映画「ことの終わり」が面白かったので、原作「情事の終わり」(新潮文庫)を読んでみました。初版が昭和34年で、私の買ったものは平成21年48刷とありますから大ロングセラーです。訳文は当時のままで古色蒼然。1946年のロンドンの愛憎劇を描いた1951年出版の小説ですから、その古色蒼然がかえって雰囲気を作っているのかもしれません。

 登場人物は主人公の小説家モーリス、モーリスの不倫相手であるサラァ、サラァの夫で英国内務省高級官僚であるヘンリの三人を中心に、私立探偵パーキンス、無神論者のリチャードの5人です。映画では、サラァのキスによって痣が消えるという奇蹟はパーキンスの息子に起きますが、原作ではリチャードに起きます。サラァの新しい恋人としてモーリスの嫉妬の対象となるリチャードは、映画では神父でしたが、原作では無神論者です。また、モーリスとヘンリの奇妙な友情が成立するのは、原作ではサラァが死んでからです。そうした小さい違いはありますが、モーリスとサラァの不倫、サラァの信仰と大筋はだいたい同じです。
 映画は1940年代のロンドンの風俗を背景に、モーリスとサラァの幾分美化された「情事」とヘンリを含む三角関係が描かれましたが、小説の方は映画以上に内省的且つゴシック調の愛憎と信仰の物語です。