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白井 聡 国体論 ―菊と星条旗―  (2018集英社新書) [日記(2019)]

国体論 菊と星条旗 (集英社新書)
 2022年には、明治維新から敗戦までの時間(近代前期)と敗戦から現代までの時間(近代後期)が同じなります。ちなみに2018年は明治維新150年にあたります。1945年の敗戦によって近代前期の国体「天皇制(絶対主義)」は終り、日本は民主主義国家に生まれ変わったと云うのが常識です。本書は、近代前期の国体が姿を変えて(モデルチェンジして)近代後期も続いているのだと言います。「元首ニシテ統治権を 総攬 」する天皇は、「象徴」としての天皇に代わりますが、天皇は引き続き存在してきたわけですから、「天皇制」を国体と言うなら国体は戦前戦後を通じ続いているとも言えます。
 近代前期の国体の形成→発展→崩壊を分析し、近代後期の国体の行く末を見極めようというのが本書です。近代後期の国体は何処へ向かっているのか、敗戦のような悲惨な結末を迎えようとしているのか、というわけです。
 
章立て
第一章 「お言葉」は何を語ったのか
第二章 国体は二度死ぬ
第三章 近代国家の建設と国体の誕生 (戦前レジーム:形成期)
第四章 菊と星条旗の結合 (戦後レジーム:形成期①)
第五章 国体護持の政治神学 (戦後レジーム:形成期②)
第六章 「理想の時代」とその蹉跌 (戦後レジーム:形成期③)
第七章 国体の不可視化から崩壊へ (戦前レジーム:相対的安定期~崩壊期)
第八章 「日本のアメリカ」ー「戦後の国体」の終着点 (戦後レジーム:相対的安定期~崩壊期)
終 章 国体の幻想とその力

国体護持の政治神学
(第五章)
 戦争終結のポツダム宣言を、日本は国体(天皇制)護持のため受け入れ、占領軍(アメリカ)は占領政策を円滑に進めるため天皇の権威を利用します。この構図を著者は坂口安吾『堕落論(1946)』から引用します、

 
天皇制というものは日本歴史を貫く一つの制度ではあったけれども、天皇の尊厳というものは常に利用者の道具にすぎず、真に実在したためしはなかった。
 藤原氏や将軍家にとって何がために天皇制が必要であったか。何が故に彼ら自身が最高の主権を握らなかったか。それは彼等が自ら主権を握るよりも、天皇制が都合がよかったからで、彼らは自分自身が天下に号令するよりも、天皇に号令させ、自分がまずまっさきにその号令に服従してみせることによって号令が更によく行きわたることを心得ていた。その天皇の号令とは天皇自身の意志ではなく、実は彼等の号令であり、彼等は自分の欲するところを天皇の名に於いて行い、自分が先ずまっさきにその号令に服してみせる、自分が天皇に服す範を人民に押しつけることによって、自分の号令を押しつけるのである。

 占領軍は、日本のこの古くからある国体と政体の政治のメカニズムを利用したのです。天皇と将軍の関係を、天皇と軍部に置き換えれば戦前の国家主義の日本となり、天皇とマッカーサーに置き換えれば民主国家日本となるわけです。「国体」は護持され、見事に「菊と星条旗の結合」が為されたことになります。ジョン・ダワーはこの民主主義を「天皇制民主主義」と呼んだそうです。

「庇護」から「収奪」へ
 本書では、敗戦から占領、新憲法の発布の過程は、「天皇制」という国体が「アメリカ制」という国体に「モデルチェンジ」した過程(永続敗戦レジューム)と捉えます。サンフランシスコ講和条約によって占領は終結しますが、同時に日米安保条約が結ばれ、「アメリカ制」国体が闊歩しだします。政治が自己を仮託する虚構(幻想)を国体と呼ぶなら、天皇がアメリカにすり替わったことは不思議でも何でもありません。

 このアメリカ制国体の下で、軍事費を減免された日本は経済発展を遂げ、アメリカの庇護の下「平和と繁栄」に酔うわけですから、アメリカ制国体を支える政権保守層はますます対米従属を政策の基本とします。対米従属の蹉跌の第1が、バブルの崩壊。1991年に始まるバブル崩壊以降日本の右肩上がりの成長は終わりを告げます。

冷静に見れば、西欧諸国やアメリカ合衆国と同様に・・・日本の国民経済が構造的に成熟することで高度成長が望めなくなった段階に入ったことを意味した。
戦後日本にとって、「経済成長」は「豊かになること」以上の意味を持っていた。・・・なぜなら、そこにこそ、敗戦という巨大な挫折からの民族の再起という、戦後日本の物語が懸けられていたからである。

さらに追い打ちをかけるのが、東西冷戦の終焉です(第2の蹉跌)。ソ連及び社会主義陣営の崩壊によって、アメリカが日本を庇護する理由は消滅します。

「日米構造協議」が始まるのは、1989年のことであるが、この流れは後に「日米包括経済協議」、さらには・・・TTP協定へと発展し、そこからアメリカが離脱したことにより今後は日米FTA協議へと展開することが有力視されている・・・
これらの協議では、公正な貿易によってアメリカの対日貿易赤字の削減を図ると称して、新自由主義的な政策の採用を強いる内政干渉的ですらある要求が突きつけられてきた。・・・
こうした推移が意味するのは、要するに、アメリカの対日姿勢の基礎が「庇護」から「収奪」へと転換したということである・・・
超大国の超大国たる所以は、衰退局面にあってもそのツケを他国に廻すことができるという点にある。

 久々に、刺激的で面白い本に出会いました。安倍首相がトランプに尻尾を振る理由が分かりました。尻尾を振った先にあるものが「収奪」だとすれば(ありえますねぇ)、背筋が寒くなります。世論調査では、政治に望むもののトップは常に経済あるいは景気です。物質的「豊かさ」を心の「豊かさ」に置き換えるという、パラダイムの転換の次期かもしれません(とは書いてませんが)。  パラダイムの転換を安倍政権に求めても無駄ですが。

タグ:読書
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