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木内  昇 新選組 幕末の青嵐 [日記(2019)]

新選組 幕末の青嵐 (集英社文庫)  「新選組」には、子母沢寛の三部作、司馬遼太郎の『燃えよ剣』『血風録』、浅田次郎の『壬生義士伝』などの名作が目白押し。時代劇ファンなら、新選組の成立から消滅まで大まかな知識はあります。この書き尽くされた感のある、読者にとっては常識ともなっている新選組をどう料理するかです。

 清河八郎の浪士組募集に近藤以下試衛館の面々が加わって京都を目指す新選組前史から、鳥羽伏見の戦いを経て五稜郭の土方の死まで、その消長が時間軸に沿って42のエピソードで描かれます。工夫のひとつは、例えば芹沢鴨の粛清事件で主人公は芹沢自身。清河八郎の裏切りで浪士隊は江戸に帰り、京都には近藤の試衛館組と芹沢一派の十数人が取り残されます。着の身着のまま、明日の食い扶持もままならぬ芹沢の、
京という都に佇んで我が身を思うと、己の矮小さを突きつけられる気がした
などと云う独白を聞かされると、傲岸で乱暴、無軌道な芹沢鴨のイメージが崩れてしまいます。芹沢は京都守護職・松平容保に嘆願書を出して会津藩という後ろ盾を得ますから、新選組を作ったのは芹沢鴨ということになります。(壬生浪士組 芹沢鴨)


 藤堂が山南切腹の真相を土方に問い詰めるシーンです。藤堂は、土方が殺したと思っているわけで、
ー土方を斬らねば駄目だ・・・握りしめた拳に汗が滲む。傍らに置いた大刀の位置を図る。目が、座している土方の袴を見る。間合いは三尺。
 ドン、と凄まじい音で床が鳴って、集中しきっていた藤堂は虚を突かれ、・・・
 斎藤が刀の鞘で床を突き藤堂の気を逸したのです。緊張と緩和、映画のワンシーンを見るようで上手いです。(焦燥 藤堂平助)

 脇役の永倉新八、斎藤一、原田左之助、井上源三郎などお馴染みの人物がエピソードの主人公として内面を吐露します。土方の本音は、同郷日野の井上源三郎によって語られます。新選組の消長の物語を、隊士のエピソードを積み重ねることで描こうというわけです。
 ストーリー展開は、やや軽忽だが将器のある近藤を頭に据え、土方が参謀として組織作りを担うというお馴染みの構図です。時代物ですが、分派活動に走った伊東甲子太郎の暗殺あたりになると現代風サスペンスです。土方は、永倉と斎藤を近づけて伊東を安心させ、御陵衛士が結成されると、伊東に心服している永倉を戻し寝返る心配のない斎藤をスパイとして送り込みます。勤王に走った伊東から薩長の情報が新選組に流れるという諜報ルートを作り上げます。策士、参謀、土方歳三の面目如実です。結局、伊東は新選組によって暗殺されることになります(油小路事件)。

 気になったので主要人物の年齢を調べてみました(wikipedia)。1864年の池田屋事件当時の年齢です。
 近藤勇(30歳)、土方歳三(29歳)、山南敬助(31歳)、沖田総司(22歳)、永倉新八(25歳)、斎藤一(20歳)、井上源三郎(35歳)、藤堂平助(20歳)、原田左之助(24歳)。
 もう少し歳をとっていたと思っていましたがいずれも若いですね。沖田総司が22歳とは以外。もっと若いと思っていたのですが、22歳で子供と壬生寺の境内で子供と遊ぶ天真爛漫は小説通りでしょう。藤堂平助と『一刀斎夢録』の斎藤一がナント二十歳。二十歳そこそこの若者が京洛の巷で剣をふるっていたことになります。京都で火炎瓶を投げていたのも二十歳前後の若者ですから、辻褄は合ってます(笑。何より驚くのは、新選組結成から崩壊までわずか5年。新時代の到来に背き、反革命の人斬り集団・新選組に惹かれるのは、幕末を疾風怒濤の如く駆け抜けた彼等の短い青春にあるのでしょう。

 女性が登場せず京都の風土が希薄なところはやや不満ですが、1日半で読了したのですからそれなりに面白いです。木内  昇(のぼり)さん、女性なんですね。格好の「新選組」入門書かもしれません。

タグ:読書
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