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浅田次郎 大名倒産 下 (文藝春秋2019) [日記 (2020)]

大名倒産 下続きです。下巻口上、

倒産を目論む父と阻む息子の対決は 神仏までをも巻き込んで いよいよ後段の幕が開くーーー
御家を、御国を守らんと必死の若殿に 家臣も民も商人も力を貸すが...
サァ、神様の出番となる否や!?

 上巻では貧乏神が活躍?し、七福神ひとり寿老人がチラと出ましたから、いよいよ七神が揃ってご登場となるわけです。つまり、若殿のお国入りに付いていった貧乏神が槍傷を受け、薬師如来は治療の見返りに、丹生山に福の神を連れて来いと命じます。貧乏神が福の神!?、貧乏神は寿老人に応援を頼み、恵比寿、大黒天、福禄寿、毘沙門天、布袋、弁財天が丹生山の里に集結し、もう何がなんだか...。上方落語に『地獄八景亡者戯』というのがありますが、これと似た落語の世界です。

 落語ですから、「いかにも」という人物が登場します。
*御隠居様(丹生山松平家先代藩主)
 →「大名倒産」を目論む張本人。四男・小四郎に跡目を譲り隠居。1万両の裏金作りに励み、藩取り潰しの暁には1万両を藩士に配分してソフトランディングを図ろうという、時代の反逆児。百姓与作、茶人一狐斎、職人左前甚五郎、板前長七などの人格を使い分ける多芸多才の怪物。時に暗殺も辞さない冷酷漢。
*新次郎(丹生山松平家次男)
 →御隠居様曰く「天衣無縫の馬鹿」。庭作りに異能を発揮し、大名が争って作庭を依頼する。新次郎の才能に惚れ込んだ旗本・小池越中守の息女と結婚。この結婚が道中百里五泊七日「丹生山黎明千石船」へと発展する。
*小池越中守(5千石の旗本・大番頭)
 →娘が当代藩主の兄と結婚したことで(この結婚も落語)、丹生山松平家と縁戚関係となる。特産の鮭の味が忘れられず、参勤交代にくっついて丹生山へ。鮭が縁で藩財政再建に多大に貢献。脳ミソが筋肉で出来ており、ジョギングが趣味。
*仙藤利右衛門(一千町歩の田畑を有する丹生山領内きっての豪農)
 →ワイロを使って年貢を誤魔化し、蓄えた米で飢饉に備えるという影の藩主。希代のケチ。
*仁王丸(丹生山の山中で猿たちと暮らす「自称山賊」)
 →上杉謙信の隠し金山を発見し、財政再建に多大に貢献する。作者も思いあぐねて登場させた起死回生の人物。

 落語かといとそうでもなく、背景はそれなりにシリアス。時代は文久年間(1861~1864)、桜田門外の変、生麦事件、和宮降嫁と風雲急を告げる幕末。文久2年には参勤交代が3年に一度、在府100日に緩和され、人質の妻子も領国に帰ることが許されなど、260年続いた体制もタガが緩みだしています。いみじくも、老中・板倉周防守が丹生山松平家の留守居役にグチります、

どこかの御家が抜け駆ければ、われもわれもと続くであろう。そして、そののちは三年に一度だの百日の在府などという定めも守られまい。参勤の制がなくなればすなわち徳川家と諸大名との主従の関係もなくなる。
松平御家門の御尊家が妙な抜け駆け(大名倒産)をすれば、内実はどこも似た者の諸大名家は、それこそ将棋倒しに倒れるぞ。群雄割拠ならぬ群雄倒産じゃ。戦乱の世よりもよほどたちが悪い。

「群雄倒産」が起これば、幕藩体制、朝廷はおろか日本国そもものが崩れ。「大名倒産」はそれほどのインパクトを持つ陰謀だったわけです。

 で小説はというと、七福神の応援もあって、家臣、農民、商人がこぞって若殿を応援します。二人の国家老の妻女は先祖代々の蓄財五千両を差し出し、豪農・仙藤利右衛門は一族を挙げて加担。城下の商人・大黒屋は丹生山特産の塩引鮭を千石船を仕立てて江戸に運び、これがなんと1尾2両2分、しめて二千五百両。小池越中守は、殿中で鮭の試食会を始め屋敷で鮭の直売(番町鮭屋敷)。借金25万両には焼け石に水。極めつけは、仁王丸の見つけた上杉謙信の隠し金山。なにしろバックに七福神がいるわけですから、何でもアリ。
 借財25万両の大半は利子、よって半額にまけさせ残りは現金で払うという決着がつきます。御隠居はどうしたかというと、死神の餌食となりあっけなく幕。4年後に明治維新となります。
 久々の浅田次郎、面白いといえば面白いです。

タグ:読書
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