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映画 イコライザー(2014米)、イコライザー2(2018米) [日記(2019)]

イコライザー [AmazonDVDコレクション] イコライザー2 [AmazonDVDコレクション] イコライザー
 原題" The Equalizer"。ホームセンターの店員マッコール(デンゼル・ワシントン)の勧善懲悪の物語。マッコールは、ナプキンの角を揃えて折るような几帳面な性格で、生活はシンプルで菜食主義?という修道士の様な生活。夜半ダイナーに出掛けて読書、それも亡くなった奥さんの影響で「読むべき100冊」という定番の本を91冊まで読み進めたいう教養主義。
 マッコールは、ダイナーで歌手を目指すロシア人の売春婦アリーナ(クロエ・グレース・モレッツ)と出会います。きっかけはマッコールの読んでいた『老人と海』。マッコールは、アリーナを売春組織から救い出すため、ロシア・マフィアと戦い、28秒で5人の男を倒します。このマッコールの”静”と彼が振るう暴力の落差が『イコライザー』魅力です。並外れた格闘技と殺人技術を持つマッコールは、実はCIAの元エージェント。5人の男を殺されたマフィアは幹部(マートン・ソーカス)をアメリカに派遣し、マッコールvs.ロシア・マフィアの抗争の幕が開きます。両者の対決が、マッコールの勤務先、ホームセンターというところは面白い。但し、決戦の場をマッコールのホームグランドに選んだのはマフィアの失敗。ホームセンターには人を殺傷する武器が沢山あるわけで、最後は釘打機を使ってマフィアの幹部にトドメを刺さします。
 『イコライザー』の面白さは、静と動の落差とともに、CIAの元エージェントとホームセンターの店員という落差です。街の鍼灸師”藤枝梅安”が裏では暗殺を請け負う仕事人だった、という面白さです。

イコライザー2
 『イコライザー』でホームセンターの店員だったマッコールは、続編ではタクシーの運転手。ここでも世の為人の為、せっせと悪を退治します。トルコまで出かけて誘拐犯から子供を取り戻すんですが、そこまでやる?みたいなところもあります...。脇役として”1”では警備員を目指す同僚が登場しストーリーを飾りますが、"2"ではこの役目は同じアパートに住む悪の道に踏み込もうという高校生。相変わらず本は手放せず、今度は『失われた時を求めて』。
 ”1”で登場したCIAの元同僚スーザン(メリッサ・レオ)が殺され、その犯人探しと敵討ちが"2"の主なストーリー。この事件でマッコールの過去が明らかになります。マッコールはスーザン殺害の真相を探るためCIAの元同僚デイブ(ペドロ・パスカル)と接触します。デイブはマッコールはとともに作戦に従事し、マッコールは爆発事件で殉職を偽装してCIAを抜けたことが明かされます。
 マッコールは、スーザンのIDを使ってCIAから彼女の殺人に関する調書をダウンロードし調査を始めます。犯人を操る黒幕が浮かび上がり、マッコールにも暗殺の手が伸びます。
 続編というのは難しいです。敵役も、”1”の全身に刺青を入れ暴力の塊のようなマフィアの幹部テディに比べ、CIAの殺し屋デイブはスケールが小さい。スーザン暗殺からマッコールの過去を引き出し、CIAのハ殺し屋デイブに繋げる辺りはナルホドと思うのですが、マッコール暗殺の動機が保身とは軽すぎます。

 アクション好きにはまぁまぁお薦め。さて『イコライザー3』はあるのか?。

監督:アントワーン・フークア
出演:デンゼル・ワシントン

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高村 薫 我らが少女A (2019毎日新聞出版) [日記(2019)]

我らが少女A 髙村薫 我らが少女A 挿画集  高(髙)村 薫の最新作にして待望の合田雄一郎シリーズです。合田雄一郎は2011年『冷血』で警視庁第二特殊犯捜査係の係長以来、7年振りの登場となりま。本書の2017年の時点では、捜査の現場から外れ警察大学校の教授に転出しています。『マークスの山』で登場した合田も還暦まであと3年の57歳、ヒーローも、作者も、そして読者も歳を重ねたことになります。

 発端は、2005年、三鷹、小金井、調布にまたがる野川公園で、府中市に住む元中学校美術教師・栂野節子が撲殺された迷宮入り事件。12年後の2017年、栂野節子が開いていた水彩画教室の生徒上田朱美が都内で同棲相手に殺されます。朱美が栂野節子殺害現場で拾った絵具のチューブを持っていた、という同棲相手の証言から、迷宮入り事件の再捜査が開始されます。上田朱美の殺人事件は、栂野節子殺人事件の捜査指揮をとった合田に伝わり、合田が乗降する西武多摩川線多摩駅に勤務する小野雄太、朱美の友人で節子の孫真弓、朱美をストーカーするADHD(注意欠如多動性障害)の浅井忍たち当時15歳だった少年少女たちを覚醒させ、真弓の母雪子、朱美の母亜沙子までもが覚醒します。

 上田朱美が殺され、彼らのなかに朱美の存在が影を投げかけます。朱美とは何者だったのか?。朱美は、”前方宙返り”と”回し蹴り”が得意で長身でやせ形、いつもウィンドブレーカー、ジーンズにスニーカー、ショートカットでボーイッシュ、眼に力があるらしい。20年若かったら確実に惚れていたと合田は言い、加納は「この娘!『愛の嵐』のころのシャーロット・ランプリングだー」と言う。”援交”や下着を売って小遣いを稼ぐ不良少女朱美は、死んでもなおエロスの磁場で男どもを絡め取り、朱美の扇情的な写真が”少女A”としてSNSで拡散します。栂野節子殺人事件から12年、雄太が、真弓が、忍が、雪子が、亜沙子が、そして合田雄一郎が、記憶の彼方から蘇った朱美はという太陽の周りを朱美の光を反射する惑星となって廻り始めます。

 本書の特徴のひとつはネット世界。『冷血』では、ネットの求人サイトで知り合った男たちが企む犯罪でした。『我らが少女A』の背景はスマホゲーム、facebook、twitter、lineの電脳世界。メールが飛び交い、タイムラインが流れ、ぷよぷやドラクエXⅢやカードゲームがスマホの画面を埋め、ゲームのキャラクターが現実を侵す世界。警察もまたSNSを凝視し、公用照会でフォロワーの素性を割り出すという世界。
 ハッシュタグで検索し、見知らぬ誰かとネットワークが広がる世界がありますが、facebookやtwiterは使わない人間にとっては、この世界は埒外。ましてや、本書の主人公のひとり浅井忍がのめり込むオンラインゲームやeゲームの世界はチンプンカンプン。御年60半ばの高村センセイ、よくここまで調べましたね、と脱帽。
もうひとつの特徴が作者の視点、例えば

(栂野節子が殺された)武蔵野に2005年12月25日の夜明けが来る・・・
上田亜沙子は結局、イブの骨付きチキンなどを並べたまま、こたつの座椅子で短い眠りに落ち・・・
栂野雪子は、まるで大脳皮質のどこかが待ち構えていたかのように、階段を降りてゆく母の足音を聞きつけて目覚め・・・
早く起きなさい!朝練に行くんでしょ! 母親に布団をはがされて小野雄太はやっと起き出し・・・
また浅井忍は、夜明け前に忽然と目覚める。知らない部屋の知らない男子たちの雑魚寝なかから、這うようにして外に転がりでたが・・・

 武蔵野の半径数kmを舞台に、事件を俯瞰するように殺人事件の関係者は等質に描かれます。殺人犯を追い詰めるのでもなく、犯人がシッポを出すわけでもなく、彼らは上田朱美に囚われながらも、それぞれがそれぞれの2005年と2017年の日常を生きるだけ。合田や特命班は『栂野節子の人生と生活』という名のジグソーパズルを埋め、ダイヤグラムに関係者一人ひとりの行動を記しますが、パズルは拡散し、ダイヤグラムは栂野節子に行き着きません。犯人は誰か、動機は何かは明かされず、作者が描いたのは殺人事件に纏う事実の諸相だったことになります。作者の意図を真弓が代弁します、

小説や映画で、名探偵が得々として真犯人はおまえだと言い放つのとは違って、本ものの事件が暴く事実の一つひとつ、現実の一つひとつが自分たち身近な人間の皮膚を剥ぎ、臓腑をえぐる。何か新しい事実が分かっても、少しも嬉しくない。真相など分からないほうがいい。

 犯人も動機もどうでもいいわけです。ミステリーを書いたつもりはない、という作者の声が聞こえてきそうです。
 しかしながら、犯人が不明だとやはり欲求不満が残ります。朱美は節子が早朝にスケッチに行くことを知っています。節子に話があると手紙で呼び出されていますから、12月25日の早朝、家に帰るついでに節子と会い、諍いを起こして殺害に至ったと見ることも出来ます。亜沙子は、帰ってきた朱美から血の匂いを嗅ぎとっています。亜沙子は朱美の犯行を知って野川に出かけ、虫の息の節子を発見し、朱美を守るために頭部に致命傷を負わせた、というのが私の推理。勝手にホザケ、と作者にいわれそうですが...。

 久々の高村薫、合田雄一郎で面白かったです。『土の記』が未読なので、年内読んでみます。

タグ:読書
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映画 死霊館のシスター(2018米) [日記(2019)]

死霊館のシスター [DVD]  『死霊館』繋がりです、原題は”The Nun”修道女。死霊館シリーズのスピンオフ作品で、『死霊館 エンフィールド事件』に登場した悪魔のシスター「ヴァラク」のルーツに迫る前日譚らしいです。『死霊館』で登場したウォーレン夫妻(パトリック・ウィルソンとヴェラ・ファーミガ)がチラッと登場します。その関係か、ヒロインの修道女アイリーンを演じるタイッサ・ファーミガはヴェラ・ファーミガの妹とのことです。

 ルーマニアの修道院で修道女が自殺します。ルーマニアは「吸血鬼ドラキュラ」の故郷ですから、悪魔が出るには相応しい場所かも知れません。聖職者の自殺という由々しき事態に、バチカンの教皇庁は、調査のためバーク神父(デミアン・ビチル)と見習いの修道女アイリーン(タイッサ・ファーミガ)を派遣します。この修道院というのが中世に城主が悪魔降臨の儀式を行い、後にキリストの血で封印されますが、戦争の爆撃で封印が破られたという曰くつきの修道院。バーク神父は、悪魔祓いを専門とするエクソシスト。アイリーンは土地勘があるというので選ばれたのですが、ルーマニアに行ったことは無く、何故選ばれたのかは最後まで謎。
シスター アイリーン          悪魔降臨
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 自殺した修道女を発見した村の青年フレンチー(ジョナ・ブロケ)の案内で、ふたりは修道院に向かいます。この青年は、ルーマニア人の方が相応しいと思うのですが、何故かフランス系カナダ人。故に通称"フレンチー"と呼ばれるわけですが、何故フランス系カナダ人なのかは謎。悪魔に「フランス野郎」と呼ばれ、おれは「フランス系カナダ人だ」と啖呵をきりますがこのシーンのため?。笑わせるシーンがもう一箇所、アイリーン、バーク神父、フレンチーの三人がいよいよ悪魔と対決しようかというシーンで、フレンチーは「こういう時はお祈りとかした方がいいんじゃない?」、バーク神父は「今は神頼みをしている時ではない!行動あるのみだ」、「いざって時の神頼みはやはり必要だよ」、ナンダそれは。
 この三人で悪魔をやっつけ、地獄の扉をキリストの血で封印して一件落着となります。「キリストの血」そういうものがこの世には存在する?。『インディー・ジョーンズ』に登場する聖櫃、聖杯とか聖骸布など「聖遺物」の話です。それにしても血ねぇ、と思うのですが、日本にも「仏舎利」というのがありますから笑ってはいけません。で、悪魔は地獄に戻ったのか?、フレンチーの首に”逆さ十字”が浮かび上がり悪魔はフレンチーに憑依して修道院を抜け出したわけです、ホラーの定石で幕。

 中世から建つ曰く付きの修道院に修道女の幽霊が現れ、死体が生き返り、悪魔が登場します。いずれも黒の修道服姿。これを迎え撃つのが、白い修道服の若い見習い修道女アイリーン。”The Nun”のタイトルに相応しく全編これ「修道女」です。中世の修道院に幽霊や悪魔が現れるわけですから、ゴシック・ホラー、ゴシック・ホラー ファンにはお薦めの一編。

監督:コリン・ハーディ
出演:タイッサ・ファーミガ デミアン・ビチル

タグ:映画
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百均で盆栽 [日記(2019)]

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 盆栽など老人の趣味と思っていたのですが、今やワールドワイルドな園芸なんですね。鉢を買うと数百円するので、百均の陶器を流用してみました。底に水はけの穴が無いので、ドリルで挑戦したところ失敗。磁器ですから硬い。折れたドリルの刃、いちおう東芝ダンガロイと金槌で穴を開けます。散歩の途中雑木林で採集した極々小さい松、たぶん赤松と、庭に生えている苔で掌に乗る盆栽未満をでっち上げました、見えます?。

タグ:絵日記
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李栄薫 反日種族主義 日韓危機の根源 ② (2019文藝春秋) [日記(2019)]

反日種族主義 日韓危機の根源続きです。
日韓請求権協定
 「元徴用工」が日本企業への賠償請求訴訟を起こし、韓国の大法院がこれを認めました。個人請求権と外交保護権は消滅しないことを認め、日韓併合は不法行為であるとしたのです。日本は1965年の日韓請求権協定を盾にこれを拒否しました。徴用工問題の法的側面「日韓請求権協定」を論じています。


日本の日本が韓半島に残して行った財産は1964年の価格で52億ドルを超え、韓半島の総財産の85パーセントに達しており、そのうち22億ドルが南韓にありました。


というのが前提です。サンフランシスコ平和条約(1951)で、この22億ドルを日本が放棄し連合国は22億ドルを韓国に譲渡します。韓国に残していった日本の財貨を韓国政府が受け取ることでチャラにしようということでしょう。

この平和条約で韓国は、日本に対する戦勝国でも、日本の植民地被害国でもありませんでした。ただ「日本から分離された地域」でした。このことはとても重要です。
・・・戦勝国や植民地被害国であったなら、一方的賠償を要求できたでしょう。しかし、韓国は過去日本の一部であり、日本の敗戦によって分離されたものだったので、両国国家と国民の間で財産及び請求権を相互整理することになりました。
韓国と日本は相互に民事上の財産の返還、債務の返済を処理すべし、というのがサンフランシスコ条約でいうところの「特別調整」の意味です。韓国だけが請求権を持っていたのではなく、日本にも請求権がありました。

 つまり、韓国は過去日本の一部であった地域が「日本から分離された」ものであり、連合国(戦勝国)の一員ではなく、植民地被害国もないため、戦時賠償できないと主張します。残るのは、日本が朝鮮半島から勝手に持ち出した民事上の財産で、韓国は7億ドル、日本は7,000万ドルを主張し、決着がつかないまま両国は、 金鍾泌 ─大平正芳会談(1962)で、日本が経済協力金無償3億ドルと有償2億ドルを払うことで決着し、日韓基本条約(請求権協定を含む 1965)の締結に至ります。請求権協定には、

請求権協定文第二条三項には「今後韓日両国とその国民はいかなる請求権主張もできない」と明白に規定しました。また、韓国政府はこの協定で、個人請求権が消滅したことを何度も明らかにしました。

 これが、日本が元徴用工の損害賠償請求を請求権協定を盾に拒否するに至る経緯です。韓国の大法院は、

日本の企業がその徴用労務者の精神的被害に対し慰謝料を支払うよう判決を下しました。請求権協定は財産上の債権債務関係だけを扱い、「損害と苦痛」に伴う請求権問題は扱わなかったため、個人の請求権は有効だ

と言うわけです。国家間の請求権はカタがついていますから、矛先は日本企業です。張勉政権、朴政権下でこの精神的肉体的苦痛に対する賠償請求がなされますが、日本は、日本人の徴用工生存者に補償はしなかったため、当時日本人であった韓国徴用工も同様としこれを拒否します。この問題を解決しないまま日韓基本条約が結ばれ、大法院はその隙きを突いてきたとも言えます。「徴用工」が徴用ではなく単なる「出稼ぎ」だっとすれば、「精神的肉体的苦痛」もないわけですが…。

長い期間をかけて両国政府が合意し国民が同意し、その後数十年間遵守して来たことを、司法府の何人かの裁判官が覆すのは正当なことでしょうか?
・・・国際的な外交問題においては、司法府はそのようなことはしてはならない、という「司法自制の原則」が広く用いられています。

司法自制の原則」とは、裁判所の判決が政府の立場と違う場合には、政府の立場が優先される、という原則だそうです。英米仏独など先進国では、外交問題は裁判所(司法府)が政府(行政府)の立場を尊重するこの原則が生きています。著者の結論は、

韓国は、何か受け取ってないものがあるから、日本はもっと出さなければいけない、などと主張することはできません。韓国人は、1965年の請求権協定で日本との過去史の始末がつけられたこと、過去史が清算されたことを認めなければなりません。これがグローバル・スタンダードです。

 面白いのは「日本が韓半島に残して行った財産は1964年の価格で52億ドルを超え、韓半島の総財産の85パーセントに達しており、そのうち22億ドルが南韓にありました。」の一文。とすると、残りの30億ドルは北朝鮮にあることなり、北朝鮮と国交が正常化されれば、この30億ドルと賠償請求で大モメにモメることになります。金正恩委員長は、元徴用工問題、慰安婦問題をジッと眺めて戦略を建てているんでしょうね。それを考えれば、日本政府もハイハイと妥協するわけにはいきません。

慰安婦問題

  『反日種族主義』は3部構成で、第3部をまるまる費やし「種族主義の牙城、慰安婦」と題してこの問題を検証しています。今日では、「慰安婦狩り説」「強制連行説」「性奴隷説」「韓国慰安婦20万人説」などはほぼ虚偽ということになっています。著者は、慰安婦の1日の顧客数を数え、彼女の預金通帳、慰安所の番頭の日記を発掘し、

つまり慰安婦の生活は、あくまでも彼女たちの選択と意思によるものであるということです。職業としての慰安婦は、慰安所という場所で営まれた個人の営業だったのです。


 解放後、慰安婦は韓国軍慰安婦、民間慰安婦、米軍慰安婦の形態で存続し、朝鮮戦争の混乱もあり韓国の売春婦数は、日帝時代の10倍になるという隆盛を極めます。じゃぁ当時「慰安婦問題」があったのかというと殆ど皆無。この問題が浮上したのは、1983年に吉田清治が『私の戦争犯罪 朝鮮人強制連行』という本を出版し「慰安婦狩り」を証言し(この証言は後に否定されます)、それを韓国のマスコミが取り上げてから生まれます。

(慰安婦問題を取り上げる)彼らが本当の人道主義者であれば、彼らが本当の女性主義者であれば、彼らは解放後の韓国軍慰安婦、民間慰安婦、米軍慰安婦に対しても、彼女たちは性奴隷だったと主張し、韓国男性、国家、米軍に責任を問うべきでした。しかし、彼らはそうはしませんでした。彼らは、貧困階層の女性たちに強要された売春の長い歴史の中で1937~45年の日本軍慰安婦だけを切り離し、日本国家の責任を追及しました。

韓国軍慰安婦、米軍慰安婦は問題とせず、日本軍の慰安婦だけをやり玉にあげるわけです。これはトライバリズムの「自分たちの人種、民族、宗教、国家、政治信条というものを第一に考え、そうでないものとの歩み寄りを拒否して、むしろそうした人たちを強引に屈服させていこうという」特徴に当てはまります。文永弘安の役で国土を蹂躙し35年にわたって国家と民族を搾取した日本に対する恨(ハン)でしょう。著者は「慰安婦問題」をこう結論づけます、

この28年間、日本との関係を最悪の水準に導いている慰安婦の問題について、もう一度言及しておこうと思います。何人かのアマチュア社会学者たちが、何人かの職業的運動家たちが、この国の外交を左右しました。全国民が彼らの精神的捕虜となりました。全国が、彼らが巫女となって繰り広げる鎮魂グッ(死霊祭) の会場になりました。シャーマニズムの賑やかなお祭りでした。至るところに慰安婦を形象化した少女像が建てられました。誰も犯すことのできない神聖なトーテムでした。

序文に
『反日種族主義』日本語版の刊行には、韓国語版の企画段階からそのような提案をされて来られた産経新聞の久保田るり子記者(編集委員) の役割が重要でした。久保田氏の案内で文藝春秋の小田慶郎氏がソウルまで来られ、日本語版の自社出版を提案され、結局そのように実現しました。
とあり、本書の企画段階から産経新聞の関与あったようです。産経新聞は、当初から日本語版を予定して、自社の論調に見合った本書を企画したと思われます。なかなか手の込んだプロパガンダとも言えます。ともあれ、韓国で、韓国人としてこうした発言をした著者たちの勇気には、感心させられます。

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kindle paperwhite 挿画と注 [日記(2019)]

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 最近は図書館利用で本を買うことは稀になりました。買う時はkindle版にしています。紙に比べて少し安価、かつ本棚に溜まらない、メモが出来て書抜き(ハイライト)も出来るし、検索ができるのが便利です。使っているのがkindle paperwhite第1世代と古いので遅いですが、”読む”ということに関してはまぁ用が足りています。タブレットもあるのですが、軽くて眼に優しいので読書はもっぱらpaperwhite。paperwhiteのおかげで『源氏物語』(林望の謹訳)が読破できました。

 ここからが本題。久々にkindle版を買って読んでいたのですが、挿画やグラフがあるんですね。ピンチすれば拡大できるのですが、これだと読書を続けるには又元に戻す必要がある。長押しすると画像だけ拡大できることが分かって一件落着、なるほど便利。もう1件、”注”というのがあります。大抵巻末を参照するわけですが、これがハイパーリンクとなっている!。当たり前と言えば当たり前なのですが、ちょっと感動しました(笑。
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タグ:絵日記
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秋風秋雨人を愁殺す -秋瑾- [日記(2019)]

秋瑾 [DVD]  タイトルに凝ってみました(笑。中国の女性革命家・秋瑾を描いた『秋瑾 競雄女侠』(2011香港)という映画の話です。「秋風秋雨人を愁殺す」は、学生の頃出会った一句で、何処でどうやって知ったものかも忘れましたが、以来ン十年前、頭の隅に眠っていた言葉です。『秋瑾』を観て、これが秋瑾の辞世句だということを初めて知りました。武田泰淳に秋瑾を描いた小説があるらしいですが、書かしめたのはこの言葉の持つ魔力でしょう、タイトルも『秋風秋雨人を愁殺す 秋瑾女士伝』。

 秋瑾は、1875年は福建省の廈門に生まれ、1907年に武装蜂起計画が発覚して処刑されます。映画は、その処刑シーンから始まり、31年の女性革命家の生涯を描きます。中国映画ですからカンフーあり剣技ありで、女性革命家の映画というよりアクション映画の趣もあります。
 秋瑾は、纏足を拒否し詩文と格闘技に熱中する女性として描かれます。名家の王と結婚し王が売官で役人の地位を得たため北京に移住。この夫が、当時の役人の例にもれず遊んでばかりいるなまくら亭主。夫とふたりの子供を残して単身日本に留学します。秋瑾の生きた時代は、阿片戦争、日清戦争の敗北により国は疲弊し、戊戌の変法などの改革運動とそれを潰す保守派が入り乱れる清朝末期。秋瑾は、憂国と虐げられる女性のフェミニズムに突き動かされ日本に留学します。
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 当時の日本は、亡命した孫文を宮崎滔天、頭山満等が支援し、辛亥革命前夜という気運にあります。秋瑾は、その気運の中で孫文の革命団体「中国同盟会」に参加し革命思想を先鋭化させます。短刀を持つ和服姿の秋瑾の写真が残っています。短刀は、国と人民を喰い物にする清朝と女を虐げる男性に向けられたもの?、何とも凄まじい「女侠」の姿です。帰国した秋瑾は紹興で革命のための軍事訓組織「練大通学堂」を作り、日本で知り合った徐錫麟の蜂起に連座して死刑となります。孫文の辛亥革命の3年前のことです。

 映画を観て同情するのは、秋瑾よりもその夫・王と秋瑾を処刑した浙江省の県令ではないかと思います。王は秋瑾を妻としなければ安穏な一生が遅れたはずです。県令も辞世の詩を後世に伝えた程ですから秋瑾の意を汲みながら立場上処刑したことになります。イエスを処刑したローマ総督ピラトみたいなもの。

 映画として面白いかといえば、女性革命家の伝記をカンフーで味付けしたアクション映画に過ぎません。個人的は、「秋風秋雨人を愁殺す」の謂れが分かって大満足、いずれ武田泰淳の小説を読んでみます。

監督: ハーマン・ヤオ
出演:ホアン・イー

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李栄薫 反日種族主義 日韓危機の根源 ① (2019文藝春秋) [日記(2019)]

反日種族主義 日韓危機の根源反日種族主義 日韓危機の根源 (文春e-book)  話題の本です。李栄薫前ソウル大学教授ら6人の研究者が執筆した本書は、日本(日帝)の米や土地の搾取、徴用工問題、日本軍が女性を連行して「性奴隷」とした慰安婦問題など韓国の「反日」の元なっている「悪行」に反論を加えたものです。日本では嫌韓本が幅をきかせていますが、韓国で、しかも韓国人の書いた嫌韓本?が2ヶ月で10万部売るベストセラーとなったというのは面白いです。
 「種族」というのが分かりにくいのですが、英語の”tribalism、トライバリズム”で。

 1.部族制[組織,社会];部族の風習と信仰
 2.部族主義;種族[仲間]への忠誠心;部族[仲間]意識

 検索すると、「同じ主張の人々がまるで“部族”のようにまとまり、他のグループと対話するのが難しい状態や現象のこと」という解説があり、トランプの「アメリカ第一主義」もその中に含まれるらしい、これで分かります。また「自分たちの人種、民族、宗教、国家、政治信条というものを第一に考え、そうでないものとの歩み寄りを拒否して、むしろそうした人たちを強引に屈服させていこうというのが特徴的だと思います。互いが歩み寄らないのが特徴的です」(ここの解説)。
 反日種族主義とは「反日第一主義」と理解していいのではと思います。

 プロローグ から過激です。韓国を「嘘の国」とし、国民にも、政治家にも、大学教授(学問)にも、裁判官(司法)にも嘘があると言います。一人当たりの偽証罪は日本の430倍、誣告件数は500倍で1人当たりにすれば日本の1250倍,保険詐欺の総額は4兆5000億ウォンを超えると推定されアメリカの100倍,知的財産権に対する政府支援金の33%が詐欺にあい、他人が信用できるかというアンケートで、yesと答える人はわずか26%だと書きます。

 著者は、この嘘と他人を信用できないという国民性?を、「物質主義」とシャーマニズムに求めています。

物質主義の根本を追究して行くと、韓国の歴史と共に長い歴史を持つシャーマニズムにぶつかります。シャーマニズムの世界には善と悪を審判する絶対者、神は存在しません。シャーマニズムの現実は丸裸の物質主義と肉体主義です。シャーマニズムの集団は種族や部族です。種族は隣人を悪の種族とみなします。客観的議論が許容されない不変の敵対感情です。ここでは噓が善として奨励されます。噓は種族を結束させるトーテムの役割を果たします。韓国人の精神文化は、大きく言ってこのようなシャーマニズムに緊縛されていますより正確に表現すると、反日種族主義と言えます。

 土俗のシャーマニズムは物質主義、肉体主義(快楽主義?)、同族(本貫?)で結束し他族を悪と見なし敵対する。同族を擁護するためには嘘が善と奨励され、嘘は同族を結束させるトーテムの役割を果たす。慰安婦像 →トーテム →シャーマニズムという帰納のような気がしないでもありません。著者の主張は、今日の日韓問題の根はシャーマニズムに根ざした「反日種族主義」だと言います。
 「国民情緒法」という言葉があります。法律の上に国民情緒=世論があり、法は世論の従属物に過ぎないという風刺です。バーグ条約を無視して大使館前に慰安婦像というトーテムが建ち、大法院の元徴用工に対する判決を見ると、なるほどと思わないでもありません。

 本書は、反日の根拠となっている土地調査事業、鉄杭騒動、朝鮮会社令、竹島領土問題、徴用工、慰安婦など、実証的に検証し反論します。

  朝鮮総督府が土地調査事業を通し全国の土地の40%を国有地として奪った、という教科書の記述はデタラメな作り話とします。朝鮮を植民地化した日本が全土の土地調査をすること当然でです。もし40%の土地が収奪されたのであれば解放後に訴訟が起きたはずですが、そうした事例は無く、40%という根拠の無い数字が第一次資料も無しに(気分で)捏造されたらしい。「白髪三千丈」の世界です。著者の言う「学問の嘘」です。
土地調査事業に関して持っていた自身の幼い頃からの先入観を、学術の形式で包装しただけです。そんな本を韓国の学界とメディアは歓喜して迎えました。日帝の土地収奪が具体的に証明された、と言ってです。そうして慎鏞厦には輝かしい学術賞を授与しました。

 世最初の誰かが40%という数値を出し、それが引用され、そうやって歳月が流れて歴史の真実となって教科書に載り、学生は全国の土地40%が総督府の所有地として収奪された、と教えられたのです。論が「真実」を作り出すわけです。

そのように世代間に憤りの涙で受け継がれ伝承されて来たものが、私が批判しようとする反日種族主義の歴史観です。

ちなみに、この土地調査事業によると、全人口の85%が農民であり、3%地主の下に77%農家が存在するという20世紀初頭の朝鮮の実像が明らかになります。

 日帝が風水思想によって朝鮮の伝統文化の「気」の流れを止めるために打ち込んだ鉄杭は、測量のための三角点の杭だったというのは笑い話ですが、朝鮮会社令、徴用工問題、慰安婦問題などの検証は、統計を使い資料を掘りおこした実証的なものです。
 4章の「日本の植民地支配の方式 金洛年」はこの典型です。日本の植民地支配は、貨幣と市場による日本との統合、法制度が朝鮮に移植「同化主義」であり、「朝鮮の四国・九州化」だと分析します。韓国の統計資料により

日本の同化主義は、(李朝、大韓帝国の)政治的権利を抑圧しながら経済面では同化を指向する、便宜主義的接近だったと言えます。
輸出入GNP比.png 産業構造.png
工場数.png 1人あたり所得.png

1)輸出入の依存度は、植民地期に10%から30%まで急速度で高くなった。
2)農林水産業の比率は70%から40%にまで下落し、鉱工業やサービス、電気及び建設業などの比率が急速に上がっている。
3)日帝が朝鮮人資本が成長できないように抑圧したとされる1911年施行の「朝鮮会社令」も、会社数で見ると、日本人が優位にある構図ですが、朝鮮人会社数も急速度で増え続け、日本人との格差を縮めている。
4)国民一人当たり所得の増加率も、解放後の、全体の期間の増加率を出すと4.9%になります。それに比べ解放前の一人当たり所得は、推計期間の間に1.8倍に増え、年平均2.2%増加したことが分かり、すなわち解放後の二分の一程度の水準。解放前は上位1%が全体所得の20%前後を占めるほど不平等だったが、1970年代には7%程度に急落し、最近また上昇して12%の水準となった。と分析し、

要約すると、解放前の朝鮮経済は日本を中心にした地域統合体制に編入されており、そのため域内貿易が活性化され、産業構造も急速に変わって行きました。この過程は当初、資本と技術で先行していた日本人が主導していましたが、朝鮮人が排除されたわけではなく、朝鮮人の工場と会社も急速に成長していたことが分かります。解放後と比べると、日本人と朝鮮人の間、または朝鮮人内部では地主と小作人の間に、甚だしい不平等があった社会であり、経済成長率もまた解放後の二分の一の速度と遅かったため、その成長の効果が底辺にまで行き渡ってはいなかったと言えます。

教科書は、個人の財産権まで 蹂躙 し、朝鮮人が持っていた土地や食糧を手当たり次第に「収奪」したかのように記述していますが、それは事実ではありません。

 日韓併合肯定論に聞こえます。朝鮮労働者が、強制徴用され劣悪な環境で奴隷のように働かされ賃金を搾取されたたという「徴用工」も、実態は朝鮮半島からの「出稼ぎ」。ある炭鉱の「賃金台帳」によると、基本給は日本人も朝鮮人も同じであり、差は時間外勤務、扶養家族の有無、宿舎・食費だそうです。給与水準は、1940年ソウルの男子と比較すると、紡績工の5.2倍、教師4.6倍、会社員の3.5倍、銀行員の2.4倍。日本にいる日本人の賃金と比較しても高水準で、1944年の朝鮮人炭坑夫の賃金は、日本人大卒事務職の2.2倍、巡査の3.7倍にもなります。

 「陸軍特別志願兵」も徴兵ではなく志願兵。無理やり志願させたということになっていますが、1938~1943年の競争率は、募集16,500に対し48.7倍。本書には、韓国人でなければできない分析が見られます。志願者の72%は南韓の中農の次男で,少なからぬ学費を負担しなけれならない普通学校の卒業者たち。志願の根底には、

当時「常民の社会」として広く知られていた北韓(韓半島の北半分)地域と違って、「班常の社会(両班と常民)」を特徴とした南韓地域の郷村社会で横行していた身分差別

があり、彼らにとって

陸軍特別志願兵制は、時代錯誤的な郷村社会の身分差別からの脱出であり、立身出世のための二つと無い絶好の近道

だったわけです。(慰安婦を含め)これらの日帝の暴挙が、釜山の「国立日帝強制動員歴史館」に展示されていると言います。「国立」ですから、教科書同様に国としてこれらの(反日種族主義の)嘘を認めていることになります。
 著者たちを「親日」として弾劾するためには、これらを論駁しなければなりませんが、そうした論を呼んでみたいものです。
続きます。

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イザベラ・バード 朝鮮紀行 ③ (1998講談社学術文庫) [日記(2019)]

朝鮮紀行 (講談社学術文庫)

朝鮮奥地紀行〈1〉 (東洋文庫)

 続きです。李氏朝鮮には革命が起こらなかった、というところまで来たわけです。『坂野潤治、大野健一 明治維新』によると、明治維新を準備した背景には、以下のような江戸社会の成熟があります。



1)政治的統一と安定
2)耕作面積と生産性の両面における農業の発展
3)物流システムの発展と全国統一市場の形成
4)商業・金融の発展、富裕な商人層の台頭
5)手工業の発展(薩摩藩、高松藩の砂糖、長州藩の紙、蠟、秋田藩の絹織物など
6)地方政府(藩)による産業振興
7)教育の普及(寺子屋、藩校、松下村塾、適塾、鳴滝塾など私塾と識字率)

 『朝鮮紀行』を読む限り19世紀末の朝鮮には、政治の安定は望むべくもなく、両班と役人の搾取のため、農民に耕作面積の拡張と生産性を上げるモチベーションは無く、物流は河川と牛馬、街道には橋も無く、塩と陶器などがあるものの産業と呼べるものがあったかどうかは疑わしい。科挙制度のため教育は両班層に限定され、一般庶民の教育については触れられていませんから、無かったのでしょう。

 商業、産業について、イザベラ・バードはこう記しています、

調査の結果、通常の意味での「交易」は朝鮮中部と北部のおおかたには存在しない。つまり、ある場所とほかの場所とのあいだで産物を交換し合うことも、そこに住んでいる商人が移出や移入を行うこともなく、供給が地元の需要を上回る産業はないのである。
・・・このような状況をつくった原因は、朝鮮馬一頭で10ポンドに相当する現金しか運べないほど貨幣の価値が低下していること、清西部ですら銀行施設があって商取り引きが簡便になっているのに、ここにはその施設がまったくないこと、概して相手を信用しないこと、皮革業に対する偏見、すなわち階級による偏見があること、一般に収入が不安定で、まったくもって信じられないほど労働と収入が結びつかないこと、そして実質的に独占しているギルドがおびただしくあることである。

地方行政については、
当時はひとつの 道 に44人の地方行政長官がおり、そのそれぞれに平均400人の部下がついていた。部下の仕事はもっぱら警察と税の取り立てで、その食事代だけをとってみても、ひとり月に2ドル、年に総額で39万2,400ドルかかる。総勢17,600人のこの大集団は「生活給」をもらわず、究極的に食いものにされる以外なんの権利も特典もない農民から独自に「搾取」するのである。

 その方法をわかりやすく説明するために、南部のある村を例にとってみる。電信柱を立てねばならなくなり、道知事は各戸に穴あき銭100枚を要求した。郡守はそれを200枚に、また郡守の雑卒が250枚に増やす。そして各戸が払った穴あき銭250枚のうち50枚を雑卒が、100枚を郡守が受け取り、知事は残りの100枚を本来この金を徴収した目的のために使うのである。

従って農民は、
搾取の手段には強制労働、法定税額の水増し、訴訟の際の 賄賂 要求、強制貸し付けなどがある。小金を貯めていると告げ口されようものなら、官僚がそれを貸せと言ってくる。貸せばたいがい元金も利子も返済されず、貸すのを断れば罪をでっちあげられて投獄され、本人あるいは身内が要求金額を用意しないかぎり 笞 で打たれる。こういった要求が日常茶飯に行われるため、冬のかなり厳しい朝鮮北部の農民は収穫が終わって二、三千枚の穴あき銭が手元に残ると、地面に穴を掘ってそれを埋め、水をそそいで凍らせた上に土をかける。そうして官僚と盗賊から守るのである。

 日本の助言で議会も開催されますが、

議会は1894年7月30日にはじめて召集され、同年10月29日に最後の召集が行われた。報酬を支払っても、勅令を発しても、定数を確保することができず、また議会運営に積極的だった数少ない議員のひとり、法務次官が最後の議会の開かれた二日後に反動派の手先とおぼしい人物に暗殺されたあとは事実上消滅した。

 改革、革命が起こるためには社会の成熟が必要であるなら、朝鮮には無かったということです。「甲申政変」などがあったものの内部からの変革は起きず、革命が起きる環境も、改革の意思もありません。国王・高宗自らがロシア大使館に逃げ込む李氏朝鮮は、いずれ日清露のいずれかに飲み込まれる運命にあったと思われます。イザベラ・バードの処方箋は、

(わたしは)朝鮮人の前途をまったく憂えてはいない。ただし、それには左に掲げたふたつの条件が不可欠である。
 Ⅰ 朝鮮にはその内部からみずからを改革する能力がないので、外部から改革されねばならない。
 Ⅱ 国王の権限は厳重かつ恒常的な憲法上の抑制を受けねばならない。

 結果的に朝鮮は1910年に日本に飲み込まれます。イザベラ・バードは1897年に朝鮮を去りますから日韓併合についての記載はありませんが、彼女が日本をどう見ていたか、

(日清)戦争を起こした表向きの理由は、日本政府は慎重を期してそれに固執しているが、日本にとって一衣帯水の国が失政と破滅の深みへと年々沈んでいくのを黙って見すごすわけにはいかない、国政の改革が絶対に必要であるというものだった。
・・・日本には朝鮮を隷属させる意図はさらさらなく、朝鮮の保護者としての、自立の保証人としての役割を果たそうとしたのだと信じる。

と好意的なものです。『朝鮮紀行』を読む限り、朝鮮は併合に値する国であったとは思われませんが、彼女が想像する隣国の「よしみ、誼」などではさらさらなく、日本帝国はロシア南下の橋頭堡、防壁とするため朝鮮を植民地化したかったわけです。日本には『赤蝦夷風説考』や「文化露寇(1806)」に始まるロシアの侵略を恐れる伝統があります。征韓論に始まる日清戦争、日韓併合、日露戦争も、そうした文脈で理解することができます。

わたしが朝鮮に対して最初にいだいた嫌悪の気持ちは、ほとんど愛情に近い関心へと変わってしまった。また今回ほど親密でやさしい友人たちとめぐり合った旅はなく、今回ほど友人たちに対して名残おしさを覚えた旅もなかった。

 イザベラ・バードは1897年3月に朝鮮を去ります。
朝鮮紀行  

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EOS kiss X5で野鳥 [日記(2019)]

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 頂き物のデジカメに250mmの望遠が付いていたので、散歩で野鳥を狙っています。声はすれど姿は見えず、カメラを向けた途端飛んでいってしまい、これがなかなか難しいです。

タグ:絵日記
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