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映画 幸福(しあわせ)のスイッチ(2006日) [日記 (2024)]

幸福のスイッチ [DVD]
 出演者が全員?関西出身、台詞が関西弁というので観ました(NHK/BS)。舞台は和歌山県田辺市(JRでは紀伊田辺)、町の電気屋さんの三姉妹の話です。お客さん第一で、電気製品を売るより「勿体無い」と修理に情熱を燃やす電気店。ここまで極端ではありませんが、昔はこうした電気屋さんはどの町にもありました。稲田電器の主人・誠一郎(沢田研二)は、電球が切れた、取り扱いが分からない、と電話があればお客の家まで行き、お客の求めに応じて犬小屋まで作る面倒見の良さ。従って店は火の車。おまけに市内に家電量販店が開店したため、若い顧客はそちらに流れ店はさらに火の車。

 誠一郎がアンテナ工事で屋根から落ち入院、東京から次女・怜(上野樹里)が田辺に帰ります。長女・瞳(本上まなみ)はみかん農家に嫁ぎ、三女・香(中村静香)は高校生(母親は亡くなっている)。誠一郎と折り合いが悪く東京に逃げ出した怜が電気店を手伝うハメとなります。不平タラタラの怜に、何時どの様に『幸福(しあわせ)のスイッチ』が入るかと言うのが映画の第一の主題。答えは、誠一郎の電球一個でも老人の家に取り替えに行く商売姿勢で、これが第二の主題です。
 舞台が田辺市ですから、全員が関西弁と言うより和歌山弁を喋り、関西人の耳には心地よいです。怜が「ちゃっちゃとしいや!(さっさとしなさい)」と言うのを聞いて嬉しくなりましたw。

 三姉妹の映画に、是枝裕和『海街diary』(2015)があります。こちらの方は鎌倉を舞台に、三姉妹が父親の死後に異母妹を引き取った四姉妹の物語で、鎌倉の四季の中で四姉妹が支え合って生きる姿を描いたドラマです。正統派?四姉妹ドラマですから、「ちゃっちゃとしいや!」の様なローカル性はありません。
 『幸福)のスイッチ』の方は、お客第一の実直な父親とそれに反発する次女の和解の話です。父親の浮気が発覚しますが(母親は既に亡くなっているものの)、浮気も出来ない父親よりモテる父親の方がいいと言うことになり、浮気も和解も父親のお客第一という優しさに支えられていると言う「解」が与えられます。
 役者も生来の関西弁(和歌山弁)でイキイキとセリフを喋り、地で行く沢田研二の演技も見どころです。思わぬ拾い物で関西人にはオススメの一編。

監督:安田真奈
出演:上野樹里、本上まなみ、中村静香、沢田研二

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トマス・H・クック 芹澤 恵訳 夏草の記憶(1999文春文庫) [日記 (2024)]

夏草の記憶 (文春文庫 ク 6-9)
アラバマ州チョクトー
 原題“Breakheart Hill”(心臓破りの丘)。1962年5月、米南部アラバマ州の田舎町チョクトーの「ブレークハート・ヒル(心臓破りの丘)」で女子高生ケリー・トロイが何者かに襲われ人生を終えます。30数年後、ケリーの同級生で医師のベン・ウェイドがこの事件回想するミステリーです。冒頭から思わせ振りで、自省的な回想が続きます、

これは、私の記憶にあるなかでもっとも暗い話である。また、このことについては、誰にも語るまいと固く心に決めていた話でもある。

(事件のあった)あの日のことを口にするルークのかたわらで、私はまたしても、 害意を秘めた 恐喝者の影のにように、真実が身に迫ってくるのを感じた。

 まるで「犯人は私だ」と言う様にです。アラバマ州チョクトーはDeep south、

裁判所の庁舎前の芝生では、いまだに南部連合の旗が翻り、その旗が象徴する古い世界の価値観、厳格な道徳と社会道義と勝れてヴィクトリア朝的な社会体制とが、堂々たる影響力を持っていたような町だった…。

ケリー・トロイ
 ケリーは北部からの転校生で父親は無く、保守的なディープ・サウスの価値観とモラルから外れた存在です。ベンはその父親不在の影を持つミステリアスな美少女ケリーに恋することになります。ストーリーは、誰が何のためにケリーを襲ったのか?の謎を孕みながら、チョクトー高校の学校生活とベンの片思いが語られます。高校生活の描写は、読者のノスタルジーをかき立てる筈で、ノスタルジーの意匠を纏ったサスペンスです。

 ケリーはチョクトーの“ブレイクハート・ヒル”の謂れを調べ、「心臓破りの丘」は奴隷たちを丘の頂まで競争させたレースに由来していることを突き止めます。1962年ですから公民権運動の真っ最中。ケリーは、学校新聞にこれを投稿して一部の人の反感を買います。裁判ではこの投稿が「事件」の引き金になったと結論付けられ、レイシストで粗暴な男が逮捕されます。後に、ブレイクハート・ヒルの頂上に小さな記念碑が建てられ、「一九六二年五月二十七日「公民権運動で犠牲となったケリー・トロイを記念して」と刻まれることとなります。

ベン・ウェイド
 ベンは学校新聞の発行を任され、編集を手伝うケリーと濃密な時間を過ごす内に彼女への思慕が募るようになります。10代の恋ですから空想的で純粋ですが、健康な10代の男性の性的欲望もあります。
 学習発表会の『ロメオとジュリエット』でジュリエットにケリーが選ばれ、ロメオにトッドが選ばれます。トッドはチョクトー高校の花形運動選手にして生徒会長。二人が劇を超えてロメオとジュリエットの関係となったと邪推してベンは嫉妬に狂い、そんな中でケリーは襲われたわけです。

 事件当日、ベンの友人ルークはケリーの頼みで彼女をブレークハート・ヒルまで車で送り、帰っていないことを不審に思い丘に行って変わり果てたケリーを発見します。彼女は何のためにブレークハート・ヒルに行ったのか?、誰かに会うために行ったのではないか、その相手とはベンではないかと言うのがルークの推測です。ベンとケリーは学校新聞の編集を通じて親密な関係にあります。ベンはケリーに片思い、関係が拗れケリーを襲い彼女の人生を奪ったのはないかという疑いを抱いたのです。犯人はベン?…。

 同級生のノーリーンもまたベンを疑っています。ケリーが事件の当日ベンを探していたことを彼に明かします。

私たちはそのまましばらく、向かい合って立っていた。それから、ノーリーンの腕が伸びてきて、私をしっかりと抱き締めた。ふたたび彼女が口を開いたとき声をひそめて私の耳元に囁きかけてきたとき、私はそこにまぎれもなく共犯者の口調を聞き取った。「わたしたち、これからどうしましょう?」(p387) 

 たかが高校生の恋と言う勿れ、「愛憎」という関係性の基本の話ですから。
 事件は、レイシストでケリーの記事を快く思わないチョクトー高校を退学になった男の犯罪として決着します。

 ケリーを失ったベンは同級生ノーリーンと結婚しますが、事件はノーリーンとの関係にも影を落としています。二人が映画を観た後、ベンは映画に描かれた愛を絶賛し、ノーリーンは

 きっぱりした口調で「いいえ」と言った。 「誰しも、あんなふうに愛されてみたいと思うだろうけれど、誰もがあそこまで愛してもらえるわけじゃないわ」一瞬、彼女の眼が潤んだように思えた。それを見たとき、私は妻の担ってきたブレイクハート・ヒルの重みを感じた。(p230)

 ベンは30年後の今も「事件」を引きずり、引きずる故にベンの中にケリーが住み着いています。ブレークハート・ヒルの事件は、ベンやノーリーンだけではなくチョクトー高校の多くの生徒のその後の人生に影を落としています。ベンは医学部に進学し故郷に戻り開業医となります。チョクトーの同級生の多くは故郷に止まり、ベンの患者となり、高校生のカップルは結婚してベンに子供を取り上げて貰うということになります。チョクトー高校の人間関係は、30年後のチョクトー住民の人間関係ともなるわけです。
 
 ここから先は、あるいはこんなふうに終わっていたかもしれない。世間知らずの少年が、恋に破れて派手に泣き崩れるが、じきに新たな希望を胸に身を起こし、涙を拭って大人への道を実直に歩きはじめ、まもなく自分に似つかわしい生き方を見つける。やがて、思いがけずめぐりあった女性を愛し、思いがけず授かった子どもたちを育て、満ち足りた生活を築きあげ、そこそこの尊敬を集めるようになる。そして、最後にはきっと、身も世もなく泣きじゃくった、あの午後のことを折節に思い返しては、その後の人生から学んだ英知に慰めを得た者の笑みを浮かべるようになる。そんな話として、終わっていた可能性もあったはずだ。しかし、そうはならなかった。(p340)
果たして犯人はベンなのか?。最後の最後で、作者の詐術に嵌ったことに気付かされます。 →オススメ

 『その女アレックス』が面白かったのでピエール・ルメートルを4冊、『クリスマスのフロスト』『窓際のスパイ』と立て続けに読みました。何故ミステリーに惹かれるのか?、

大量死の時代にあっても、ミステリーは不法に奪われた人ひとりの生命がなおも人間の世界で重要な意味を持つと主張する、ロマンティックな個人主義の最後の砦となっている。(本書の解説)

ということでしょうか。

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絵日記 SDGs園芸 [日記 (2024)]

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 ヒマワリは昨年の種から、シソは毎年のことですが“こぼれ芽”が立派に成長 →SDGs園芸です。ミニトマトとナスはホームセンターで苗を購入しましたが、今年はこれも種を採って来年は“SDGsトマト”を作ろうかと考えています。種から発芽させた苗は固定種と言うそうで、その土地に合ったものが育つそうです。ホームセンターで売っている苗はF1種(一代交配種、ハイブリッド種)と言うそうです。種を採取して野菜を育てれば、コッチの財布もSDGsですw。
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 『土を育てる』という本によると、雑草は土中に根を残す方がいいらしいです。で、今年は草むしりはせず、大型の剪定ハサミでカットして「雑草の芝生(カバークロップ)」にしています。こうすると大きな雑草は生えてきません。
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絵日記 真夏日の準備 [日記 (2024)]

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 梅雨の間の晴れ間に遮光カーテンを吊って、ついでにウッドデッキを塗り直しました。我が家の自作ウッドデッキは、屋根のある部分と雨ざらしの部分に分かれています。屋根のある部分は、作って13年以上経ちますがしっかりしています。雨晒しの部分は2〜3年に1度は塗り直ししないと腐食してきます。作って13年、何だかんだでけっこう便利に使っています。
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 2010年の作成当時の画像です。駄犬は亡くなりこの子は今や高校生、光陰矢の如しですw。

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ミック・ヘロン 窓際のスパイ(2014ハヤカワ文庫) [日記 (2024)]

窓際のスパイ
 ビル・ゲイツお勧めのドラマ『窓際のスパイ』の原作です。ゲーリー・オールドマン主演で、season5まで制作が決まっている人気ドラマだそうです。

 原題、Slow Horses(遅い馬)。イギリス保安局(MI5)の落ちこぼれスパイ達の物語です。よって邦題は「窓際のスパイ」。ちなみに、ジェームズ・ボンドの所属するMI6は対外情報部で、MI5はテロなどの国内に対応する諜報組織です。麻薬、酒、淫行、政治、背信などでSlow Horseの烙印を押された職員は、MI5のあるリージェンズ・パークを追い出されフィンズベリーにある「泥沼の家 Slough House」と呼ばれる部署に追いやられます、所謂「追い出し部屋」です。 リージェンズ・パークは泥の家スパイたちを

〈遅い馬〉と呼び、彼らが〈遅い馬〉であることを思い知らせることに悦びを見いだしてきた。その結果、いまではそれが自己目的化していて、リージェンツ・パークの住人は〈泥沼の家〉の住人と出会うとき、誰が主であり誰が下僕であるかを相手にはっきりとわ からせるのを常としている。

 泥の家は、リーダーのジャクソン・ラム(ドラマではゲーリー・オールドマン)以下落ちこぼれが10名。遅い馬達の仕事はと云うと、どうでもいいMI5のゴミ拾い。リヴァー・カートライトは、キングス・クロス駅の対テロ訓練で(同僚に嵌められ→これも伏線)「120人の死傷者、3000万ポンドの損害、25億ポンドの観光収入の減少」に相当する失態をやらかし泥沼の家に異動となります。リヴァーの仕事はMI5の傍受した通話記録をランク付けすること。今は極右のジャーナリストの出したゴミを分別することで、いずれも退屈でゴミの様な仕事です。

 一方でパキスタン系大学生の監禁の映像がnetにライブ配信され、48時間以内に首を刎ねるという声明が出されます。2005年の「ロンドン同時爆破事件」(パキスタン系イギリス人が犯人)が下敷きになっています。このnet配信事件をめぐって、リージェンズ・パーク vs. 泥沼の家と言うのがストーリーの骨格です。

 実は、事件はMI5の女性副長官ダイアナ・タヴァナーが仕組んだ陰謀。泥沼の家の元諜報員を極右組織に送り込み、パキスタン系大学生を拉致しnetに流して事件を煽り、自ら事件を解決してパキスタンに恩を売ろうというマッチポンプです。失敗した場合は「泥沼の家」のジャクソン・ラムに責任を押し付けようという腹づもり。
モスクワ・ルールが〝背後に気をつけろ"を意味しているとすれば、ロンドン・ルールは〝逃げ道を用意しておけ"ということになる。・・・ダイアナ・タヴァナーほど、それを巧みに利用できる者はいない。

 で、陰謀を見抜いたジャクソン・ラム vs. ダイアナ・タヴァナーとなります。保安局の副長官がこんな陰謀を企むかどうかは別にして、落ちこぼれが意地を見せる道具立てです。結末は、まぁ遅い馬たちの勝利になるわけですが。

 登場人物が多く、幾つものエピソードが同時進行し煩雑です。陰謀の中核かと思われた極右のジャーナリスト、「泥沼の家」監視のためにタヴァナーが送り込んだ女性スパイは何故か途中で消え、サスペンスとしては粗削りですが、落ちこぼれ達が権力の中枢に一矢報いる面白さで500ページを引っ張ります。

 また、随所に挟まれる表現の「妙」、ユーモアも楽しめます。アル中で「泥沼の家」に異動となった中年女性キャサリンが侵入者に立ち向かう下りは、

多くの心の支えを失ったあと、人生を立て直すのは容易ではなく、実際のところ、日々の暮らしは絶えがたいくらい退屈で、味気なかった。が、だとしても、自分に与えられたものはそれしかない。闘わずに降伏するつもりはない。手に届くとこ ろにあった唯一の武器はペットボトルだったという事実には、人生の小さな皮肉というラベルが貼りつけられている。

 ペットボトル片手に不審者に立ち向かい、ペットボトルのラベルが「人生の小さな皮肉」だったというオチです。結構オススメで、『死んだらライオン』『放たれた虎』の続編があるので読んでみます。

 ドラマではジャクソン・ラムをゲイリー・オールドマン、ダイアナ・タヴァナーをクリスティン・スコット・トーマス が演じている様です。観てみたいですが、このためだけにAppleTV+に入るのはチョット。ビル・ゲイツはAppleTVを観たんでしょうか?。

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絵日記 バラの黒点病 [日記 (2024)]

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 春先に鉢植えのバラに黒点病が出ました。毎日黄変した葉を取り除き、週一で液肥を施したところ見事復活。真っ赤な花が咲きました。専用の薬剤を使わなくても何とかなるものです。
 黒点病は、雨が土に跳ね返って病原菌が付いて起こるようです。ついでに株元にたっぷり枯葉を敷きました。手を掛ければ答えてくれるので、バラを増やしてみようかと思います。

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絵日記 蕎麦がら枕 [日記 (2024)]

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 枕はカバーを洗濯するだけで、本体の「側」は買った時のまま。汚れてきたので分解してみました。枕の中から出てきたのは「蕎麦がら」でした。

そばがらの中は空洞になっているため、吸湿性に優れ、寝ている間の汗を吸い取りますまた、通気性にも優れているため、吸い取った汗の水分を放湿します。 暑さで寝苦しい夏場も枕に熱がこもりにくく、安眠が期待できます。こちら

だそうで、これからの季節には最適です。側を洗濯して、せっかく分解したので中身を「天日干し」 →蕎麦がらを戻して縫い合わせて完成。詰替え用の「そばがら」売っているんですねぇ。
IMG_0736.jpg SEIDO そば殻 日本製 国産 1.3kg 薬品不使用 衛生熱加工済 ヒートエアー方式 そば殻枕 そばがら枕 詰め替え用 手作り ハンドメイド枕 5升 9.0L

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R・D・ウィングフィールド クリスマスのフロスト(1994創元推理文庫) [日記 (2024)]

クリスマスのフロスト フロスト・シリーズ (創元推理文庫)  英国デントン警察犯罪捜査部フロスト警部シリーズの第一弾です。
 冒頭、8歳の女の子が行方不明となり、新米刑事がデントン警察署に赴任するなど、フロスト警部はいっこうに現れません。少女は24歳の娼婦の娘。フロストは、やっと現れたと思ったら、下品な言葉で同僚をからかい、捜査会議を欠席したことで署長と一悶着。フロストの格好たるや、薄汚れたレインコートにえび茶色の趣味の悪いマフラー、プレスの利いていないよれよれのズボ ン(奥さんは亡くなり、独身)、年齢は四十代後半といったところ。おまけに事務仕事が大の苦手で、机の上は乱雑を極めオフィスは散らかり放題という、絵に描いたよう駄目刑事。フロストが警部になれたのは何かの間違いだそうです。そう言えばカミーユも警部。警察の階級は、巡査→巡査部長→警部補→警部→警視・・・警視総監で(日本の場合)、つまり上から6番目。軍で言えば尉官の上、佐官の下に当たるそうです。フロストの上司に当たるマレット署長は警視ですから、警部は現場の長。
 その一見落ちこぼれ刑事が颯爽?と事件を解決する辺りが『フロス警部トシリーズ』のキモです。『窓際のスパイ』の様なよくあるパターンと言えば言えます。

 上昇志向の塊の様な署長マレット、マレットを追い越して署長を狙うアレン警部、警察長(本部長?)の甥でこれも上昇志向の強い新米刑事のクライヴ、人のいい部長刑事ハンロンとデントン署の面々の手際のよい紹介の後、フロストとクライヴのが少女失踪事件の捜査に乗り出します。ベテラン刑事と新米刑事のコンビ、これもよくある設定です。クライヴによってフロストの人となり、捜査が炙り出されるわけです。このコンビは、

若い娘が出て来た。その娘を見て、クライヴは思わず脈拍が速くなるのを感じた。高性能爆弾級の肉体というやつだった。…豊かな胸に粘着フィルムのようにぴったりと貼りついたコットンのTシャツ。ここしばらくお目にかかったこともないような、デラックス・サイズのだった。蛇の眼のように、相手の視線を捕らえて離さない不思議な力を秘めた胸だった。 クライヴの視線は、事な隆起に釘付けになった。
おおっ、なんという眼福!」 フロストがかすれた声で言った。

というものw。フロストは、クライヴが捜査に同行した婦人警官に気があることに気づき、彼女を家まで送るように車を降ります。クライヴは、お茶でもと婦人警官を下宿に誘い、口説いている最中にフロストが現れ…と、もう一度笑わせてくれます。本筋の少女失踪事件に挟まれるこうしたクスグリが本書の魅力でもあるわけす。
 クスグリだけではありません。フロストは身を挺して犯罪に立ち向かいジョージ十字勲章の栄誉に預かります。この捨て身の行為は、実は奥さんとの確執に疲れたフロストの殆ど自殺行為であった事が明かされます。一見ノー天気なフロストにも苦労はあるわけです。

 事件の方は、娼婦の客で毎週彼女の元を訪れる英語教師、少女のヌード写真を撮るのが趣味の教会区司祭(コイツが怪しい!w)、淫行常習犯、女霊媒師、と容疑者が浮かび、そうこうする内に「子供は預かった、使い古しの5ポンド札で2000ポンド用意しろ」ということになり、失踪事件が営利誘拐事件となります。一方で、身代金を運ぶ娼婦が襲われ、30年前の白骨死体が発見され、銀行員が殺害され…と、立て続けに事件が起こりフロストはてんてこ舞い。誘拐事件はどうなった?と思わせて最後は誘拐事件に収束するという構成です。

 本書には、ピエール・ルメートルの様な「騙される」快楽はありません。誘拐事件が進行し、フロストの与太話、クライヴのボヤキ、フロストに振り回されるマレット署長とフロスト警部の無軌道振りを楽しんでいる内に500ページが終わってしまいます。リズム感のある芹澤恵さんの「訳」がいいです。海外小説の場合、小説そのものの質もさることながら翻訳が面白さを大きく左右します。

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ピエール・ルメートル わが母なるロージー(2011文春文庫) [日記 (2024)]

わが母なるロージー (文春文庫)
 「ヴェルーヴェン警部シリーズ」のスピンアウトだそうです。恋人のアンヌが登場しル・グエンは未だ犯罪捜査部長ですから、『アレックス』と『傷だらけのカミーユ』の間に位置する話です。

 パリ18区で爆発事件が起おこります。爆破跡から、第一次大戦で使われた140ミリ砲が爆発したものと考えられます。フランスではこの140ミリ砲の不発弾が今でも発見されるようです。さらに、犯人を名乗る青年ジャンが(TVで顔を知った)カミーユの元に自首して来ます。ピエール・ルメートルは毎回驚く様な設定を用意しますが、今度はそう来るか、です。

 ジャンは7個の140ミリ砲を使った時限爆弾を仕掛け、18区で爆発したのはその1個。残る6個は24時間間隔で爆発するようにセットした、爆弾を仕掛けた場所を教えて欲しければ、母親ロージーの釈放と2人の新しい身分、500万ユーロを用意しろとカミーユを脅迫します。母親は、ジャンの恋人を轢き殺し刑務所に収監されています。近所でもジャンと母親の不仲は有名であり、恋人を殺された母親を釈放するために何故テロを起こす必要があったのか?。この謎と時限爆弾のスリルで読者を引っ張ります。

 ジャンは、二発目は午前9時にセットし幼稚園に仕掛けたと自白しますが、場所は明らかにしません。政府は、フランスの全幼稚園児に退避命令を出すのか?、出した時のパニックと国民から突き上げの間で揺れます。なす術もなく午前9時を迎え爆発は起きません。爆弾は本当に存在するのか?それともハッタリか?。第一次大戦当時の不発弾が起爆する可能性は25%で、残りの6発のうち最低でも1発は爆発するわけです。

ただの脅しなのか、真の脅威なのかがわからない。そこが問題だ。
「しかもこれはわれわれを泥沼に引きずり込む罠でもある」とカミーユは分析した。
「われわれは、爆発しない可能性が高いと知りつつも、爆弾のあとを追いかけつづ
けることになるわけだからな」
そう、たしかに矛盾している。だが不確実な要素があるからこそ、ジャンの脅し
がますます効いてくる。耐えがたい選択肢しかないからだ。まず見つからないだろ
うと思われる爆弾を無我夢中で探しまわるか、それとも、どれかが爆発して数十人
の死者が出るかもしれないと思いつつ、なにもせずに待つか。

 カミーユは、3発目の爆弾探しに取りかかり取り調べを再開し、カウントダウンをリセットしふたたび新たな24時間と向き合うわけです。爆弾は存在するのか?、警察はジャンの要求を飲むのか?、ジャンの本当の目的は何か?。
 身長145cm、絵を描きながら考えを纏めるカミーユの原型を作った母親の名前もロージーだったと思います。その理由は触れられていませんが、結末を考えると分かる様なきがします。シリーズの番外編で中編ですがさすがピエール・ルメートル、面白いです。これでシリーズが終わりらしいのですが、残念。

《カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ》
 悲しみのイレーヌ(2006)
 その女アレックス(2011)
 傷だらけのカミーユ(2012)
 わが母なるロージー(2014)・・・このページ

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映画 サイド・エフェクト(2013米) [日記 (2024)]

サイド エフェクト [DVD]
 原題“Side Effects”、副作用。薬の副作用をめぐるサスペンです。

 冒頭、エミリー(ルーニー・マーラ)の車が駐車場の壁に激突し、自殺未遂として精神科医師バンクス(ジュード・ロウ)と接点が生まれます。エミリーは鬱病で医師シーバート(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)の治療を受けていた過去があり、再発しバンクスの診療所に通院しセラピーを受けるようになります。

 エミリーは抗鬱の薬が合わないとバンクスに新薬の服用を依頼します。効果は無く、徘徊や地下鉄に飛び込みそうになるなどの副作用が出て、遂には副作用による心神喪失のまま夫マーティン(チャニング・テイタム)を刺し殺してしまいます。エミリーは23歳でマーティンと結婚し、1年後に夫はインサイダー取引で逮捕服役、自宅を差し押さえられセレブな生活から転落して鬱病を患います。4年後に夫が出所し、これからと言う時に刺殺してしまったわけです。
 裁判の結果、エミリーは薬による一時的な心神喪失により無罪となるも精神医療センターに収容されます。大きく報道され、薬を処方したバンクスは信用を落とし患者は減り、エミリーとの不倫の写真が捏造され、患者と性的な関係を結びその夫を殺害したと噂されます。医師として追い込まれ、家庭も崩壊寸前。

 リスベット(ドラゴンタトゥーの女)のルーニー・マーラですからそんな単純な話では無いw、とバンクスが思ったかはどうかは別にして、エミリーの証言に疑問を抱いたバンクスは調べ始めます。件の新薬を勧めてくれたと言う会社の同僚は実在せず、駐車場の壁に激突した事故では安全ベルト装着しており自殺未遂は狂言、エミリーは嘘をついていたわけです。副作用をもたらした薬の製薬会社の株価は暴落し、一方で高騰する製薬会社が出たという情報がもたらされます…。やはりリスベットのルーニー・マーラだ!w。キャサリン・ゼタ=ジョーンズには件の薬の副作用に関する論文もありますから一枚噛んでいる?。そしてジュード・ロウのルーニー・マーラとキャサリン・ゼタ=ジョーンズへの反撃が始まりますw。

 普通、病気は血液検査等で病状を把握できます。精神科医は患者の証言から病状を類推し治療しますから、患者が嘘をつけばお手上げ →前半。これを逆手に取って精神科医が嘘をつけば患者はお手上げ→後半、という映画です。なかなか面白いサスペンスです。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタム

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