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オールスン・ユッシ・エーズラ 特捜部Q-アサドの祈り- (2020 ハヤカワ・ミステリ) [日記 (2021)]

特捜部Q―アサドの祈り― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ) q.jpg
 原題、offer2117=犠牲者2117、『特捜部Q』シリーズの最新作です。「アサドの祈り」と副題が付きますから、今回の主人公はアサド。本シリーズの魅力のひとつは、特捜部Qの主任マーク、捜査助手アサド、情報担当ローセの3人のコンビネーション。独善的で傍若無人なマークに対し、アサドは沈着冷静で謙虚。アサドは中東移民で正式な警察官ではない模様で、自分を語ることのない謎の人物。上司のマークを上手くコントロールして事件を解決します。ローセは、時々「自称」姉と人格が入れ替わる二重人格!。第8話にして、そのアサドの過去が明らかになりま。

 冒頭、キプロスの海岸で老女の水死体が発見され、写真が新聞に載ります。老女はシリア難民、ヨーロッパに逃れる途中ボートが沈んで溺死したと見られますが、実は刺殺されて海に投げ込まれた事実が判明します。この老女がOffer2117。この報道をしたのがスペインのジャーナリスト・ジュアン。この写真に激しく反応したのがアサドと「引きこもり」のゲーマー・アレクサンダ。老女はイラクから逃れたアサドを親身に世話したシリア人で、シリア難民を報じる新聞の写真には、16年前に別れたアサドの妻と娘とイラクのテロリストが写っていたのです。第二の母とも慕うシリア老女と消息不明の妻と娘、仇ともいうべきテロリストの写真を見てアサドの心はアワ立ち、マークとローセの過去を語りだします。

 『特捜部Q-アサドの祈り-』は、①老女の殺された現在と②16年前のアサドの過去が交差し、③老女殺人犯を追うジャーナリスト・ジュアン、④老女を殺害したテロリスト、⑤老女の運命に反応したゲーマー、⑥事件を追うマーク、アサド、ローセ、と時間と主体が重奏するサスペンスです。

 アサドは、イラク生まれの本名ザイード・アル=アサディ。1歳の頃混迷するイラクを出てシリア経由でデンマークに辿り着き、知遇を得て特殊部隊(猟兵隊)の兵士となり、イラク人の妻と二人の娘の父親となります。16年前、特殊任務でイラクに潜入して捕まり、看守を殺害して脱走を図ります。アサドを恨む看守のひとりガリーブ(本書の敵役)はテロリストとなり、アサドの妻と妻と娘を拉致しアサドを誘き出して復讐を企てます。本書のメインプロット「アサドvs.テロリスト」の構図が成立します。
 ジャーナリスト・ジュアンの撮った写真に妻と娘が写っていたことで、アサドは家族の生存を知ります。アサドは、マークの応援を得てガリーブがテロを企てるフランクフルトへ妻と娘の救出に向かいます。

 『特捜部Q』シリーズの特徴は、プロットに「時代」を巧みに取り入れることにあります。本書では、難民問題と「引きこもり」。アレクサンダは自宅に引きこもってひたすらゲーマに興じ、ゲームのレベルが”2117”に達すると両親の首を刎ね無差別殺人をたくらむ「引きこもり」。

「強制されたわけじゃないのに自らを監禁状態におく日本の若者の話を聞いたことがある。ローセ、正確には何んていうのか思い出せるか?」
「ええ、”ヒキコモリ”ですね」

「引きこもり」がこれほど有名?だとは知りませんでしたw。

 アサドの家族救出、ガリーブのテロ、ガリーブに拉致されたジャーナリスト、引きこもりのアレクサンダ、と4つのプロットと視点で物語は動きます。

 『特捜部Q』は、『檻の中の女』『キジ殺し』『Pからのメッセージ』『カルテ番号64』が映画化されています。アサドを演じるのが『ゼロ・ダーク・サーティ』『チャイルド44』ファレス・ファレス。第8巻でアサドがヒーローになりますから、第9巻のヒロインはローセでしょうね。楽しみです。

1.檻の中の女、2.キジ殺し、3.Pからのメッセージ、4.カルテ番号64、5.知りすぎたマルコ、6.吊された少女、7.自撮りする女たち、8.アサドの祈り

タグ:読書
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図書館 休館! [日記 (2021)]

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  緊急事態宣言で図書館が休館になってしまいました。予約した図書の貸し出しだけでもやってくれると有り難いのですが…。積ん読の消化と考えればいいかもしれませんw。

ステイホームに「せめて本を」 貸し出し続ける図書館 →頑張っている図書館もあるようです。

タグ:絵日記
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李成市、宮嶋博史『朝鮮史 2』② 閔妃暗殺、露館播遷、大韓帝国 (2017山川出版) [日記 (2021)]

朝鮮史 2: 近現代 (世界歴史大系) 閔妃暗殺(1895)
 日清戦争で清が破れ、朝鮮は宗主国から開放されます。日本は甲午改革で朝鮮の近代化を図りますが、三国干渉で出鼻をくじかれ、スキを狙ってロシアが勢力を拡大。高宗の后・閔妃暗殺事件(乙未事変)で、日本の朝鮮進出計画は頓挫します。閔妃暗殺は、ロシアに近づく閔妃を排除するため日本の三浦公使によって企てられたいうことになっていますが、大院君首謀説、閔妃一族の勢道政治に反対する政府内部説などいろいろ。
 閔妃は一族を権力の中枢に据えて賄賂、売官、悪貨鋳造で得た財力で贅沢三昧。「雌鶏が鳴くと家が滅びる」と、閔妃を亡き者にしようという敵にはこと欠かかなかったようです。
 イザベラ・バードや角田房子によると、閔妃は高宗が重臣を接見する屏風の後ろから高宗をコントロールする政治をしていたようで、

王は自ら建白書を読み・・・時々後ろの屏風の方をふり返りながら、儒生たちの処分を命じた。屏風の内には、王の発言を助け導く閔妃が控えている。これが”高宗親政”の実体であることを、閣僚たちはすでによく知っていた。(角田房子『閔妃暗殺

会話の途中、国王がことばにつまると王妃がよく助け船を出していた。・・・王家内部は分裂し、国王は心やさしく温和である分性格が弱く、人の言いなりだった。・・・その意志薄弱な性格は致命的である(イザベラ・バード『朝鮮紀行』)

 甲斐性なしの夫を支えるしっかり者の妻・閔妃の姿が目に浮かびますが、夫婦揃って朝鮮の滅亡を早めたような気がします。という様な面白い話は、残念ながら本書にはありません。閔妃は、全124話のTVドラマ『明成皇后』となっているそうです。無能な王と勝ち気な嫁vs.舅の権力闘争ですから、これは面白いでしょうね。

露館播遷、大韓帝国成立(1896~97)
 閔妃暗殺が引き金となって高宗はロシア公使館に逃げ込み(露館播遷、俄館播遷)、1年にわたってロシア公使館から政治を執ります。当然親ロシア派が権力を握り、ロシアは森林利権を獲得し軍事教官を派遣して朝鮮軍を訓練するなど勢力を伸ばします。ロシアだけではなく、英米独仏も鉄道、鉱山、電気事業など多くの利権を獲得し、日本の影響力は小さくなり、朝鮮の改革は後退して甲午改革以前に戻ってしまいます。朝鮮は利権を切り売りして近代化を放棄したことになります。閔妃の一族が復活し、「光武」と改元し李氏朝鮮は国号を「大韓」に改め、高宗は皇帝に即位し「大韓帝国」が成立します(1897)。

 高宗の外国公使館逃亡癖は、壬午軍乱で日本公使館に亡命打診をしたのを皮切りに、事あるごとにアメリカ、イギリス、フランスと次々に打診し日露以外には断られています。国家や国民より我身の安全を優先したわけです(この辺りは、youtube「李承晩TV」の高宗が啓蒙君主?が面白い)。生涯で7度も国を捨てて逃亡を企てた国王も珍しいです。

 大韓帝国成立とともに、高宗と守旧派は皇帝の専制を強化して独立を保とうとします。陸海軍の統帥、立法、文武官の人事、条約の締結などを皇帝に集め「専制政治」を始めます。軍備拡張を進め、

1899年には全国要地に鎮衛隊・地方隊を増強した。1900年に清の義和団の活動が満洲にもおよんでくると、北辺防備の必要が意識されて、鎮衛隊(地方隊も鎮衛隊に改称)がさらに増設された。1902年の時点で、中央には侍衛連隊、親衛連隊各2個、約5000名、地方には5個鎮衛連隊を基幹にした17個大隊、約1万7000名の兵力が配備された。

 22,000名の兵が増強されたのか、朝鮮の全兵力が22,000名なのかよく分かりません。22,000名あれば、甲午農民戦争で清に援軍を頼まずとも自力で鎮圧できたはず。漢城(ソウル)に5000名の近衛兵がいたなら、高宗はロシア公使館に逃げ込む必要もなかったでしょう。何かといえば宗主国を頼る李朝の軍事力は如何ほどのものであったのか?。13世紀、40年にわたり6度のモンゴルと戦った高麗の伝統は、500年の李朝事大主義によって滅んだのでしょう。→【追記】参照。

 軍備拡張とともに大韓帝国は鉄道建設、中央銀行を設立し兌換紙幣の発行を計画しますが資金難で挫折。

 財政は窮乏しており、国家予算の支出が皇室・宮内府関係費、軍事費に偏重していたので、その他の事業を積
極的に展開することは困難であった。
 (財源確保のため)全国の三分の二の地域で量田(耕地の測量)が実施され、国家による土地把握が強化された。地稅も増徴されたが、新式貨幣発行章程に定められた補助貨幣である白銅貨の鋳造による発行者利得が重要な新財源となった。悪貨である白銅貨の鋳造も典図局長でもあった李容瑚によって推進された。白銅貨の濫発はインフレーションを招き、民衆の生活を圧迫した。

 財政再建が増税と貨幣の改鋳による差益確保というのですから、大韓帝国となっても閔妃の時代と代わり映えしません。この頃の李朝は、ほとんど国家としての態を成していません。元大統領・朴正熙は、李朝を「子孫に悪影響を及ぼした民族的史」「悪遺産」と言い、日韓併合をもたらし、独立後に韓国を崩壊の危機にまで陥れた最大の原因は、李朝五百年の歴史にその根源がある利己的な党派主義」だとまで言っています。独裁者で積弊の元凶といわれる朴正熙のこの認識は的を射ているように思います。

日本の経済進出、日露の対立
 露館播遷後、日本は政治的勢力は後退しますが、経済的支配は拡大します。日清戦争後の韓国(大韓帝国)の対外貿易は、輸出額の8~9割、輸入額の6~7割を日本が占めます。日本からの輸入品は紡糸、綿布輸出は米で、韓国の綿業は廃れ、米価は高騰し民衆の生活を圧迫します。日本の商人は内陸に進出し、農民への高利の融資によって日本人による土地取得も進んだといいます。

 日本は、日本銀貨を韓国の金融市場で流通させます。1902年に第一銀行は第一銀行券を発行して65万円の借款を成立させ、韓国は日本政府からの資金援助で漢城~仁川間、漢城~釜山間の鉄道を完成させます。日本の借款でインフラ整備はマァ理解できますが、日本通貨の流通は、金融を日本に渡すようなもので、このような経済進出(侵略)が日韓併合に繋がるわけです。朝鮮は、政治的にも経済的にも独立国とは程遠い存在だったわけです。

 当時、日本はロシアを仮想敵とし軍備を増強し、ロシアも1898年に旅順、大連を清から租借して太平洋艦隊を増強し、日露関係は緊迫します。
 1900年義和事件が起き、ロシアは満洲に出兵してこれを占領。日本はロシアと対立していたイギリスと日英同盟(1902)を結びます。ロシアは撤兵をおこなわず、鴨緑江河口近くの龍岩浦において土地買収をおこない、朝鮮北部に支配をおよぼそうとしたため日露の対立は深まります。日本は朝鮮の内政に関与する権利を主張し、ロシアは民政面に限定することを主張し、北緯39度以北を中立地帯とすることを求め日本はこれらを拒否。北のロシア南の日本に挟まれた「38度線」の存在は、今日の半島分断の予兆のようなものです。
 1904年日本政府は交渉打切りを決定し、対露開戦に突き進みます。

【追記】
 1905年の韓国軍が削減されます。

漢城には侍衛隊1個連隊と小規模の工兵隊、騎兵隊、砲兵隊などを合わせて約3000名、地方には鎮衛隊8個大隊約5000名の配置となり、兵力は四割弱の規模になった。(p58)

とありますから、1899年の韓国の全兵力は22,000名だったと思われます。

【朝鮮史1】
【朝鮮史2】

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緊急事態宣言初日 BBQ [日記 (2021)]

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 3度目の「緊急事態宣言」初日なんですが、BBQやりました。テーブルに向き合って食事するより、戸外で食べた方が感染リスクは小さいと勝手な理屈です。風もあるので飛沫感染も大丈夫?。マスク会食などとてもできません。
 今回も新聞紙を井桁に組む炭火一発着火 →3回目なのでだいぶん手慣れて一発着火。やる度に思うのですが本当に優れもの。

タグ:絵日記
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松の花 [日記 (2021)]

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 散歩の途中で見つけたんですが、松の花の先っぽに付いている紫のポッチは?。雌花だそうで、これがマツカサになるようです。中学1年で習ったらしい。松ぼっくりの赤ん坊を初めて見ました。

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ドラマ スパイの妻(2020日) [日記 (2021)]

「スパイの妻<劇場版>」DVD通常版  『スパイの妻』は、NHKのドラマと同一内容の劇場公開版の映画があるそうです。ベネチア国際映画祭で「銀獅子賞」を獲得し話題になりました。今回観たはドラマの方(4/12再放送)。

 1940年(昭和15年)、神戸で貿易商を営む福原(高橋一生)と妻・聡子(蒼井優)の物語です。冒頭、福原の商売相手の英国人がスパイ容疑で逮捕され、福原の元に友人の憲兵隊分隊長の津森(東出昌大)が現れ、「気をつけるように」と忠告します。
 1940年がどういう時代だったかというと、前年にドイツ軍がポーランドに侵攻して第二次世界大戦が勃発し、日本は中国大陸に侵攻しており翌年の12月には真珠湾奇襲によって太平洋戦争が始まるとう時期です。日独伊三国同盟が締結され、インドシナに侵攻する南進政策が決められたのもこの年。福原は、「危なくなる前にこの目で大陸を見ておきたい」と満州に出張し、「今のうちにアメリカを訪れたい」とも言います(事実、翌年に日米は開戦します)。英国人に貰った反物で洋服を仕立てるという福原を、聡子は「国民服令」が出たばかりに何を言っているとたしなめています。戦争が市民生活にまで及んできたわけです。大平洋戦争の暗雲が忍び寄る1940年、それが『スパイの妻』の舞台です。

 満州に出張した福原は女性を連れ帰り、懇意にしている有馬の温泉旅館に中居として匿います。実は、福原は、満州で関東軍・731部隊の人体実験を目撃し、実験に携わった医師の研究ノートを持ち帰り、看護師を伴って帰国します。有馬の旅館に匿った女性とは731部隊で人体実験に関わった看護師だったわけで、福原は、この機密をアメリカに流し日本軍部の暴走を止めようと考えます。女性は殺され、この事実を憲兵隊の津森から聞かされた聡子は福原を疑います。
 福原から真相を聞かされた聡子は選択を迫られることとなります。夫を思いとどまらせ平安な貿易商の妻となるか、夫の正義に加担し『スパイの妻』となるか、夫を官憲に告発するかの選択です。聡子は福原が撮影した人体実験の映像を観ていますから、731部隊の非道を知っているわけです。聡子の選択や如何に。
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 2020年の主題としてはかなりクラシックです。憲兵隊の津森が聡子を分隊に呼び出すシーンです。津森の後ろには「忠孝」と書かれた扁額が架かり、聡子はそれを正面から見る位置に座しています。津森は聡子に忠と孝の選択を迫り、聡子も国民としての忠と夫に従う孝の選択に迫られています。全編の80%を占める福原と聡子の物語、忠と孝の物語は、残りの20%のための長いプロローグです。この80%をどう観るかです。個人的には如何にもという感じで退屈でしたが、20%はサスペンス映画としてまぁまぁ面白いです。個人的な不満は、全員が標準語を喋ること。舞台が神戸ですから、ましてNHKですから、福原が横浜出身と逃げずここは神戸の山の手言葉を喋らせるべきだったのではと思いますw。
 
 戦後アメリカはいち早く731部隊の資料を押さえていますから、あるいは福原のような人物が存在したのかも知れません。福原がいたとすれば「スパイの妻」もまたいたはずです。
演出:黒沢清
出演:蒼井優、高橋一生、東出昌大

タグ:映画
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映画 1917 命をかけた伝令(2019英米) [日記 (2021)]

1917 命をかけた伝令 [DVD]
 第一次世界大戦の西部戦線で、伝令の任務に就いた若いイギリス兵士の物語です。反戦映画『西部戦線異状なし』を連想しますが(これはこれで名画)、サム・メンデスですから反戦映画など作るわけがありません。西部戦線といえば塹壕戦、フランスの塹壕で戦うイギリス軍が舞台です。

 その西部戦線でドイツ軍が撤退します。撤退を罠だと見たイギリス軍は、追撃する部隊に作戦中止の伝令を出します。追撃すれば反撃に会い1600名の部隊が全滅します。伝令に選ばれたのが、兄が追撃部隊にいるトム・ブレイク上等兵(ディーン=チャールズ・チャップマン)。トムと同僚ウィリアム(ウィル)・スコフィールド(ジョージ・マッケイ)が、独軍が撤退したした無人の戦場、ノーマンズ・ランドを駆け抜けます。基本はこれだけ。当然アクシデントがあり、困難を乗り越えたウィルとトムの勇気ある行動によって1600人の命が救われるわけですが、それは舞台設定にすぎません。

 『1917』で描かれるのは1917年4月6日~7日のほぼ24時間。この24時間が「全編1シーン1カット」、つまりLIVEとして描かれます。カメラを回しっぱなしで2時間の映画を撮るわけはないですから、長回しの映像を巧妙に繫ぎ合わせ「1シーン1カット」に編集しています。なぜそんなことをしたのか?、臨場感を出すためともうひとつは視点の問題だと思われます。普通、映画は数多くのカットで構成されます。そのカット、カットは、ストーリーの状況に応じてカメラの視点は異なっています。ある時は主人公の視点であったり、登場人物の視点であったり、誰でもないカメラそのものの視点であったりします。『1917』では、全編を「1シーン1カット」とすることで、カメラを誰でもない架空の視点に固定したといえます。その視点は映画の「創造主」の視点です(三人称単数、一視点?)。

1917-1.jpg 1917-2.jpg
 十字架                聖家族
  そう思って観ると、所々にキリスト教のメタファーがあります。ウィルが赤ん坊を連れた若い女性と出会うシーンは「聖母子」「聖家族」です。この赤ん坊と女性は他人同士で、女性は戦場に置き去りにされた赤ん坊を保護した様子。ウィルは二人に食料を差し出しますが、赤ん坊にはミルクが必要。ここで途中の牧場で水筒に入れた牛乳が効いてきます。『怒りの葡萄』で、ジョード家の長女ローズが行き倒れの見知らぬ他人に母乳を与えるシーンがあり、ジョード一家が目指したのは旧約聖書・出エジプト記のいう「乳と蜜との流れる地」カリフォルニアでした。だとすれば、1600人の命を救うために戦場を駆け抜けるウィルと彼が持つ命令書も、不時着したドイツ軍の飛行士を助けようとして命を落とすトムも、何かのメタファーなのかも知れません。

 ウィルが追撃部隊に到着した時、兵士たちは一人の兵士が歌う歌を聴いています。ジョニー・キャッシュのゴスペルソング”Wayfaring Stranger”だそうです。

 I am a poor wayfaring stranger
 Traveling through this world below
 There's no sickness toil nor danger
 In that bright world to which I go

 ウィルはまさにpoor wayfaring strangerで、苦難に満ちた世界を旅し、病気や労苦や危険が無い明るく輝いた世界を目指すわけです。そのウィルをカメラ=神が俯瞰し、追うわけです。ストーリー自体は何のヒネリもなく、戦闘シーンも地味でアクションも少な目です。『プライベート・ライアン』ようなドラマ性もありません。最初観た時はそれほど面白いとは思わなかったのですが、二度見ましたw、「全編1シーン1カット」を意識して観ると全然違ってきます。サム・メンデスが作りたかったのは「神の視点」を持つ映画だったと思われます。

監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、マーク・ストロング、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ

タグ:映画
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李成市、宮嶋博史『朝鮮史 2』① 高宗~日清戦争 (2017山川出版) [日記 (2021)]

朝鮮史 2: 近現代 (世界歴史大系)
 『朝鮮史 1』に続き『2』です。本書で扱うのは、朝鮮近代史の始点である大院君、高宗から2017年までの近現代です。『朝鮮史』ですから、1945年からの北朝鮮も含まれます。

(本書では)朝鮮近代史の始点を高宗の即位、大院君政権成立の時点においている。これは、1910年の「韓国併合」までの政治史において活動する主要な努力が大院君政権期に出そろうからである。従来は、主要な勢力として三つの勢力開化派、衛正斥邪派、東学をあげていた。

開化派は・・・西洋の文物・技術・制度を導入して、内政の改革をはかろうとした勢力である。そのような改革を志向する思想、開化思想は大院君政権期には生まれており、大院君政権の末期か、遅くとも関氏政権成立直後には政治勢力としての開化派も形成されていたものと思われる。

衛正斥邪派は、西洋やそれに追随するとみなした日本を排斥し、朝鮮の旧来の体制を保持しようとした勢力である。衛正斥邪とは、もともとは正しい学問として奉ずる朱子学を擁護し、天主教や東学などの邪教・異端を排斥することであるが、フランス・アメリカの侵攻を厳しく排斥したことによって、その内容が拡大していった。

東学は、その地方幹部が指導した農民蜂起が旧支配体制を大きく揺るがすことになった教団である。(p11)

 近代が資本主義、市民社会の成立だとすれば、高宗即位と大院君政権の成立(1863)で朝鮮が近代国家になったわけではばいでしょう。近代化の「うねり」となる開化派、衛正斥邪派、東学の3つの勢力がこの時期に台頭しただけです。日本を含む外国によって眠っていた李氏朝鮮が目を覚まされたわけです。では朝鮮の近代は何時から始まるのか?。1894年の甲午改革か、1897年の清の冊封体制から外れた大韓帝国成立時か、1910年の日韓併合か、と見るといずれも背後に日本の居る近代化です。朝鮮が国家として自立するのは1945年のWWⅡ終結ですから、朝鮮は近代を経ず一気に現代に突入したともいえます、それも韓国だけ。

大院君 →閔妃 →甲申政変
 高宗の即位によって、大院君は安東金氏の勢道政治から王による親政を取り戻し、自分は実父として実権を握ります。この大院君という人物は、ヤクザな生活を送りながら裏で安東金氏の勢道政治をひっくり返す計画を練っていたという、けっこう面白い人物。人材登用、制度改革とそれなりに頑張る反面、鎖国政策、キリスト教弾圧と負の面もありますがひとカドの人物。勢道政治に懲りた大院君は高宗の后に閔妃を迎い入れますがこれが大誤算。閔妃は自分の一族閔氏を政権に入れまたも勢道政治をやらかし、自分は占い(巫俗)に凝って贅沢三昧。財政破綻に陥ると、売官や貨幣を改鋳して差額で補填と乱脈を極めます。その間高宗は何をしていたかというと妓生と遊んでいた?。当然本書には閔妃の浪費もムーダンに現を抜かしていたなどの記述はありませんw。

 閔妃の乱脈振りに業を煮やした金玉均ら急進改革派は、日本公使の応援を得て甲申政変(1884)を起こします。金玉均は明治維新に倣ってクーデターを越こし、朝鮮の近代化を望む日本はこれを応援します。朝鮮の近代化は征韓論以来の政策であり、日本遊学中に築いた金玉均の人脈(福沢諭吉など)がこれを応援したんでしょう。改革派のクーデターは、閔氏ら守旧派が清軍を引き入れたため3日で潰れます。金玉均は日本に亡命し、上海で閔妃の放った刺客によって暗殺されます。遺体は朝鮮に運ばれて凌遅刑に処されたといいます。日本では死ねばホトケなのですが、かの国は執念深い。元祖親日派みたいなものです。ちなみに墓は青山墓地にあるそうです。そう言えば、親日派の墓を掘り返せ!という市民団体がありました。

 この甲申政変で日本人が殺されたため、日本は朝鮮と漢城条約、清と天津条約を結びます。

甲午農民戦争(東学党の乱) →日清戦争
 勢道政治による腐敗は、地方でも重税や両班階級の不正などの歪を生み、農民の反乱=民乱が頻発します。その最大のものが東学党の甲午農民戦争(1894)。甲午農民戦争が起きると朝鮮は清に援軍を要請し、天津条約に基づき日本も朝鮮に出兵します。内乱を自らの軍事力で対処出来ず宗主国に頼るのは朝鮮の歴史です。これは事大主義の系譜で、いわば「寄らば大樹の陰」、李朝の主体性の欠如といえます。清、日本両軍が出兵したため、東学党軍は「全州和約」を結んで甲午農民戦争は終結します。

 アンタ等に任せていてはこの国の近代化は無理だと考える日本は、朝鮮の内政改革を清に提案しますが清はこれを拒否。じゃぁ日本ひとりでやると、大院君を担ぎだして傀儡政権を建てます。食わせ者の大院君は、東学党に反乱を焚き付け、日本軍と清軍を咬ませ漁夫の利を狙いますが、日本は大院君を幽閉。
 日清両軍は豊島沖海戦、成歓の戦いによって交戦状態となり日清戦争が勃発します。日本軍は平壌の戦、黄海海戦などを経て勝利。
 日本はこの傀儡政権を使って朝鮮の近代化に手をつけます(甲午改革)。内閣制度を導入し、税制、司法、警察・軍隊制度を改革し、科挙を廃止し、 奴婢、白丁など封建的身分制を改め、 人身売買、拷問を禁止します。いずれも、甲申政変で潰えた改革派の金玉均・朴泳孝が目指した内政改革が、日本によって実現されます。
 下関条約によって清は宗主権を放棄し、朝鮮は大韓帝国(1897)として独立国となります。

【朝鮮史1】
【朝鮮史2】

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中央日報は面白い (3) 原発処理水海洋放出と日米首脳会談 [日記 (2021)]

 先日、ハーバード大学教授の「従軍慰安婦論文」で盛り上がった中央日報が、福島原発の処理水放出で大フィーバーしました。4月15日一日に21本の記事を載せるのですから、力の入れ具合が伺えます。21本の日本批判の記事の後、<「日本の原発水、影響大きくない」 韓国政府TF(タスクフォース)、昨年報告書出していた>で、付いたコメントが

中央日報による・・・韓国喜劇「妄想一人芝居」は他のコメディよりもおもしろい。

 文在寅大統領も青瓦台も中央日報も、昨年の10月に自ら下した結論をコロッと忘れていたというのです。ソウルと釜山の市長選挙で大敗し、慰安婦、徴用工問題で決め手がない韓国与党・忖度メディアにとってこの話題は起死回生の一発だと考えたようですが。処理水(韓国流に言うと「汚染水」)を太平洋に放流すると最初に流れ着くのはアメリカです。そのアメリカとIAEAが放流を支持しているにもかかわらず、影響の少ない韓国が大騒ぎです。「人類への核攻撃」、というのには笑ってしまいます →中央日報は本当に面白い。ハンギョレ新聞も負けてはいません →「第二の壬辰倭乱(秀吉の朝鮮侵攻)」w。

 もう一本は日米首脳会談。『菅-バイデンの初の日米首脳会談…「北朝鮮問題で日米韓の協力が重要」』という見出し。『共同声明』をよく読むと

日米両国は、北朝鮮に対し・・・北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認する
日米両国はまた、韓国との三か国協力が我々共通の安全及び繁栄にとり不可欠

とあり、談話ではバイデン大統領は韓国には一言も触れず、菅首相が

北朝鮮への対応や、インド太平洋地域の平和と繁栄にとって、日米韓の3か国の協力が、かつてなく重要になっているという認識で一致・・・

と言っているに過ぎません。
 それが「北朝鮮問題で日米韓の協力が重要」とい見出しになります。朝鮮日報は『米国「対北朝鮮政策は米日首脳会談で結論」』、ハンギョレ新聞は『米国の北朝鮮政策に韓国の意見はどれだけ反映されるか』と韓国が外されることを恐れる論調で、コッチの方が的を得ています。韓国が気にしなければならないのは、北朝鮮より人権問題(北朝鮮ビラ)・クワッド(コウモリ外交)・半導体供給網(サムスン)・気候変動(バッテリ)の問題でしょう。

 メディアも商売ですから「売れる」記事を載せる必要はありますが、「見出し」は要注意です。

追記(4/20)
韓国外交部長官「日本汚染水放出、IAEA基準従うなら反対することはない」(鄭義溶外相の19日国会答弁)

 鄭義溶外相は、18日ケリー特使に件の海洋放出問題について韓国と歩調を合わせるよう頼んだ翌日、早くも180度意見を変えたようです。ケリー特使は「米政府がこの問題に介入しない」とピシャリ。文大統領は国際海洋裁判所に提訴する指示を出し、官民挙げての日本批判の中で突然の発言ですから、中央日報は翌20日になってやっと報道。散々煽った中央日報は見事に裏切られた、というより状況を把握せず反日に走った報いです。

 提訴しても負けると悟ったのか、月城原発の放射能垂れ流し問題に跳ね返ると考えたのか、ケリーさんに叱られたのかw、日米首脳会談効果かどうか分かりませんが、この一言で片付けようというわけです。あの大騒ぎは何だったのでしょう。文大統領の支持率が1.3%upして34.7%になったので、初期の目的は達した?→マッチポンプのようなものです。大騒ぎしたGSOMIA破棄と同じ構図せす。

 中央日報が面白いのではなく、韓国が面白いのですねぇ。

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李成市、宮嶋博史『朝鮮史 1』⑤朝鮮通信使、朝貢 (2017山川出版) [日記 (2021)]

朝鮮史 1: 先史-朝鮮王朝 (世界歴史大系)通信使.jpg
  朝鮮通信使
 朝鮮通信使は、秀吉の朝鮮侵攻「慶長の役」の9年後の1607年に始まります。対朝鮮貿易を再開したい対馬藩と日本の脅威を取り除いておきたい朝鮮の思惑が一致したということらしいです。1607~1811年の200年余の間に12回、朝鮮の使節が日本を訪れています。
 正使、副使、従事官(以上を三使)、制述官、書記、通訳他からなり、従者を含めると400~500名という大部隊。製述官と書記には漢詩や朱子学に秀でた文臣が任じられ、江戸までの旅の各地で日本の儒者や武士等との間で漢詩文を贈答し、また朱子学に関する議論を交わします。

それは徳川将軍に対する敬意の表明であると同時に、他方では朝鮮の文化的優位性を日本側に誇示するという側面も有していた。(p395)

 清への通信使(朝貢使)に「制述官」は含まれていませんから、小中華国が夷国に「教えてやる」、という上から目線です。正使、副使、従事官の「三使」や制述官は、『東搓録』と総称される日本見聞録を官に提出しています。この『東搓録』には、日本の繁栄とともに侮蔑が記されているそうです。日本の上から目線で日本を見ればそうなり、日本を褒めれば袋叩きにあった筈で、官僚としての建前でしょう(今の反日と同じ)。その辺りは『朝鮮通信使の真実』が詳しいです。
 日本への使者の身分は、正使は「正三品」、副使は「従三品」、清への使者は、正使は「正二品」、副使は「正三品」と、当然ですが日本<清だそうです。

これに対し徳川幕府の側では通信使の来日を「入貢」ととらえ、自らの「公儀の威光」を当該使節と日本国内に示す絶好の機会と考えていた。徳川幕府は通信使を一種の朝貢使とみなしていたわけである。・・・少なくとも徳川幕府が自らを中心に据えた華夷的外交秩序を確認ないし誇示するために通信使を利用したことは否定できない。(p401)

 数百人がゾロゾロと東海道を行くわけですから、これを見た人々は将軍の威光を感じたことでしょう。12回の朝鮮からの通信使に対して日本から朝鮮への使者はゼロ(清→朝鮮の使者はあった)。漢城への道を知られたくないという朝鮮の軍事上の理由だそうですが、朝鮮通信使を「入貢」と考える徳川幕府は使者を立てるという発想は無かったでしょう。『朝鮮通信使の真実』によると、通信使が将軍に謁見する際には「朝貢の礼」である「四度半の礼」という礼を行ったそうです。もっとも、清に対しては最上級の「三跪九叩頭の礼」だったそうです。

清への朝貢
 朝鮮通信使に比べ清への通信使は明らかに「朝貢」です。1637~1894年の258年間に494回実施され、

朝鮮は清に対して毎年、莫大な歳幣を納付する義務を負わされた。金銀をはじめとする貴金属、紙、水牛角や皮革類、刀剣、苧布や綿紬などの織物など、当初その品目は多様で数量も膨大であった。(p397)

 あまりの搾取に「まけてくれ」という悲鳴もあがったそうです。専門書?ですから書いてませんが、貢物には「貢女」という人間も含まれたようです。高麗、李朝の身分制度には賎民という奴隷制があり、妓生・運平の歴史がありますから不思議はありません。
 清朝皇帝の前でとる臣下の礼は跪いて額を3回地面に打ち付ける礼を3回繰り返す(合計9回)「三跪九叩頭の礼」。李朝の王は、中国の皇帝の使者を迎えるための門「迎恩門」で「三跪九叩頭の礼」して使者を迎えたらしいです。宗主国がいかなるものか想像できます。
 明治新政府が李朝宛てた親書に「皇」の文字があったため、李朝は受け取りを拒否し、これが征韓論を支持する民意ともなっています。「皇」は唯一中国皇帝にのみ使われる文字であって夷狄の日本が天皇として使うべき文字ではないというわけです。姜昌一駐日大使が天皇を「日王」と呼んで物議となりましたが、華夷秩序は彼の国では未だ生きているようです、「三つ子の魂」です。

 ①前方後円墳、②古朝鮮と倭、③倭寇、④外夷の侵攻、⑤朝鮮通信使、朝貢

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