SSブログ

映画 マグダラのマリア(2018英米) [日記 (2021)]

マグダラのマリア [DVD] 1.jpg


 マグダラのマリアは、映画『ダ・ヴィンチ・コード』で一挙にポピュラーになりました →私もそのクチ。マグダラのマリアは、聖書ではイエスの磔刑と復活に立ち会った女性ですが、一方で「罪深い女」=娼婦とされ、イエスの妻でイエスの子を生んだという伝承もあります。「ベタニアのマリア」などイエスの周りにはけっこう女性がいたようで、『(マグダラの)マリアによる福音書』があるように彼女はその最右翼です。そういう「下心」で観たんですがゲスのカングリで、何ということもない宗教映画でした。

 マグダラのマリア(ルーニー・マーラ)は父親によって望まぬ結婚を強いられこれを拒否。彼女には悪霊が憑いているということになって「癒やしの手」イエス(ホアキン・フェニックス)が招かれます。イエスもその初期には「悪魔祓い」エクソシストだったわけです。この時イエスは33歳、『パッション』『サン・オブ・ゴット』など映画ではイケメンが起用されるのですがで、40歳を超えたホアキン・フェニックスが演じるにはけっこう無理があります(『ジョーカー』を連想してしまうw)。で、マリアはイエスの信者となり家出して伝道に付き従います。イエスがどいう存在だったかいうと、当時のパレスチナはローマの属国でローマ人とユダヤ教に支配される地であり、民衆は救世主を待ち望んでいた。そこにローマやユダヤ教からの開放と神の国を説くナザレのイエスが現れます。映画ではこの辺りが説明不足。

 イエスがマリアにどんな癒しを施したのかは?ですが、娘は父親の言うままに結婚しなければならない時代に、イエスは自己主張したマリアを人間として認めたわけです。マリアはコロリと参ってしまったわけです、これはジェンダー映画?。後に聖母マリアが「アンタ、イエスに惚れてるね」とマグダラのマリアに言いますから、マリアに宗教以前の感情があったことになります。

 この時代、宗教的信頼を勝ち得るのは教義ではなく、足萎えを歩かせたり目くらの目を開かせる「医療行為」と悪霊の憑いたマリアを癒すなどの祈祷。イエスは死人を甦らせる奇蹟を見せ名声が高まります。マリアが何をしていたかというと、イエスの足に香油を塗る忠実な僕、ローマ兵に虐待された村人の最期を看取るなどのマリアの信仰が描かれます。イエスとマリアの眼差しに男女の情愛がうかがわれますが、イエスも教主ですから迂闊なことは出来ない、映画の方も描けない。マーティン・スコセッシは、『最後の誘惑』でマリアとの結婚をイエスの「夢」として描きました。

「オイ、イエスよ、どうすんだ?」と言っている(言っているのは極少数)間に、あれあれよという間に「過ぎ越しの祭り」での狼藉、最後の晩餐 、ゲッセマネ祈り、十字架を背負った市中引き回し、ゴルゴダの丘の磔刑となります(駆け足です)。マリアはイエスの復活を見届けるわけですが、イエスを埋葬した洞窟を開けてみると遺骸が消えていた、復活したイエスに会ったというだけの話。復活を見届けたのはマリアだけですから、イエスに会いたいという思いが生んだ幻覚かも知れません。
 というドラマの無い映画ですが、「目は口ほどにもの言う」二人の眼差しから 、マリアとイエスの秘めたるラブストーリーだと思って観れば、そう見えなくもないです。

 ラストの、マリアがイエスの復活をペトロ達に伝えるシーンです。
「イエスは復活した」と言うマリアに、
「それは夢だ」とペトロ(キウェテル・イジョフォー)は言います。また、
「我々は炎と血の中(最後の審判)で神の国は生まれると信じていたが、神の国は生まれずイエスは死んでしまった」と。
マリアは「神の国はここにある、神の国は私たちの中にある」とイエスの言葉を伝えます。
ペトロは反論します、「神の国はここにあると言うが、世界は変わっていないし圧政は続いている。貧しき者も苦しむ者も救われていない」と。
問題はここからで、
「イエスは我々12使徒ではなく何故アンタを選んで言葉を託したんだ?、オレは認めない。アンタは我々を引き裂き、イエスの心を弱くした

 ペトロたち十二使徒は教団創設からの同志ですが、マリアは遅れて加わった信者。イエスが、復活という奇跡を見せ大事な言葉を伝える相手は十二使徒のはず。ところがイエスはマリアを選ぶわけです。「イエスの心を弱くした」とは、「イエスはアンタに惚れていたんだ!だからアンタを選んだ」ということでしょう。イエスのラブストーリーを描くとすれば、こういう描きか方しかできない、そう云うことなんでしょう。

 イエスの映画としては『最後の誘惑』『パッション』の方が面白いです(パゾリーニの『奇跡の丘』はイマイチ)。「マグダラのマリア」フリークだとしてもあまりオススメできません。マリアについては、岡田温司『マグダラのマリア ~エロスとアガペーの聖女』がオススメ。

監督:ガース・デイヴィス
出演:ルーニー・マーラ、ホアキン・フェニックス、キウェテル・イジョフォー

タグ:映画
nice!(3)  コメント(0)