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中野京子 怖い絵(2016角川文庫) [日記 (2022)]

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 西洋絵画には、象徴と寓意が隠されていることはよく知られています。宗教画などではドラマチックなシーンが題材に選ばれますから、象徴、寓意そのものでしょう。本書は、製作の背景や時代から、絵画に隠された寓意≒「怖い」を解説します。

ドガ『踊り子』
 ドガといえば『踊り子』、誰でも一度は目にしたことのある名画です。何処が「怖い」かというと、メインの踊り子ではなく左端に描かれた黒い服を着た男性。この男性は踊り子のパトロンだと云うのです。現在ではバレエは舞台芸術ですが、著者によると、ドガが活躍した当時(19世紀末、仏)バレエが上演されるオペラ座は上流階級の社交場だったらしい。

飲食も自由だったし、カーテンを閉じればそこで何をしようとかまわなかった。またこれら高額の桟敷席を持つ客は、上演中であっても自由に楽屋や舞台袖に出入りする権利を持っていた。となれば、容易に想像がつくことだが、「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」(当時の批評家の言葉)となる。ではその娼館に常駐している娼婦とは誰か? それが踊り子であった。

 本書では取り上げられていませんが、ドガには『室内(強姦)』という作品があるらしい。『踊り子』は風俗画ですが、wikiの記述を観ると、こちらの方がはるかにanomalous(異常)「怖い」です。ゾラの『テレーズ・ラカン』の1シーンという説があるそうです。孤児の娘が叔母の息子と結婚させられ、不倫の果に息子を殺す話です。そう思って見ると「怖い」です。
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 ドガ『室内(強姦)          クノップフ『見捨てられた街』

クノップフ『見捨てられた街』
 クノップフは、19~20世紀のベルギーの象徴派の画家です。『見捨てられた街』は、クノップフが幼年期を過ごした郷里ブルージュ(世界遺産)。

この絵の何が怖いかといえば、思い出に囚われたまま滅びてゆこうとする人の心が伝わってくるからだ。もはや先へ進むことはできず、かといって過ぎさった昔にはもどれない。決して再現されることのない過去を前に、ただ立ちつくす。過去の遺物がすでに死を内包しているのはわかっても、それでもどうしようもなく恋着し続ける。そんな、死に取りつかれた人の心が伝わってくる。だから見ている側も身がすくむ。

 クノップフには7人の女性を描いた『記憶』という作品があるそうです。7人の女性の顔はいずれも同一でクノップフの妹だそうです。彼は最愛の妹をモチーフに多くの絵を描いた様です。『スフィンクスの愛撫』の方がもっと「怖い」。

 本書には、上記の他全部で21の「怖い絵」の解説が収められています。
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左がクノップフの妹

タグ:読書
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