです。

監督:ジョン・クラシンスキー
出演:エミリー・ブラント ジョン・クラシンスキー ミリセント・シモンズ

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白井 聡 国体論 ―菊と星条旗―  (2018集英社新書) [日記(2019)]

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)
 2022年には、明治維新から敗戦までの時間(近代前期)と敗戦から現代までの時間(近代後期)が同じなります。ちなみに2018年は明治維新150年にあたります。1945年の敗戦によって近代前期の国体「天皇制(絶対主義)」は終り、日本は民主主義国家に生まれ変わったと云うのが常識です。本書は、近代前期の国体が姿を変えて(モデルチェンジして)近代後期も続いているのだと言います。「元首ニシテ統治権を 総攬 」する天皇は、「象徴」としての天皇に代わりますが、天皇は引き続き存在してきたわけですから、「天皇制」を国体と言うなら国体は戦前戦後を通じ続いているとも言えます。
 近代前期の国体の形成→発展→崩壊を分析し、近代後期の国体の行く末を見極めようというのが本書です。近代後期の国体は何処へ向かっているのか、敗戦のような悲惨な結末を迎えようとしているのか、というわけです。
 
章立て
第一章 「お言葉」は何を語ったのか
第二章 国体は二度死ぬ
第三章 近代国家の建設と国体の誕生 (戦前レジーム:形成期)
第四章 菊と星条旗の結合 (戦後レジーム:形成期①)
第五章 国体護持の政治神学 (戦後レジーム:形成期②)
第六章 「理想の時代」とその蹉跌 (戦後レジーム:形成期③)
第七章 国体の不可視化から崩壊へ (戦前レジーム:相対的安定期~崩壊期)
第八章 「日本のアメリカ」ー「戦後の国体」の終着点 (戦後レジーム:相対的安定期~崩壊期)
終 章 国体の幻想とその力

国体護持の政治神学
(第五章)
 戦争終結のポツダム宣言を、日本は国体(天皇制)護持のため受け入れ、占領軍(アメリカ)は占領政策を円滑に進めるため天皇の権威を利用します。この構図を著者は坂口安吾『堕落論(1946)』から引用します、

 
天皇制というものは日本歴史を貫く一つの制度ではあったけれども、天皇の尊厳というものは常に利用者の道具にすぎず、真に実在したためしはなかった。
 藤原氏や将軍家にとって何がために天皇制が必要であったか。何が故に彼ら自身が最高の主権を握らなかったか。それは彼等が自ら主権を握るよりも、天皇制が都合がよかったからで、彼らは自分自身が天下に号令するよりも、天皇に号令させ、自分がまずまっさきにその号令に服従してみせることによって号令が更によく行きわたることを心得ていた。その天皇の号令とは天皇自身の意志ではなく、実は彼等の号令であり、彼等は自分の欲するところを天皇の名に於いて行い、自分が先ずまっさきにその号令に服してみせる、自分が天皇に服す範を人民に押しつけることによって、自分の号令を押しつけるのである。

 占領軍は、日本のこの古くからある国体と政体の政治のメカニズムを利用したのです。天皇と将軍の関係を、天皇と軍部に置き換えれば戦前の国家主義の日本となり、天皇とマッカーサーに置き換えれば民主国家日本となるわけです。「国体」は護持され、見事に「菊と星条旗の結合」が為されたことになります。ジョン・ダワーはこの民主主義を「天皇制民主主義」と呼んだそうです。

「庇護」から「収奪」へ
 本書では、敗戦から占領、新憲法の発布の過程は、「天皇制」という国体が「アメリカ制」という国体に「モデルチェンジ」した過程(永続敗戦レジューム)と捉えます。サンフランシスコ講和条約によって占領は終結しますが、同時に日米安保条約が結ばれ、「アメリカ制」国体が闊歩しだします。政治が自己を仮託する虚構(幻想)を国体と呼ぶなら、天皇がアメリカにすり替わったことは不思議でも何でもありません。

 このアメリカ制国体の下で、軍事費を減免された日本は経済発展を遂げ、アメリカの庇護の下「平和と繁栄」に酔うわけですから、アメリカ制国体を支える政権保守層はますます対米従属を政策の基本とします。対米従属の蹉跌の第1が、バブルの崩壊。1991年に始まるバブル崩壊以降日本の右肩上がりの成長は終わりを告げます。

冷静に見れば、西欧諸国やアメリカ合衆国と同様に・・・日本の国民経済が構造的に成熟することで高度成長が望めなくなった段階に入ったことを意味した。
戦後日本にとって、「経済成長」は「豊かになること」以上の意味を持っていた。・・・なぜなら、そこにこそ、敗戦という巨大な挫折からの民族の再起という、戦後日本の物語が懸けられていたからである。

さらに追い打ちをかけるのが、東西冷戦の終焉です(第2の蹉跌)。ソ連及び社会主義陣営の崩壊によって、アメリカが日本を庇護する理由は消滅します。

「日米構造協議」が始まるのは、1989年のことであるが、この流れは後に「日米包括経済協議」、さらには・・・TTP協定へと発展し、そこからアメリカが離脱したことにより今後は日米FTA協議へと展開することが有力視されている・・・
これらの協議では、公正な貿易によってアメリカの対日貿易赤字の削減を図ると称して、新自由主義的な政策の採用を強いる内政干渉的ですらある要求が突きつけられてきた。・・・
こうした推移が意味するのは、要するに、アメリカの対日姿勢の基礎が「庇護」から「収奪」へと転換したということである・・・
超大国の超大国たる所以は、衰退局面にあってもそのツケを他国に廻すことができるという点にある。

 久々に、刺激的で面白い本に出会いました。安倍首相がトランプに尻尾を振る理由が分かりました。尻尾を振った先にあるものが「収奪」だとすれば(ありえますねぇ)、背筋が寒くなります。世論調査では、政治に望むもののトップは常に経済あるいは景気です。物質的「豊かさ」を心の「豊かさ」に置き換えるという、パラダイムの転換の次期かもしれません(とは書いてませんが)。  パラダイムの転換を安倍政権に求めても無駄ですが。

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スタンダール 赤と黒(下) マチルド② 2007光文新訳古典文庫 [日記(2019)]

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)  続きです。20歳の若者との恋に酔うルナール夫人と比べると、マチルドは奇矯の一言に尽きます。愛していると言った翌日には無視し、つれなくした翌日にはまたジュリアンを誘い翻弄します。マチルドはジュリアンを愛しているわけですが、それを邪魔するのが彼女の自尊心で、ふたりは絶交と仲直りを繰り返します。マチルドの気まぐれに付き合うのはジュリアンならずとも読む方も疲れます。
 ジュリアンもまたマチルドに恋していたのかどうか?。貴族の娘と結婚して上流階級で成り上がろうと思ったわけではなく、マチルドに仕掛けられたから受けて立とう、彼女をモノにして支配階級に一泡吹かせてやろうという身分コンプレックスが動機です。

 ジュリアンは、ロシア貴族から「恋愛必勝法」の手ほどきを受け、53通のラブレター・サンプルを貰い受けます、これは結構笑う話です。「当て馬」を使いマチルドを嫉妬させようという作戦。ジュリアンはラ・モール伯爵邸のサロンに集う夫人の中で、結婚1年で夫を亡くした元帥夫人を当て馬に選びます。53通のラブレターを送り、マチルドの眼を見ずマチルドに聞こえるように元帥夫人をかき口説きます。努力のかいあって、マチルドはジュリアンに屈服。ここでマチルドを許せば驕慢がまた頭を持ち上げる、そう考えるジュリアンは容易にシッポを振らず、マチルドに保証を要求します。一緒にロンドンで暮らそうと彼の気を引きますがジュリアンは応じません。

 そんな折、究極の「保証」が出来します、なんとマチルドが妊娠します。

これこそ保証じゃないかしら? 私は永遠にあなたの妻です。
そう聞かされてジュリアンは愕然となった。

 やはりジュリアンは愕然とするわけですね。妊娠がマチルドを変えます。父親ラ・モール侯爵に打ち明けて結婚を認めさせようとします。侯爵は怒り心頭。ジュリアンを秘書として重用し、貴族のサロンに出入りできるまで引き上げてやったわけですから、これは裏切り、恩を仇で返す行いだというわけです。いずれはマチルドを貴族の若者と結婚させ公爵夫人にすることを夢見ていたのに、あろうことか、平民のそれも使用人ふぜいと...この人でなしめ!。
 妊娠したマチルドは変わります。

あの人が死ねば私も死にます!・・・

 ジュリアンは暗殺されるかも知れない。もしジュリアンが死ねば、ソレル夫人として喪服を着てパリ中にふたりの関係をバラしてやる!と父親を脅します。ラ・モール侯爵は渋々折れて婚姻を認め、ジュリアンに従男爵・軽騎兵中尉の地位を用意します。
 ジュリアンの身元紹介の調査が行われ、ルナール夫人から手紙が届きます。手紙には、ジュリアンは家庭に入り込み、女性を誘惑して一家の財産を乗っ取る非道の男であるあることが記されています。教会の告解師によってルナール夫人が書かされたもので本心ではありません。ジュリアンがルナール夫人を誘惑したことは事実ですが、上流階級で町長のルナール氏の鼻をあかすためであり金銭目的ではありません。動機はどうあれ、ジュリアンはルナール夫人との恋に酔い、マチルドとの恋の駆け引きの最中でも常にマチルドとルナール夫人を比べ、思い出に浸っていました。
 この手紙を読んでジュリアンは直ちにヴェリエールに戻り、拳銃でルナール夫人を撃ちます。

 ジュリアンは何故ラモール夫人を殺そうとしたのか?。スタンダールは侮辱されたから書いていますが、読者としてはイマイチ納得できません。マチルドの妊娠で愛の「保証」を手に入れ、ラ・モール侯爵から大金と準男爵の地位を手に入れ、念願の貴族への階段を駆け上ったわけです。殺人をおかせば野望は一瞬にして潰えます。それを犠牲にしてまでルナール夫人を殺す必要があったのか?。ジュリアンは逃げようともせずむざむざと捕まり、まるで死刑を望むかのように、我を忘れた激情からの殺人ではなく計画した殺人であると証言します。
 ジュリアンがラモール夫人を殺したかったのではなく、スタンダールがジュリアンを殺したかったのです。欲しかったのはジュリアンの首であり、描きたかったのはジュリアンではなくマチルドです。この事件でマチルドの自尊心に火がつきます。あらゆる伝手を頼ってジュリアンを死刑から救おうとしますが、

あの人が死んだら、私もあとを追おう・・・私ような身分の娘が、死刑を宣告された恋人をこれほど愛しているのを見たら、パリのサロンではなんというかしら? こんな愛情を見つけるには、英雄たちの時代までさかのぼらなければならない。シャルル九世やアンリ三世の時代、人々の胸をときめかせたのは、こんな種類の恋だったはずよ

さすが、処刑された愛人の生首にキスした王妃マルグリットの名を受け継ぐマチルドです。ジュリアンは処刑され、マチルドはギロチンで切り落とされた首にキスします、La fin。

 スタンダールは何を描いたのか?。『赤と黒』は1830年の七月革命を予告した小説だそうです。美貌と頭脳で階級の壁を崩そうとする若者が主人公ですが、一方で光るのはマチルド。七月革命で消え去るジュリアンが倒そうとした貴族階級の娘ですが、七月革命を予告したのは実はマチルドかもしれません。
自由の女神.jpg ドラクロワ『民衆を導く自由の女神』 


赤と黒(上) 、(下)  

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嫌韓は高齢者に多いのか? [日記(2019)]

 先日「申維翰と元駐日韓国大使」をblogにupしましたが、これも「嫌韓」の一種なんではなかろうかと思っています。「なぜ嫌韓は高齢者に多いのだろうか(2019.05.18)」(澤田克己・外信部長)という毎日新聞のコラムが言う「高齢者」ですから。blogでは「宗教」と「政治」は書かないようにしているのですが、最近の日韓関係は面白いのでつい...「もの言はぬは腹ふくるるわざなれば」です。

 筆者・澤田克己は、世論調査の「韓国に親しみを感じる」の回答が18~29歳では57.4%、70歳以上では28.1%という結果から嫌韓に「世代」を持ち込み、「高年齢層の方が韓国に対して厳しいというのは一目瞭然でしょう」と結論づけます。その根拠を「経済的にも、政治的にも、日本とは比べものにならない小さく、弱い存在でした。それなのに、バブル崩壊後に日本がもたついている間に追いついてきて生意気なことを言うようになった。そうした意識が嫌韓につながっているのではないか」とし、高齢者が嫌韓に走る理由を、「定年退職した後に感じる社会からの疎外感というものも無視できないのかもしれません」とします。
 さらに、朝鮮学校への補助金支出問題の弁護士に懲戒請求を出した人物の、「(定年後)社会に参加していない、疎外されているようなところがあった。自分は社会とつながっているんだという自己承認を新たにしたというような意識が働いて、一線を越えてしまったのではないか」という発言(反省?)を引用して「高齢者=嫌韓」論を補強します。高齢者が嫌韓でもいいのですが、その根拠を「定年後の疎外感」とすることは如何なものか。当然コラム炎上したようです。
 昨今の「日韓問題」ほど面白い政治ショーはありません。高齢者は時間があるので(要はヒマなので)新聞、雑誌、ネットなどでマメに情報収集し、ヒマな高齢者が煽られて嫌韓となる、とでも結論付ければ、炎上も無かったでしょう。
 ひょっとして、徴用工訴訟、自衛隊機レーダー照射問題、韓国国会議長の天皇を持ちだした発言などに憤る毎日新聞の記者が、高齢者をダシに自分の嫌韓を「吐露」したコラムなんじゃないか?(笑。もう少し取材を続けてみたい、と澤田克己・外信部長は書いていますから、嫌韓=高齢者を証明してほしいものです。

タグ:朝鮮・韓国
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緊急速報メール [日記(2019)]

Screenshot_20190905_110507_com.android.cellbroadcastreceiver.jpg 緊急通報.jpg
 5日の11時過ぎスマホが派手に鳴り、何だろうと思ったら「緊急速報メール」。何しろ東南海地震があってもおかしくない地域に住んでいるので、ギョ!。幸い訓練でした。何しろ東南海地震があってもおかしくない地域に住んでいるので、ギョ!。幸い訓練で、検索すると大坂880万人訓練のエリアメールだそうです。驚きましたが、Huawei+格安simでも緊急メールが受けられることが分かっただけでも大収穫。
 我が家は高台にあり、津波の危険はありませんが、日頃の心構えが出来ていないので、緊急メールが届いてもきと右往左往するだけでしょう。これを機会に地震対策やらないと...。

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映画 レッド・リーコン 1942 ナチス侵攻阻止作戦 (2015露) [日記(2019)]

レッド・リーコン1942 ナチス侵攻阻止作戦 [DVD]  原題”A zori zdes”「そして夜明けはここにある」。amazonのPrimVideoで観たロシア映画、邦題通り「大祖国戦争」でナチスと戦うソ連軍の話です。

 ヴァスコフ曹長が率いる高射砲2門の小さい兵営の話です。敵も現れないので、兵士は村の娘と懇ろになり酒を飲んで喧嘩ばかり。業を煮やしたヴァスコフは、酒を飲まない兵士を送れと司令部に要求し、やってきたのは何と女性兵士の一団。女性兵士といえどソ連の兵士は勇敢。ドイツの爆撃機が飛来するや、高射砲で撃ち落とします。指揮を取るのがオシャニーナ伍長。

 前半、女性兵士たちの来歴が語られます。リザヴェータ・ブルチキナは富農(クラーク)の娘で、ロシア革命で一家はシベリアに追放され軍に投じます。オシャニーナの夫はドイツ軍の侵攻で夫は戦死、1歳半の息子を母親に預け赤軍伍長となります。コメルコワは将軍の娘で、既婚者の中佐と道ならぬ恋の末兵士となり、ジェーニャは家族をナチスに虐殺され、ユダヤ人のグルヴィイッチは一家は強制収容所に送られ恋人を「大祖国戦争」で失い、チェトヴェルタクは孤児。いずれも歴史に翻弄された女性たちが兵士となって祖国のために戦うという設定。女性が社会進出する共産国ならではの戦争ものです。
 彼女たちを率いるヴァスコフは職業軍人。看護師と結婚し息子を得ますが、負傷し病院に入っている間に妻は駆け落ちして離婚、母親に預けた一人息子は病で亡くなるという過去を抱えています。

 オシャニーナが森で2人のドイツ軍斥候を発見し、後方撹乱を目的とするゲリラと考えたヴァスコフは、彼女たち5人を率いてドイツ兵を追います。『レッド・リーコン』は、曹長に率いられた女性兵士たちの物語です。
 ドイツ兵は2人ではなく機関銃で武装した16人。16人にヴァスコフに率いられた5人の女性兵士が戦いを挑みます。人数と武器で劣勢のヴァスコフ隊は、ドイツ兵を倒し機関銃を奪って戦います。武器不足ため弾だけ渡され、死んだ味方の兵士の銃で戦う『スターリングラード』を思い起こします。女性兵士はけなげに戦いますが、ひとりまたひとりと倒され、彼女達の死に、前半で描かれた過去がダブり戦争の悲劇を盛り上げます。死者1500万人ともいわれる独ソ戦のほんの小さな戦いですが、どの戦場でも兵士ひとりひとりが背負ったものの重さは変わらない。戦争映画の佳作、おすすめです。
The Dawns Here Are Quiet(1972)』のリメイクだそうです。

監督:レナト・ダヴレトヤロフ
出演: ピョートル・フョードロフ, アナスタシア・ミクルチナ

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申維翰と元駐日韓国大使 [日記(2019)]

 韓国を代表する知日派(らしい)の申珏秀(シンガクス)・元駐日韓国大使のインタビュー「こじれた日韓 韓国の論理」元駐日韓国大使が語る(8/28毎日)」という記事です。趣旨は、

「慰安婦合意」に関する解釈の違い、元徴用工への損害賠償の支払いを日本企業に命じた昨年10月末の韓国大法院判決に対する両国の反応は、両国の認識の違いを端的に表すものだ。

とした上で、

関係悪化の原因として、韓国と日本の間で「法と正義」の観念が違うことが挙げられる。日本は法に対してはまずは守るべきだという認識が強いのに対して、韓国では正義に反する法は守っていなくてもいいという考え方があり、そこにカルチャーギャップがある。(見出しは「『法の日本」』と『正義の韓国』」)

と分析し、

日韓関係をこれ以上悪化させないためにも、両国は現在の懸案を「凍結」させることが必要だ。日本側は韓国を輸出手続きで優遇する「ホワイト国」から外さないことが求められる(取材時点では韓国はホワイト国)。
 一方、韓国側は、徴用工判決で差し押さえた韓国国内の日本企業の資産を現金化する手続きの進行を止めるべきだ。

と結論づけます。「正義」という概念は、時代と民族によって異なり、正義が成文化されたものが法ですから、法は正義の従属物に過ぎませんが、「韓国では正義に反する法は守っていなくてもいいという考え方」があるとは恐れ入ります。韓国は法治国家ではないと言っていることになります。法が正義に合わないのであれば、民意によって選ばれた立法府が法を変えることが民主主義の基本です。このインタビューは毎日新聞の要請によって行われたと思いますが、元駐日韓国大使は、現在の「半日」という正義の前では本音を言えなかったわけです。「正義」に抵触しないよう「カルチャーギャップ」と表現し、ホワイト国外しと日本企業の資産の現金化に反対し、日本企業と請求権資金で成立した韓国企業と韓国政府で徴用工支援基金を作ること(韓国政府の主張)を提案します。ラストで、慰安婦財団の解散を踏まえ、そうは言っても上手く行かないだろうと嘆息が見え隠れします。法律の上に「国民情緒法」が乗っているわけです。

 『海游録』の著者、朝鮮通信使・申維翰と彼らを受け入れた雨森芳洲の関係(司馬遼太郎 壱岐・対馬の道)を思い出しました。『海游録』にはふたりの友情が記されているとしたうえで、要所要所では、抽象的ながら、雨森が悪党でもあるかのように書いている、と司馬遼太郎は書きます。これは、

申維翰は保身のためにこのように書いたとも考えられる。倭奴(ウェノム、日本人の蔑称)の一小吏と仲良くしたという印象を読み手に与えないように、ことさらに『海游録』の末尾に、それまでの雨森の印象を、墨で消すようにして、このように唐突に評したのではないか。後で政敵から攻撃されるかもしれない理由と危惧をこんなかたちで消しておいたかと思われる。

というのが司馬遼さんの理解で

朝鮮と日本の関係は、時に個人レベルでの友情も成立させ難いほどに難しい。そのことがすでに十八世紀初頭から存在していたのである。

と嘆息しています。元駐日韓国大使・申珏秀氏のこれが精一杯の友情の表現だったのでしょう。

タグ:朝鮮・韓国
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スタンダール 赤と黒(下) マチルド① 2007光文新訳古典文庫 [日記(2019)]

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)
 続きです。ジュリアンは、夫人との不倫騒動でルナール家を追い出され、舞台はパリのラ・モール侯爵邸に移ります。

マチルド
 ルナール夫人に続いてジュリアンの前に現れるのが、ラ・モール侯爵の娘マチルド。マチルド・マルグリットは、200年前、政治事件で死刑となった愛人(ラ・モール家の祖先)の生首を執行人から取り戻した王妃マルグリットの名を受け継ぐ、誇り高い女性。この生首のエピソードは、マチルドという女性の(物語上の)位置づけとともに後の展開と関わってきます。スタンダールは、優しさに満ちた30歳のルナール夫人とは正反対の、勝ち気で才気活発な19歳の美女を登場させます。

 ラ・モール侯爵邸のサロンには若い貴族が集い、誰もが美しいマチルドを狙うわけです。ところがマチルドの眼には、この流行りの服をまとった貴族のお坊っちゃん達は退屈な俗物としか映らず、ラ・モール家の召使いに過ぎないジュリアンに如何にも気があるかのような素振りで近づきます。ジュリアンの何が彼女を惹きつけたのか。美貌と知性、気の利いた会話など貴族のお坊っちゃんに無いものを持っていますが、マチルドにとって重要だったのは、ジュリアンが平民出身の召使いだったことです。マチルドは、貴族の若者とのありふれた恋ではなく、常識を覆す情熱的な恋を夢見ていたことなります。

〈とにかく彼女はきれいだ!〉ジュリアンは虎のような目つきで考えつづけた。〈あの娘をものにして、それから出ていくことにしよう!〉

 貴族の令嬢という獲物が向こうから飛び込んで来た!、だから「虎」です。ルナール夫人を誘惑したモチベーションと似たようなもの。ジュリアンにとっては、支配階級の女性ということが重要なポイント。マチルドの兄よってジュリアンはこうも評されます、

あの青年には注意したほうがいい、エネルギーあふれる男だ。また革命が起こったら、あいつはぼくらをみんな、ギロチン送りにするだろう。

王政復古当時、貴族階級はエネルギーを失っていたわけです。

 「虎」になったものの、ジュリアンはマチルドの本心が分からず、悶々とします。これは罠ではないか悪質なイタズラではないかと疑心暗鬼。平民、使用人の身分から来る僻みです。マチルドはマチルドでジュリアンの気持を推し量りかね、これも悶々。ジュリアンがラ・モール侯爵の領地を見回る長期出張前日、焦ったマチルドは、

今晩お手紙を差し上げますわ。

 身分制度のやかましいこの時代、貴族の娘が平民のしかも使用人の男に手紙を書くなどもっての外。おまけに手紙は恋の告白!。ジュリアンは、マチルド心を射止めたことより、彼女を取り巻く貴族たちに勝ったことに喜びを見出し、

(平民の)ぼくが、せっかくお楽しみが舞いこんだのに拒むことがあるか!凡々たる人生の焼けつく砂漠を、苦労して横断する身としては、渇きをいやしてくれる清冽な泉に出会ったようなものだ! ぼくだって、それほどばかじゃない。人生というエゴイズムの砂漠では、だれだって自分が大事なんだ。

ああいう言葉も、悪気のない策略かもしれん。・・・
甘い言葉を信用するわけにはいかない、
憧れのあの人が少しは愛のしるしを示し、
言葉の真実を保証してくれるものでない限りは
      モリエールの戯曲『タルチェフ』第4幕第5場
これから始まる戦いでは、家柄に対する誇りが、小高い丘のように立ちふさがって、彼女とぼくのあいだの戦略上の要地となるだろう。

戦いに例えるあたりはナポレオン信奉者のジュリアンらしいです。ジュリアンはマチルドを諌め、行きもしない長期出張する旨の手紙を書き、これにマチルドが反応します。

深夜一時の鐘が鳴ったら・・・井戸のそばに、庭師の大梯子がありますから・・・私の窓に立てかけて、上がってきてください。

 ジュリアンはルナール夫人を誘惑し梯子使っての部屋に忍び込みました。マチルドとの恋はこの裏返し。マチルドが ジュリアンを誘惑し、梯子で忍び込めと誘うわけですから、ふたつの恋は真逆。ジュリアンは未だ罠の疑惑を捨てきれず、ポケットに拳銃を忍ばせて忍び込みます、<まるで決闘に出かけるようだな>
 ジュリアンを部屋に招き入れても、マチルドの心境は複雑。ジュリアンの「せっかくのお楽しみ」を嗅ぎつけ、誇り高いマチルドは、彼を「主人」とすることに抵抗をおぼえます。とても「ロメオとジュリエット」とはいきません。で、ふたりの恋愛は行きつ戻りつ。

 マチルドは彼の話を聞きながら、その勝ち誇ったような調子に気分を害した。<いまではこの人が私の主人なのだわ!>と彼女は思った。早くも後悔に苛まれていた。とんでもない気違い沙汰ををしでかしたものだと、彼女の理性はふるえあがった。

 でマチルドは絶交を宣言します。絶交だと言われてジュリアンは彼女を愛し始めます。この辺りの機微は、生涯独身を通し幾多の愛人を作って『恋愛論』を書いたスタンダールですから、手慣れたものです。
 ふたりはラ・モール邸の図書館で再会します、

それではもう、ぼくを愛していないのですね?
だれでもいい、という気持ちになってつい身をゆだねてしまったことが、我慢ならないのです。
だれでもいいだって!(これは強がり)

ジュリアンは壁に掛かった古い剣をとります。

<私、ひょっとして、愛人に殺されるところだったんだわ!>と彼女は思った。そう思うと、シャルル九世やアンリ三世の素晴らしい世紀に運ばれるような心地がした。

 処刑された愛人の生首にキスした王妃マルグリットの名を受け継ぐマチルドですから、16世紀、宗教戦争のフランス血なまぐさい英雄たちの時代に憧れていたのです。


 赤と黒(上) 、(下)  

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