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映画 愛人/ラマン(1992仏英) [日記 (2020)]

愛人/ラマン【無修正版】 [Blu-ray] 原題:L' Amant。以前から気になっていた『愛人/ラ マン』をやっと借りることができました。監督は『薔薇の名前』『セブン・イヤーズ・イン・チベット』のジャン=ジャック・アノー、原作は『二十四時間の情事(ヒロシマ・モナムール)』のマルグリット・デュラス。

少女
 ストーリーは(一見は)至ってシンプル。フランス領インドシナ(ベトナム)で、17歳のフランス人の少女(ジェーン・マーチ)と34歳の華僑の青年(レオン・カーフェイ)が出会い別れる話です。ラブストーリーですが、この恋愛というのが実はほぼ”性愛”。
 ヒロインの登場シーンがすばらしい!。メコン川を往来する船のデッキで、胸元の開いたノースリーブのワンピースに男物のパナマハットを被り、手摺に片足をかけ昂然と街を見下す姿は、”ジャンヌ・ダルク”?。

この帽子はわたしの証し 私らしさを象徴する大切なものだ もう手放せない

と独白(ジャンヌ・モロー)が入ります。彼女の姿に華僑の青年は虜となります。植民地の男が宗主国の女、それも少女に恋をします。語り手は少女ですから、宗主国の女が植民地の男を『愛人/ラマン』にする話とも言えます。
 男は、サイゴンの中国人街ショロンの部屋に少女を誘いますが、「愛することが怖い、また今度にしよう」と腰が引けます。後に男が語るように、フランス領インドシナで、植民地の男が娼婦以外のフランス女性と寝ることは禁忌となっています。少女は、「愛なんていらない」と男を誘いシャツを脱がせます。

彼が人生でやっているのは 女と寝ることだけだ 私はツイている これは彼の天職みたいなものだ

フランス人の高校生が、34歳の中国人を「愛人」にする倒錯の性です。
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娼婦
 少女の両親は、一旗揚げるつもりでインドシナに渡り、父親は亡くなり母親は小学校の教師となって三人の子供を育てています。阿片に溺れ親の金をくすねる長兄、気弱で覇気に乏しい次兄、将来を見通せない生活で、少女はドン底の生活と言い、そこから逃れるためには何でもすると男に言います。一方、男は華僑の不動産王の息子で運転手付きの車に乗る富豪。男は父親の命で「金とダイヤで飾り立てた」娘と婚約しています。裕福な宗主国人と貧しい植民地人という設定が、この映画では逆転しています。

 少女は、(恋人の)男を家族に紹介するのではなく、家族を(裕福な華僑の)男に紹介します。ベトナムの華僑とフランス人の違いを誇示するように、少女と家族は男を無視し、男の金で豪華な食事をしダンスに興じます。その夜、男はショロンの部屋で少女を殴り少女を犯し、少女は自分が娼婦であれば幾らの価値があるのかと問い、多額の金を受けとります。男は少女に「金のために男と寝た、初めて会った時から、お金のことしか考えていな」と言わせ、「きみは淫売だ、娼婦だ」「きみと会って初めて苦悩を知った」とつぶやきます。金銭を介在させることによって少女は娼婦になり、男は娼婦を「買う」わけです。

 少女は、インドシナでは処女でないとお嫁にゆけないのかと問い、男は、もはや処女ではないから少女とは結婚できないと答え、少女は中国人は嫌いだからかまわないと答えます。また男は、少女との結婚を父親に話し父親が許さなかったことを告白します。

行政官夫人
 ストーリーに絡まない仏領インドシナの行政官夫人が2度登場します。行政官夫人ですから、植民地のファーストレディ。最初は、渡し舟を降りる少女の車と渡し船に乗る行政官夫人の車がすれ違います。男は、行政官夫人に捨てられた男が自殺した噂を話し、少女は「男は夫人にフラれて自殺した、愛人だった」と返します。行政官夫人がフェリーの手摺に片足をかけ昂然と街を見下す姿は、少女の登場の姿と同じ。
 二度目は、男が中国人の娘と結婚した日の夜、少女は男と会うため車でショロンの部屋に向かいます。この時二人は車ですれ違います。男は来ず、少女は虚しく人力車でショロンを去ります。
 少女と行政官夫人カットは、この映画の象徴です。フランス人の貧しい少女は植民地の華僑の男を「愛人」にすることで、ファーストレディに成り上がったわけです。それは恋ではなく性愛でなければならなかったわけです。
 少女の一家は、母親が不動産投資で騙され財産を失って貧乏になりますから、この国のフランス人としは敗者。敗者がファーストレディに仕掛けた孤独な戦いと言えそうです。冒頭の独白が生きてきます、

この「」はわたしの証し 私らしさを象徴する大切なものだ もう手放せない

 一家はフランスに帰国することになります。少女の胸には、貧しい生活以外何一つ無かったインドシナを去る感慨が去来した筈です。帰国の船の上から、少女は男の車を認め男が見送りに来たことを知り、少女は男を愛していたことに気付き涙を流します。それはまた、少女が戦いの敗北を認めた涙だったかも知れません。

 マルグリット・デュラスは愛の逆説を小説に仕立て、ジャン=ジャック・アノーは、それを官能で描いたのです。面白いかと言えば、少女を演じるジェーン・マーチの官能は一見の価値ありです。

監督:ジャン=ジャック・アノー
出演:ジェーン・マーチ レオン・カーフェイ ジャンヌ・モロー(ナレーション)

 原作を読んでみました →ここ

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