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半藤、加藤、保阪 大平洋戦争への道 ① 1931-1941(NHK出版) [日記 (2022)]

太平洋戦争への道 1931-1941 (NHK出版新書 659, 659)  こちらは1926~1945年の昭和史ですが、本書は満州事変の起こった1931年から真珠湾奇襲の1941年、タイトル通り太平洋戦に至る10年間の昭和史です。NHKラジオ番組『大平洋戦争への道』(2017.8/15)を書籍化したもので、半藤一利、加藤陽子、保阪正康、3氏の鼎談を保坂氏が補足解説する形態です。対談ですから話が転回し、脇道に外れた辺りに以外な真実があったりと興味深いです。
全6章です。

  1. 関東軍の暴走 (満州事変、満州国建国)
  2. 国際協調の放棄 (リットン報告書、国際連盟脱退)
  3. 言論・思想の統制 (五・一五事件、二・二六事件)
  4. 中国侵攻の拡大 (盧溝橋事件、国家総動員法制定)
  5. 三国同盟の締結 (第二次世界大戦勃発、日独伊三国同盟)
  6. 日米交渉の失敗 (野村・ハル会談、真珠湾攻撃)
新聞とラジオ
 満州事変に始まる太平洋戦争は、保坂によると日本の「生存権」の拡大であり、それを国民が支持し軍部が乗った。なぜ関東軍の暴走が止められなかったのか?。責任の一端は、「十万の英霊と二十億の国帑(費)」を費やして獲得した満州は「日本の生命線」と信じる国民と、国民を煽った新聞ラジオ、さらに関東軍の暴走を追認した陸軍中央にあると云います。

一九三一年(昭和六年)、 満州事変が勃発すると、新聞各紙は一斉に戦争支持にまわりました。国内最大の部数を誇った『東京日日新聞』 も、 「守れ満蒙(満州および内蒙古) 帝国の生命線」と題した四ページ全面の特集記事を掲載しました。新聞は、軍の発表をもとに競って号外を発行し、販売部数を大きく伸ばしました。

景気よくラッパを吹いた方が新聞は売れるわけです。新聞とともに戦争を伝えたのが、当時急速に普及していたラジオ。ラジオの受信契約数は1931年の100万が1940年には500万を越えています。 日本放送協会の当時の番組編成の方針は、

ラジオの全機能を動員して、生命線満蒙の認識を徹底させ、外には正義に立つ日本の国策を明示し、内には国民の覚悟と奮起とを促して、世論の方向を指示するに務める。

ラジオと新聞は満州事変の戦果は華々しく報じるものの、満州事変が関東軍の謀略で引き起こされた事実については、終戦まで報道しなかったようです。
 太平洋戦争は軍部の暴走と云うのが決まり相場ですが、それを支持した国民と国家がいたわけで。

 1931年の日本は、満州をウクライナに生命線をネオナチに置き換えると、報道規制をかけて支持率80%を誇るプーチンのロシアです。

満州国建国の土台となった2つの見解
1)山県有朋の「主権線」と「利益線」
 山県有朋は、1890年(明治23)のが施政方針演説で日本の目指す国家像を示します。国家には固有領土の「主権線」と経済的な「利益線」の二つがあり、利益線があってはじめて主権線が維持される、と説きます。日本列島という主権線を護るために満州と云う利益線が引かれるわけです。

2)満蒙問題私見
 関東軍参謀・石原莞爾は、彼の唱える「世界最終戦争」に備えるために、満蒙を植民地として経営し国力を蓄えることを説きます。

然レ共国家ノ状況之レヲ望ミ難キ場合ニモ若シ軍部ニシテ団結シ戦争計画ノ大綱ヲ樹テ得ルニ於テハ謀略ニヨリ機会ヲ作製シ軍部主動トナリ国家ヲ強引スルコト必スシモ困難ニアラス
 若シ又好機来ルニ於テハ関東軍ノ主動的行動ニ依リ回天ノ偉業ヲナシ得ル望絶無ト称シ難シ(『満蒙問題私見』)
 
 「謀略」と記された一参謀の『私見』を陸軍は基本構想とします。関東軍は張作霖爆殺事件(1928)を起こしていますから謀略の体質は『満蒙問題私見』以前からあったわけです。

満州事変、満州国建国
 9/18に柳条湖事件が起き、4日後に関東軍の参謀5人(参謀長の三宅光治、参謀の板垣征四郎、石原莞爾、片倉衷、謀略関の土肥原賢二)による打ち合わせが行われます。満洲国建国の構想が話し合われ、

東北四省及蒙古ヲ領域トセル宣統帝ヲ頭首トスル支那政権ヲ樹立

辛亥革命後に天津の日本領事館に亡命している清朝最後の皇帝溥儀を担ぎ出すことになります。
この地に各民族(五族協和)の楽土(王道楽土)をつくり、その国家体制は、国防・外交は日本が担うとしつつ、内政は新政権がその役割を果たす、という方針を固めた。表面的には満蒙地域に日本が支援する独立政権を立てるというかたちになったのである。そして天津で日本の庇護下にある溥儀を担ぎ出すことを決めた。関東軍の幕僚たちは、日本政府の意思にかかわらずにここまで国家の政策に自在に口を挟む状態になっていたのである。

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映画 特捜部Q 知りすぎたマルコ(2021デンマーク) [日記 (2022)]

特捜部Q 知りすぎたマルコ [DVD]
特捜部Q カルテ番号64 [DVD]  ストーリーはこちら(原作)をご参照。デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの警察ミステリー『特措部Q』を原作とする映画です。原作は8本、映画化は5本と云う人気シリーズなんですが…という話です。

 冒頭、自殺者を説得する人物が登場します。誰だこのオッサンは?、実はこのオッサンがシリーズの主人公の刑事カール。相棒のアサドも秘書ローセも、出演者総入れ換えです。
 『特捜部Q』の魅力は、コペンハーゲン警察のハミダシ刑事カールと助手アサド、秘書ローセの3人の絶妙の絡みにあります。もちろん、デンマークならではの事件の社会性、現代性と謎解きのサスペンスも魅力なのですが、組織でX印付いた刑事とシリア移民の助手、解離性同一性障害の秘書というトリオの魅力です、特に原作では。
 
 カールは、奥さんが男を作って家出したバツイチ。捜査で重傷を負い、復帰すると新設の迷宮入り事件の捜査部門「特捜部Q」に飛ばされます。部下はシリア人のアサドひとりで、オマエは邪魔だから「特捜部Q」で遊んでいろと。アサドは、バイクから戦車まで扱える「兵士」、正式な刑事ではなさそう。ストリートチルドレンとして人物眼に鋭いマルコに、アサドはこう映ります。
 
この男には決してひとには明かせない秘密がある、とマルコは直感した。笑いじわ裏に鋭いナイフを隠し持っている。こんな男にはどんなスリも近づけない。この男には近づかないほうがいい。それだけは確かだ。(原作)
 
 唯我独尊で強引なカールに沈着冷静なアサドのコンビネーションが面白いわけです。ふたりに加わるのが秘書のローセ。黒づくめのパンクファッションに身を包み、情報収集と適確な推理で二人を助け事件を解決に導きます。面白いのが、時折、「双子の姉」に変身すること、つまり二重人格。

 前作までは、カールをニコライ・リー・コスが、アサドをファレス・ファレスが演じていました。ファレス・ファレスは、『ゼロ・ダーク・サーティ』でパキスタンの現地CIA局員を演じた印象的な俳優です。『チャイルド44 森に消えた子供たち』ではこのふたりが揃って登場しますから、『特捜部Q』フリークはニヤッとします。

 ところがカールとアサドの俳優が変わると、観ている方は???、ある日突然ヒロインが変わった朝ドラのようなものです。カール役のウルリク・トムセンは、実年齢でニコライより10歳年上でどう見てもオッサン。カールのムチャ振りが影を潜め重厚なベテラン刑事に変身しています。カールは女好きで(原作通り)映画でもマルコが収容された施設のセラピストを口説くのですが、どうも絵になっていません。アサドも普通のアラブ人、ましてローセは…。たぶん5本続いた映画は打ち切り?、第9巻出ないのでしょうか?。

原作と映画
1.檻の中の女映画、2.キジ殺し映画、3.Pからのメッセージ映画、4.カルテ番号64映画、5.知りすぎたマルコ(このページ)、6.吊された少女、7.自撮りする女たち、8.アサドの祈り

監督:マーチン・サントフリート
出演:ウルリク・トムセン、ザキ・ユーセフ、ソフィー・トルプ

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半藤一利 昭和史 1926-1945 ③ 満州事変 (平凡社) [日記 (2022)]

昭和史 1926-1945 (平凡社ライブラリー)
 続きです(
 「昭和史」は、満州の利権を護るために陸軍が起こした張作霖爆殺事件(昭和3年)から始まります。天皇とその側近グループは陸軍を牽制し田中内閣総辞職となり、天皇が政治に関わることはタブーだということになります(沈黙する天皇)。一方海軍は、ロンドン軍縮会議(昭和4年)で戦艦の総トン数が制限されたため、統帥権干犯問題を起こし、天皇を持ち出せば政治が軍事に介入できない聖域が出来上がります(魔法の杖)。この2つで軍の暴走が始まり、日本は太平洋戦争へと走り始めます。著者が「昭和史の諸条件は常に満州問題絡んで起こる」と書く様に、1945年迄の昭和史のkeyワードは「満州」と「天皇」です。

 昭和3年:張作霖爆殺事件、石原莞爾 関東軍へ
 昭和4年:世界恐慌
 昭和5年:ロンドン軍縮条約(統帥権干犯問題)
 昭和6年:満州事変(柳条湖事件)、チチハル占領
 昭和7年:錦州占領、山海関に進出、上海事変、血盟団事件、満洲国建国
       5/15事件リットン調査団、国際連盟 日本の満州撤退勧告
 昭和8年:国際連盟脱退

満州事変
 昭和6年9/18、関東軍は柳条湖事件を起こして戦争を始めます。中国兵が満鉄の線路を爆破し、関東軍が反撃した事件ですが、実体は自作自演。関東軍は、11/18にはチチハル、翌年1/3に錦州を占領、山海関に日の丸を立ててしまいます。満州は日本の生命線である」という国民の支持と、石原莞爾の満州を傀儡国家にしてしまえと云う『満蒙問題解決案』とが背景です。当時の中国は四分五裂の状態(南京の蒋介石・国民政府、広東の汪兆銘、共産党の毛沢東、軍閥の張学良)、関東軍はその間隙を突いたわけです。明らかな侵略ですから、日本は満州から世界の目を逸らせようと上海事変まで起こします。

 上海事変は、板垣征四郎と石原莞爾が、上海日本公使館の田中隆吉中佐に金を渡し起こさせた事件です。「なにかあった時は、頼むから上海で事件を起こしてくれ。そうすると世界の目がそっちにいく」と言い渡していたのです。

(軍)中央からもらった二万円で、(田中は)自分の愛人で「東洋のマタ・ハリ」と言われている川島芳子も使って中国人に金をまき、事件を起こす算段をしました。そして一月十八日、ついに事件は起きます。日蓮宗の坊さん二人が信徒三人を連れて上海の街をと托鉢して歩いている時、襲撃し、二人が死に、三人が重傷を負う…。
・・・この時、満州の関東軍はさらに「しめた」というので、本庄軍司令官を中心に、北部のハルビンを取ってしまおうと攻撃を開始します。

 「東洋のマタハリ」まで登場するスパイ映画もどきの謀略です。川島芳子は、本名愛新覺羅顯㺭で父親は清朝の皇族だというのですから、昭和史の登場人物としてはピッタリ。余談ですが、上海事件は、カズオ・イシグロの『わたしたちが孤児だったころ』、イシグロ脚本の映画『上海の伯爵夫人』の舞台です。

朝日新聞は(満州事変を)華々しくうたい上げます。「平和の天子の如く旭日を浴びて皇軍入城す」 「皇軍の威武により、満洲新時代に入る」 とにかく新聞は売れるし、国民はみな喜ぶ から、新聞は相変わらず 太鼓を打ち鳴らします。

錦州爆撃を聞いて「自分の代に大戦争が起こるのであろうか。それが日本の運命なのか」と鈴木貫太郎侍従長に嘆いた天皇までが
「 関東軍はよくやった」という内容の勅語を発します。・・・柳条湖事件は自衛戦争である、チチハルや錦州の占領も「 皇軍の威武を中外に宣揚したもの である」と…。

 日本は、僧侶が中国人に殺され、居留民保護の名目で2万を越える軍をおくりこみ、派遣軍は中国軍を駆逐します。天皇は派遣軍の司令官に上海事件の不拡大を命じ、停戦協定を結びます。陸軍中央は、なぜ勢いに乗じて南京まで攻めて行かなかったのかとこれが不満。内閣および重臣(君側の奸)を倒すべきだ→と犬養首相暗殺を決行します(5/15事件)。狙われたのは元老西園寺公望、内大臣牧野伸顕、侍従長鈴木貫太郎の三人血盟団事件などが起こっていますか下地はあったわけです。

五・一五事件の結果として、日本の政党内閣は息の根を止められた。さらに、軍人の暴力が政治や言論の上に君臨しはじめる、一種の「恐怖時代」がここに明瞭にはじまる。

となり、二・二六事件に至ります。

満州国
 石原莞爾の『満蒙問題解決案』は、満州の資源を活用し国力を蓄え「世界最終戦争」に備えることを説きます。これを受けて参謀本部は「 満蒙問題解決方策 大綱」を策定し、満州事変、上海事変を起こし、昭和7年、満州国が誕生します。執政は清朝最後の皇帝(ラストエンペラー)溥儀。
 あからさまな傀儡国家というわけにはいきませんから、東三省(奉天省、吉林省、黒龍江省)から指導者を集め、三省の自発的な発議という形をとって独立宣言がなされます。ウクライナで、親ロ派を焚き付け住民投票によって東部2州を親ロシアの傀儡「人民共和国」をでっち上げようと云う戦略が進行中の様ですが、やることは今も昔もイッショ。

 満州事変にしろ満州国建国にしろ、日本の謀略でからバレないはずがない。リットン調査団が組織され、満州事変が日本の謀略か、満州国は日本の傀儡国家であるかを調べ、結論は黒。国際連盟は日本の満州国からの撤退を要求します。昭和8年3月、日本は国連から脱退して「栄光ある孤立」を選択します。

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映画 新感染 半島 ファイナル・ステージ(2020韓) [日記 (2022)]

新感染半島 ファイナル・ステージ [DVD]  原題、Peninsula=半島。『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編です。
 前作から4年、韓国はゾンビが徘徊する土地となり、人々は故国を捨て難民となって海外に逃れます。思わず日本には来ないでネと思ってしまうのですが、船の行く先が日本から香港に変更され一安心(笑。考えて見れば、日本より「怪しい」香港の方が、後のストーリー展開を考えると便利なわけです。
 韓国は移民の多い国で、戦前の日本はもとより現在も国外に移住する国民は多いようです。ゾンビウィルスが蔓延し韓国を逃げ出すというストーリーは、案外「国民情緒」に沿ったものではないかと思います…。で北朝鮮はどうかというと、半島は分断されていますからゾンビはいないそうですw。つい先日まで、北朝鮮はコロナウィルス・ゼロだと言っていましたから、ゾンビウィルス=コロナウィルスの映画だと云えます。

 韓国人は、香港の食堂で韓国人だと分かった途端追い出されます。今回のパンデミックで、米国でアジア人がヘイトされていた事象の反映です。またこうも言われています、「半島の奴らの雰囲気は独特だ、悲しい過去があるから」と。朝鮮人はその民族性故か香港では忌避されている様です。民族特有の「恨」?。「悲しい過去」とはパンデミックによる故国の喪失なんでしょうが、ネトウヨは「日韓併合」だとつい考えてしまいますw。
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オフィシャルページからお借りしました

 香港のジョンソク(カン・ドンウォン)に、インチョン(仁川)から多額のドル紙幣が積まれたトラックを運ぶ仕事が舞い込みます。韓国にはゾンビが必要としない財宝が眠っている! →ナルホド。でジョンソク+αチームが韓国に渡ります。半島には逃げ出せなかった人々が残っており、ゾンビの群れに襲われたジョンソクはそうした人々(ミンジョン一家)に助けられます。国家が消え弱肉強食の世界ですから、残った人々を暴力で支配する631部隊と呼ばれる集団も存在します。多額のドルを積んだトラックをめぐって、ジョンソク、ジョンソクを助けたミンジョン一家、631部隊と三つ巴の戦いが繰り広げられます…とストーリーは至って陳腐。TVドラマ『ウォーキング・デッド』の方が「ドラマ」があってはるかに面白いです。この映画は、舞台を半島に置き換えた『ウォーキング・デッド』のデッド・コピーです。

監督:ヨン・サンホ
出演:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン

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映画 マイウェイ 12,000キロの真実(2011韓) PrimeVideo [日記 (2022)]

マイウェイ 12,000キロの真実 [DVD]   舞台が大平洋戦争前の《朝鮮》だ云うので観ました。この時代を舞台にした韓国映画は『密偵』『暗殺』『お嬢さん』を観ましたが、セットや風俗はノスタルジックでなかなかのものです。朝鮮人を貶める日本人の登場は定番みたいなものですが。

 1928年京城(ソウル)で、日本人の長谷川辰雄少年、朝鮮人のキム・ジュンシク少年が出会います。朝鮮は1910年に日本に併合されていますから、ジュンシクは植民地の少年、辰雄は宗主国の少年。正確には、当時の朝鮮は植民地ではなく日本ですが、日本人と朝鮮人は支配、被支配の関係にあります。

 1940年の東京オリンピック(後に日本が辞退)のマラソン選考会で、このふたりがデットヒートを繰り広げ、ジュンシク(チャン・ドンゴン)が優勝します。ところが途中で走行妨害があったとして失格、2位の辰雄(オダギリジョー)が優勝します。抗議は暴動に発展し、ジュンシクたち朝鮮青年は警察に捕まった挙げ句、軍隊に放り込まれます。余談ですが朝鮮に徴兵制が敷かれるのは1944年で、それ以前は志願制。ジュンシクが兵士として戦場に立つためにはこれしかないわけです。『マイウェイ』は、マラソンが一方のテーマとなっています。たぶん、1936年ベルリンオリンピックのマラソンで金メダルを獲得した孫基禎(当時は日本人)が背景にあります。

 1939年ノモンハン、ジュンシクと辰雄が戦場で再び出会います。ノモンハン事件は満州国とモンゴルの国境紛争で、それぞれの国のバックに付く日本とソ連の戦争。わずか4ヶ月間で双方に2万を越える戦死者が出る激戦です。ジュンシクは一兵卒ですが辰雄は大佐、「皇軍」「天皇陛下」を連発する典型的な日本軍人。朝鮮兵を「チョーセンジン」と蔑視する下士官も登場し、演じるのは「れいわ新撰組」の山本太郎。
 激戦の末、ジュンシクと辰雄はソ連軍の捕虜となりシベリアの捕虜収容所に送られます。捕虜収容所は、「シベリア抑留」によって明らかになっていますが、60万人の捕虜の10%が亡くなるという過酷な生活です。生き延びるためにソ連軍に寝返る捕虜、は日本人の誇りを捨てず虐待を受ける辰雄など人様々。

 1941年の東部戦線、ナチスがソ連に侵攻し捕虜は赤軍の兵士として戦争に投入されます。独ソ戦の戦場はウクライナ辺りでしょうか。満足な兵器も与えられずドイツ兵と戦う赤軍兵士、退却を許さず味方の兵士を撃つ赤軍将校。この辺りはハリウッド映画のパクリ。辰雄は、この赤軍将校にノモンハンで退却する日本兵を射殺した自分を重ねるわけです。
 ジュンシクと辰雄は、ドイツ兵の服を奪い朝鮮を目指して戦場を離脱します。こうなるとジュンシクと辰雄には恩讐を越え友情が芽生えます。
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 1944年の仏ノルマンディー、ふたりは、ドイツ兵として連合軍のノルマンディー上陸作戦のあったユタ・ビーチへ送られます。映画とは云え荒唐無稽ですが、これにはヤン・キョンジョンというモデルがあります。ユタ・ビーチで、日本、ソ連、ドイツに徴兵された朝鮮人がアメリカ軍の捕虜となったそうです。韓国では有名な話で、TVでもドキュメント番組として放送されたようです。
 ジュンシクはユタ・ビーチで命を落とし、死の間際にマラソンで獲得したメダルを辰雄に渡します。日本人と分かれば命の保証がないため、朝鮮人として生き延びろということです。
 ラストは、”JS KIM”と記されたユニフォームを着て走る辰雄のマラソン姿で幕。

 ノモンハン、シベリア、ノルマンディーと数奇な運命をたどったヤン・キョンジョンと、ベルリンオリンピックの金メダリスト孫基禎を元に、ナショナリズムを謳った映画です。ジュンシクはユタ・ビーチで死んでいますからヤン・キョンジョンは日本人辰雄と云うことになり、親日映画になってしまいますw。
 どこまでが実写でどこからがCGなのか?ですが、戦闘シーンは迫力満点です。韓国でヒットしたのかどうかは分かりませんが、amazonのレヴューは概ね好意的で、個人的にもイチオシ。

監督:カン・ジェギュ
出演:オダギリジョー、チャン・ドンゴン

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ドクダミ酒 [日記 (2022)]

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 庭の草むしりで大量のドクダミが「採れ」ました。ドクダミ茶は試してみたのですが、あまり美味しくなかったので、今度はドクダミ酒。カリン酒はなかなかイケルので、ドクダミは如何?というわけです。

 netで検索すると、干したドクダミを35度以上の焼酎(orウォッカ)で漬けるだけ。3ヶ月寝かせればあの独特の臭いが消えて飲める様です。虫除けにも効果があるようで一石二鳥。ドクダミが美味しい酒に変わるとなる、草むしりも苦になりませんw。3ヶ月後が楽しみです。 →半年経ったので試飲してみました

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中野京子 怖い絵(2016角川文庫) [日記 (2022)]

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 西洋絵画には、象徴と寓意が隠されていることはよく知られています。宗教画などではドラマチックなシーンが題材に選ばれますから、象徴、寓意そのものでしょう。本書は、製作の背景や時代から、絵画に隠された寓意≒「怖い」を解説します。

ドガ『踊り子』
 ドガといえば『踊り子』、誰でも一度は目にしたことのある名画です。何処が「怖い」かというと、メインの踊り子ではなく左端に描かれた黒い服を着た男性。この男性は踊り子のパトロンだと云うのです。現在ではバレエは舞台芸術ですが、著者によると、ドガが活躍した当時(19世紀末、仏)バレエが上演されるオペラ座は上流階級の社交場だったらしい。

飲食も自由だったし、カーテンを閉じればそこで何をしようとかまわなかった。またこれら高額の桟敷席を持つ客は、上演中であっても自由に楽屋や舞台袖に出入りする権利を持っていた。となれば、容易に想像がつくことだが、「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」(当時の批評家の言葉)となる。ではその娼館に常駐している娼婦とは誰か? それが踊り子であった。

 本書では取り上げられていませんが、ドガには『室内(強姦)』という作品があるらしい。『踊り子』は風俗画ですが、wikiの記述を観ると、こちらの方がはるかにanomalous(異常)「怖い」です。ゾラの『テレーズ・ラカン』の1シーンという説があるそうです。孤児の娘が叔母の息子と結婚させられ、不倫の果に息子を殺す話です。そう思って見ると「怖い」です。
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 ドガ『室内(強姦)          クノップフ『見捨てられた街』

クノップフ『見捨てられた街』
 クノップフは、19~20世紀のベルギーの象徴派の画家です。『見捨てられた街』は、クノップフが幼年期を過ごした郷里ブルージュ(世界遺産)。

この絵の何が怖いかといえば、思い出に囚われたまま滅びてゆこうとする人の心が伝わってくるからだ。もはや先へ進むことはできず、かといって過ぎさった昔にはもどれない。決して再現されることのない過去を前に、ただ立ちつくす。過去の遺物がすでに死を内包しているのはわかっても、それでもどうしようもなく恋着し続ける。そんな、死に取りつかれた人の心が伝わってくる。だから見ている側も身がすくむ。

 クノップフには7人の女性を描いた『記憶』という作品があるそうです。7人の女性の顔はいずれも同一でクノップフの妹だそうです。彼は最愛の妹をモチーフに多くの絵を描いた様です。『スフィンクスの愛撫』の方がもっと「怖い」。

 本書には、上記の他全部で21の「怖い絵」の解説が収められています。
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左がクノップフの妹

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映画 KT(2002日韓) [日記 (2022)]

KT 特別版 [DVD]  『団地』『一度も撃ってません』に続き、阪本順治監督3本目。KTとは韓国第15代大統領、金大中のことです。1973年、KCIA(韓国中央情報部)が、南北統一を画策する民主活動家・金大中を東京のホテルから拉致した事件を描いたサスペンスです。

金大中事件
 金大中事件に陸上自衛隊が関わっていたというがあります。韓国大統領・朴正煕と日本陸軍士官学校同窓の自衛隊幹部が朴正煕を支援し、金大中事件に加担したというのです。映画は、陸自の三佐が金大中の所在を突き止め、KCIAが拉致する迄をドキュメント風に描きます。
 自衛隊幹部が金大中事件に関与したのかどうかは謎ですが、事件に関わった日本の調査会社があったことは事実。その経営者が「陸上幕僚監部第2部(情報部門)」の「別班」に所属していた元自衛官・某であり、拉致グループのリーダー金東雲と面識があったことも判明しています。米CIA、KCIA、陸自情報組織が繋がっていたとしても、何の不思議もありません。某は、金東雲から依頼はあったがこれを断り、自衛隊も関与を否定しています。

自分の戦争
 冒頭、三島由紀夫の市ヶ谷乱入事件が描かれます。主人公・富田(佐藤浩市)が自決した部屋の扉の前に菊の花を手向けるシーンがあり、「憲法改正のクーデターを起こしていれば三島を無駄死させなかった」と語ります。冨田が、自衛官でありながら国家の主権を犯す犯罪 、金大中事件に荷担した理由です。

 陸自幹部は、中央調査隊(陸上自衛隊の情報組織)で北朝鮮、韓国のスパイを内偵していた冨田にKCIAに協力することを命じます。富田は、興信所を立ち上げ、金東雲(韓国大使館一等書記官、KCIA)の依頼の形をとって金大中の行方を追います。冨田は、金大中と接触を図るジャーナリスト(原田芳雄)の動きから、金大中が九段下のホテル・グランドパレスに宿泊していることを掴み、KCIAは拉致を実行します。KCIAは金大中を車で神戸の領事館に運び、貨物船から海中に投棄して殺害する計画でしたが、海保ヘリに追跡されKCIAの関与が明らかになっため殺害を思い止まり、釜山に運びソウルの自宅付近で解放します。

 映画は、金大中事件の経緯を忠実に再現し、冨田の「職務」遂行を描きます。拉致ではなく殺害計画であることを知った自衛隊は中止を命じますが、冨田は止めません。金大中の南北統一を阻止することが、日本の国益だと考えたのです。これは「自分の戦争」だと表現しています。
 陸自は冨田を逮捕して自決を迫り、「二・二六の野中(四郎)大尉ですか?、自分は自決はしません」と。二・二六事件の背景には陸軍内部の皇道派と統制派の派遣争いがあり、青年将校の決起には陸軍中枢が関わっていると言われます。三島由紀夫とこのシーケンスで、冨田の憂国を語りたかったのでしょう。

 冨田は事件の経緯を件のジャーナリストに話し、記事にしろと。ヤバくないのかと問う彼に、冨田は、特捜に呼ばれた方が(口封じ、暗殺の)保険になる。自衛隊は日陰でコッソリ生きていたんだよ 、災害出動以外で日が当たっちゃ困るんだ、と。この保険については伏線があり、事件の首謀者・金東雲も拉致した現場に指紋を残すという保険をかけています。
 ラストは、冨田が恋人と会うシーンで画面が暗転し、銃声。保険は無駄だったのか?。

 メッセージ性を持った様々な人物が登場します。原田芳雄演じるジャーナリストは特攻隊の生き残り。金大中のボディーガードは韓国語の話せない在日二世、その母親は息子が日本人と結婚することを許さず、冨田の恋人は政治運動で捕まり拷問を受けた韓国女性。神戸領事館の女性は、日本人の冨田が加わっていることを知り「日帝36年の恨(ハン)」と宣う。これがストーリーに上手く乗っているかというと、イマイチですが。
 個人的には面白かったですが、韓国の近現代史に興味が無ければスルーの映画でしょう。ちなみに、韓国では2週間で公開打ちきりなったそうです。監督が阪本順治ですから石橋蓮司、岸辺一徳が出演かと思ったのですが、残念ながら出演していません。

監督:阪本順治
出演:佐藤浩市、キム・ガプス、チェ・イルファ、原田芳雄

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伊集院 静 ミチクサ先生 下 (2021講談社) [日記 (2022)]

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 続きです。
留学
 漱石は熊本で結婚し人生の新たなスタートを切ります。慣れない結婚生活で夫人が神経症となり入水自殺を図るなどの影の部分もありますが、長女も生まれ漱石は概ね幸せであったというのが作者の見方です。

名月や十三円の家に住む
安々と海鼠の如き子を生めり

 旧制高校は大学の予備校でもあり、漱石は入試のために課外授業をし落第生の救済までする熱心な教師だったようです。漱石は五高教授からイギリス留学を命じられます。文部省から課せられた英語教育の研究は放擲、ケンブリッジにも通わず個人教授を受けシェークスピアを研究します。本を買うため乏しい留学費用を切り詰め、下宿で英文学と格闘する姿を見て、ロンドンの日本人が「夏目狂セリ」と電報を打つ始末。

 他人には「狂っている」と写る漱石も彼なりの楽しみも見出し、盛んに美術館を巡りをしています。『坊っちゃん』には赤シャツの語るターナーの風景画が登場しますが、この時観た絵画、ミレイ『オフェリア』、リヴィエラー『ガダラの豚の奇跡』、ウォーターハウス『人魚』『シャロットの女』が作品に登場するそうです。検索してみましたが、精神分析の対象となりそうな絵ばかりですw。
 下宿の主人に、神経症を直すには旅行と運動がいいと言われ、漱石は自転車の練習をしています(自転車日記)。
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 子規の訃報に接したのもロンドンです。

筒袖や秋の柩にしたがはず
手向くべき線香もなくて暮の秋

 ロンドン留学の2年間は暗いイメージで捉え勝ちですが、美術館巡り、スコットランド旅行、自転車練習と、楽しいこともあったということでしょう。

小説家
 高浜虚子が漱石に小説執筆を依頼します。漱石は留学中に虚子に頼まれ『ホトトギス』に『倫敦消息』を書いて載せています。虚子は原稿(猫)を読み、掲載号の部数を2倍に決定します。『ホトトギス』明治38年1月号に『猫』が掲載され、これが評判が良く完売?、虚子は通常の2倍の原稿料を払います。原稿料を前にした鏡子は、

「あら、ずいぶんと頂くものなんですね」
虚子が金之助に礼を述べながら差し出した原稿料の入った封筒を覗いて、鏡子が言った。
「これ、こんなところで中を見るんじゃない。高浜君が目の前にいるんだよ」

見てきたような話ですが、これは評伝ではなく小説。単行本となって発売されると初刷1,000部がたちまち完売で印税150円。さらに1,000部刷りまたも印税150円が入り、鏡子夫人はニンマリ。この時の漱石は、帝国大学の年俸が800円、一高が700円で計1,500円。

 4月号には、『猫』の続編に加えて『坊つちやん』が掲載されます。句誌『ホトトギス』は通常1,000部売れればいい方ですが、4月号は5,500部売れたそうです。
 明治30年代後半から、40年代前半にかけて、旧高校は7校に増え、大学も東北、九州に帝大が新設され、慶応義塾、早稲田、明治、法政など専門学校が大学となり、そこに学ぶ学生が読者として小説家・漱石を支えたことになります。

 日清、日露戦争で読者を増やした新聞が、新しい書き手として漱石に目を付け、漱石は明治40年、朝日新聞に入社します。結果的にですが、漱石は博士、帝大教授を蹴ったわけで、40歳の華麗なる転身です。何故漱石は朝日新聞に入社したのか?。明治40年正月の菅虎雄と高浜虚子に宛てた手紙には、

もうつくづく教師の仕事は嫌になった。イギリスから帰国して、自分がこれから何をすべきかを考えてみた。わかっていたことは、安寧に毎日を送ることだ。それが私の神経には一番良いらしい。ところが、千駄木の家から帝国大学にむかって道を歩くと、学舎が近づくにつれ、胸の奥からイライラとする黒いかたまりが湧いて来て、門をくぐる頃には、もう爆発しそうになってしまう。いつ爆発してしまうか、私にもわからない。
うつ病、適応障害です。そうした折に朝日新聞から入社の誘いがあり、朝日新聞の示す入社の条件は、

月給二百円。賞与は二回。賞与のうち六月には五十円の特別賞与も加える。新聞社に出社するのは、月に二回。ただし、新聞小説の連載が始まれば欠勤してよい。金之助は朝日入社を決意し、契約書にサインした。十日後、帝国大学へ退職願を提出した。帝国大学では金之助の待遇について大変に気遣い、英文学の教授に迎えようとしていたところだった。

 明治41年6月、朝日新聞に『虞美人草』の連載が始まり、大正5年絶筆『明暗』まで、漱石は律儀に小説を書き続けます。
 「漱石」というと構えてしまいますが、肩の凝らない読み物としてそれなりです。『猫』から読み返してみようか...。

タグ:読書
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映画 一度も撃ってません(2020日) [日記 (2022)]

一度も撃ってません [Blu-ray]  『団地』に続いて阪本順治、今度は石橋蓮司が主演で、大楠道代、岸部一徳も登場します。

本作は、阪本監督や石橋ら役者仲間が、今は亡き俳優、原田芳雄の家に集まったときに、「石橋を主演にした映画を作ろう」という話になったのがはじまりだという。(産経新聞)

 そんな話ですから、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、柄本明など錚々たるメンバーが脇を固めます。

石橋蓮司(市川、御前零児)
 そんなジャンルはありませんが、ハードボイルド・コメディです。78歳の石橋が演じるのは売れない小説家、市川。純文学から出発してハードボイルドに転向し、原稿を出版社にせっせと持ち込むもいずれもボツ。編集者は北方謙三の二番煎じ、三番煎じだと言い、ハードボイルドさえ時代遅れなのにもっと陳腐、物語が無いと酷評します。つまり、この映画は時代遅れのハードボイルドなんだと、制作者自身が言っていることになります。
 市川の小説は、伝説の殺し屋の仕業だと噂される未解決殺人事件をリアルに描写したものだそうです。市川は、友人から持ち込まれる殺しの依頼をヒットマンを使って実行する「伝説の殺し屋」。ヒットマンの情報を元に「ハードボイルド」を執筆するわけです。その市川のキャラクターはというと、教師をしていた妻(大楠道代)の年金で暮らし、ゴミを出し洗濯物を干す主夫。夜になるとコートとボルサノーリを纏いショットバーで殺しの相談する裏稼業、決めセリフは「夜は酒が連れてくる」従ってペンネームは御前零児w。
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岸部一徳(石田)
 市川に殺しを依頼する石田を演じるのが岸部一徳。女絡みで馘になったヤメ検で元暴力団の弁護士、資格剥奪されて今は警備会社の裏顧問、「表に出ないドブ浚い」と言われる(『団地』とは打って変わって)凄いキャラクターです。岸部一徳はコメディ・キャラですが、こういう悪役も似合います。
 石田が依頼したターゲットは、高配当を餌に巨額の金を集め倒産を繰り返す投資コンサルタント。餌食になって自殺した被害者や自己破産は数知れずという詐欺師。これでは、「必殺仕事人」の元締じゃないですか。

大楠道代(弥生)、桃井かおり(ひかる)
  弥生は、小学校だか中学校の教師をして売れない小説家・市川を支えてきた糟糠の妻 。自室に鍵をかけ、夜な夜な巷を徘徊する市川の素行に不審を抱き、長年連れ添った夫との関係に疑問を持ちます。市川の行動を追う中、ショットバーでひかると出会います。
 ひかるは、元ミュージカルのスターで市川と石田の50年来の友人。ひかるがウドンを湯がくシーンがあり、ウドン屋の主人なのかパートなのか?。夜な夜なバーに現れ、あの口調で石橋蓮司と岸部一徳に絡みます。バーでシェーカーを片手に”SummetTime”を歌う芸まで披露してくれます。
 ひかるは弥生に市川との馴れ初めを語ります。1960年代末、機動隊に追われて逃げ込んだ喫茶店で市川と石田に出会ったそうです。市川は二浪してやっと入った二流私大の学生、石田は司法試験しか頭にない国立大の学生。その成れの果てが、売れない小説家と資格を剥奪された元弁護士ということです。

 2020年に「団塊の世代」を映画にすれば、「一度も拳銃を撃たなかった」というハードボイルドとなります。徹頭徹尾ハードボイルドのカリカチュアであり、1969~1970年代の青春のカリカチュア、いやオマージュです。『一度も撃ってません』とは、なかなか切ないタイトルです。

監督:阪本順治
出演:石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり

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