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高橋和巳 憂鬱なる党派 ① (1965-2016河出文庫) [日記(2019)]

憂鬱なる党派 上 (河出文庫)  私立女子高校の英語教師・西村は、突然職を捨て妻子を捨てて放浪の旅に出、学生時代の友人達の住む都市(大坂)にやって来ます。理由のない憤怒に駆られ、5年の歳月をかけた原爆で亡くなった36人の平凡な庶民の列伝を書き、それを出版するためです。大学を卒業して7年、主人公が「微笑と闘争、羞恥と屈辱に満ちていた学生時代」の友人と再会する物語です。西村が大阪を訪れるのは1960年頃と思われ、西村が学生時代を過ごしたのは1950年代半ば。卒業し社会に出て30代となった主人公たちが、学生時代を振り返るという設定です。

時代背景
 上巻の「作品の背景」にも触れられていますが、彼らが過ごした学生時代とは如何なる時代だったのか。

1945年:敗戦
1948年:全学連結成
1949年:中華人民共和国成立
1950年:日本共産党、非合法化、レッドパージ。コミンフォルムの共産党を批判により共産党分裂。警察予備隊設置。
1951年:サンフランシスコ講和条約、所感派、武装闘争路線へ(山村工作隊、中核自衛隊)
1952年:血のメーデー事件、吹田事件
1955年:六全協(武装闘争破棄)

 中華人民共和国成立によって連合国=アメリカの占領政策が変わり、日本共産党は非合法化されます。コミンフォルムによって日本共産党は平和革命路線を批判されから武装闘争路線に梶を切り、共産党は分裂します。大学自治会の連合体である全学連はこの武装闘争路線に加わり、血のメーデー事件、吹田事件などを起こし、1955年の六全協によって武装闘争路線は破棄されます。この「政治の季節」の学園に身を置いた政治青年たちの、過去と現在が語られます。

憂鬱なる党派人たち
西村:本編の主人公。卒業後郷里広島に帰り女子高校の英語教師となる。原爆で父母と妹を失っている。憤怒とに駆られ5年の歳月をかけて原爆で亡くなった36人の庶民の列伝を書き、出版するために妻子を捨てかつての友人を頼って来阪。学生時代は自由主義のサークル文学哲学研究会を組織。

古在:西村の旧制高校、大学の旧友。大学時代は京大共産党細胞の元キャップ、理論家。後除名されて西村のグループに加わる。現在は業界新聞の編集者、新聞社を労働者の自治組織へと変える運動を主導。

青戸:西村グループのメンバー。共産党系の自治会が潰れた後、自治会を牽引。大学に残り、現在は心理学科の気鋭の助手。社会変革は、革命ではなく職業人の専門領域の深耕によってしかなし得ないとするリアリスト。

岡屋敷:元共産党京大細胞のキャップ。党員として学生運動を指導。留置所、山村工作隊、労働会館・資料室を経て肺結核を病み病床にある。
日浦:ミッション系女子大から西村グループに加わった紅一点。30歳のオールドミスの学校教師。
藤堂:生命保険会社の外務員から本社の正規社員に転身。特攻兵あがりの異色の経歴を持つ西村グループのメンバー。敗戦による価値転換から政治を信じず、自らを怠惰で享楽的なノンポリと規定。
村瀬:共産党員。大学ストを扇動し停学となるが、西村グループ助けられる。吹田事件で起訴され退学、判決待ち保釈中。電力会社の僻地保守要員から、語学力を買われ本社の翻訳担当となるが退職。現在は町工場の工員。

蒔田:元共産党員。古在とともに除名され転向。熱心な就活が実って在阪の放送局に就職。

 文学哲学研究会と共産党京大細胞は、たまたまボックス(部室)が隣り合っていたため交流が生まれ、全学ストライキで停学処分となった村瀬等の救済活動通じて7人の交流が深まります。『憂鬱なる党派』とは共産党ではなく、この7人の政治青年グループを指します。
 西村が彼らを訪れることによって、7人はそれぞれ自らの青春の蹉跌と、青春が過ぎ去ったあとの苦い現実に向き合うことになります。
 続きます

タグ:読書
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