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中野京子 怖い絵(2016角川文庫) [日記 (2022)]

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 西洋絵画には、象徴と寓意が隠されていることはよく知られています。宗教画などではドラマチックなシーンが題材に選ばれますから、象徴、寓意そのものでしょう。本書は、製作の背景や時代から、絵画に隠された寓意≒「怖い」を解説します。

ドガ『踊り子』
 ドガといえば『踊り子』、誰でも一度は目にしたことのある名画です。何処が「怖い」かというと、メインの踊り子ではなく左端に描かれた黒い服を着た男性。この男性は踊り子のパトロンだと云うのです。現在ではバレエは舞台芸術ですが、著者によると、ドガが活躍した当時(19世紀末、仏)バレエが上演されるオペラ座は上流階級の社交場だったらしい。

飲食も自由だったし、カーテンを閉じればそこで何をしようとかまわなかった。またこれら高額の桟敷席を持つ客は、上演中であっても自由に楽屋や舞台袖に出入りする権利を持っていた。となれば、容易に想像がつくことだが、「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」(当時の批評家の言葉)となる。ではその娼館に常駐している娼婦とは誰か? それが踊り子であった。

 本書では取り上げられていませんが、ドガには『室内(強姦)』という作品があるらしい。『踊り子』は風俗画ですが、wikiの記述を観ると、こちらの方がはるかにanomalous(異常)「怖い」です。ゾラの『テレーズ・ラカン』の1シーンという説があるそうです。孤児の娘が叔母の息子と結婚させられ、不倫の果に息子を殺す話です。そう思って見ると「怖い」です。
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 ドガ『室内(強姦)          クノップフ『見捨てられた街』

クノップフ『見捨てられた街』
 クノップフは、19~20世紀のベルギーの象徴派の画家です。『見捨てられた街』は、クノップフが幼年期を過ごした郷里ブルージュ(世界遺産)。

この絵の何が怖いかといえば、思い出に囚われたまま滅びてゆこうとする人の心が伝わってくるからだ。もはや先へ進むことはできず、かといって過ぎさった昔にはもどれない。決して再現されることのない過去を前に、ただ立ちつくす。過去の遺物がすでに死を内包しているのはわかっても、それでもどうしようもなく恋着し続ける。そんな、死に取りつかれた人の心が伝わってくる。だから見ている側も身がすくむ。

 クノップフには7人の女性を描いた『記憶』という作品があるそうです。7人の女性の顔はいずれも同一でクノップフの妹だそうです。彼は最愛の妹をモチーフに多くの絵を描いた様です。『スフィンクスの愛撫』の方がもっと「怖い」。

 本書には、上記の他全部で21の「怖い絵」の解説が収められています。
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左がクノップフの妹

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映画 KT(2002日韓) [日記 (2022)]

KT 特別版 [DVD]  『団地』『一度も撃ってません』に続き、阪本順治監督3本目。KTとは韓国第15代大統領、金大中のことです。1973年、KCIA(韓国中央情報部)が、南北統一を画策する民主活動家・金大中を東京のホテルから拉致した事件を描いたサスペンスです。

金大中事件
 金大中事件に陸上自衛隊が関わっていたというがあります。韓国大統領・朴正煕と日本陸軍士官学校同窓の自衛隊幹部が朴正煕を支援し、金大中事件に加担したというのです。映画は、陸自の三佐が金大中の所在を突き止め、KCIAが拉致する迄をドキュメント風に描きます。
 自衛隊幹部が金大中事件に関与したのかどうかは謎ですが、事件に関わった日本の調査会社があったことは事実。その経営者が「陸上幕僚監部第2部(情報部門)」の「別班」に所属していた元自衛官・某であり、拉致グループのリーダー金東雲と面識があったことも判明しています。米CIA、KCIA、陸自情報組織が繋がっていたとしても、何の不思議もありません。某は、金東雲から依頼はあったがこれを断り、自衛隊も関与を否定しています。

自分の戦争
 冒頭、三島由紀夫の市ヶ谷乱入事件が描かれます。主人公・富田(佐藤浩市)が自決した部屋の扉の前に菊の花を手向けるシーンがあり、「憲法改正のクーデターを起こしていれば三島を無駄死させなかった」と語ります。冨田が、自衛官でありながら国家の主権を犯す犯罪 、金大中事件に荷担した理由です。

 陸自幹部は、中央調査隊(陸上自衛隊の情報組織)で北朝鮮、韓国のスパイを内偵していた冨田にKCIAに協力することを命じます。富田は、興信所を立ち上げ、金東雲(韓国大使館一等書記官、KCIA)の依頼の形をとって金大中の行方を追います。冨田は、金大中と接触を図るジャーナリスト(原田芳雄)の動きから、金大中が九段下のホテル・グランドパレスに宿泊していることを掴み、KCIAは拉致を実行します。KCIAは金大中を車で神戸の領事館に運び、貨物船から海中に投棄して殺害する計画でしたが、海保ヘリに追跡されKCIAの関与が明らかになっため殺害を思い止まり、釜山に運びソウルの自宅付近で解放します。

 映画は、金大中事件の経緯を忠実に再現し、冨田の「職務」遂行を描きます。拉致ではなく殺害計画であることを知った自衛隊は中止を命じますが、冨田は止めません。金大中の南北統一を阻止することが、日本の国益だと考えたのです。これは「自分の戦争」だと表現しています。
 陸自は冨田を逮捕して自決を迫り、「二・二六の野中(四郎)大尉ですか?、自分は自決はしません」と。二・二六事件の背景には陸軍内部の皇道派と統制派の派遣争いがあり、青年将校の決起には陸軍中枢が関わっていると言われます。三島由紀夫とこのシーケンスで、冨田の憂国を語りたかったのでしょう。

 冨田は事件の経緯を件のジャーナリストに話し、記事にしろと。ヤバくないのかと問う彼に、冨田は、特捜に呼ばれた方が(口封じ、暗殺の)保険になる。自衛隊は日陰でコッソリ生きていたんだよ 、災害出動以外で日が当たっちゃ困るんだ、と。この保険については伏線があり、事件の首謀者・金東雲も拉致した現場に指紋を残すという保険をかけています。
 ラストは、冨田が恋人と会うシーンで画面が暗転し、銃声。保険は無駄だったのか?。

 メッセージ性を持った様々な人物が登場します。原田芳雄演じるジャーナリストは特攻隊の生き残り。金大中のボディーガードは韓国語の話せない在日二世、その母親は息子が日本人と結婚することを許さず、冨田の恋人は政治運動で捕まり拷問を受けた韓国女性。神戸領事館の女性は、日本人の冨田が加わっていることを知り「日帝36年の恨(ハン)」と宣う。これがストーリーに上手く乗っているかというと、イマイチですが。
 個人的には面白かったですが、韓国の近現代史に興味が無ければスルーの映画でしょう。ちなみに、韓国では2週間で公開打ちきりなったそうです。監督が阪本順治ですから石橋蓮司、岸辺一篤が出演かと思ったのですが、残念ながら出演していません。

監督:阪本順治
出演:佐藤浩市、キム・ガプス、チェ・イルファ、原田芳雄

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伊集院 静 ミチクサ先生 下 (2021講談社) [日記 (2022)]

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 続きです。
留学
 漱石は熊本で結婚し人生の新たなスタートを切ります。慣れない結婚生活で夫人が神経症となり入水自殺を図るなどの影の部分もありますが、長女も生まれ漱石は概ね幸せであったというのが作者の見方です。

名月や十三円の家に住む
安々と海鼠の如き子を生めり

 旧制高校は大学の予備校でもあり、漱石は入試のために課外授業をし落第生の救済までする熱心な教師だったようです。漱石は五高教授からイギリス留学を命じられます。文部省から課せられた英語教育の研究は放擲、ケンブリッジにも通わず個人教授を受けシェークスピアを研究します。本を買うため乏しい留学費用を切り詰め、下宿で英文学と格闘する姿を見て、ロンドンの日本人が「夏目狂セリ」と電報を打つ始末。

 他人には「狂っている」と写る漱石も彼なりの楽しみも見出し、盛んに美術館を巡りをしています。『坊っちゃん』には赤シャツの語るターナーの風景画が登場しますが、この時観た絵画、ミレイ『オフェリア』、リヴィエラー『ガダラの豚の奇跡』、ウォーターハウス『人魚』『シャロットの女』が作品に登場するそうです。検索してみましたが、精神分析の対象となりそうな絵ばかりですw。
 下宿の主人に、神経症を直すには旅行と運動がいいと言われ、漱石は自転車の練習をしています(自転車日記)。
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 子規の訃報に接したのもロンドンです。

筒袖や秋の柩にしたがはず
手向くべき線香もなくて暮の秋

 ロンドン留学の2年間は暗いイメージで捉え勝ちですが、美術館巡り、スコットランド旅行、自転車練習と、楽しいこともあったということでしょう。

小説家
 高浜虚子が漱石に小説執筆を依頼します。漱石は留学中に虚子に頼まれ『ホトトギス』に『倫敦消息』を書いて載せています。虚子は原稿(猫)を読み、掲載号の部数を2倍に決定します。『ホトトギス』明治38年1月号に『猫』が掲載され、これが評判が良く完売?、虚子は通常の2倍の原稿料を払います。原稿料を前にした鏡子は、

「あら、ずいぶんと頂くものなんですね」
虚子が金之助に礼を述べながら差し出した原稿料の入った封筒を覗いて、鏡子が言った。
「これ、こんなところで中を見るんじゃない。高浜君が目の前にいるんだよ」

見てきたような話ですが、これは評伝ではなく小説。単行本となって発売されると初刷1,000部がたちまち完売で印税150円。さらに1,000部刷りまたも印税150円が入り、鏡子夫人はニンマリ。この時の漱石は、帝国大学の年俸が800円、一高が700円で計1,500円。

 4月号には、『猫』の続編に加えて『坊つちやん』が掲載されます。句誌『ホトトギス』は通常1,000部売れればいい方ですが、4月号は5,500部売れたそうです。
 明治30年代後半から、40年代前半にかけて、旧高校は7校に増え、大学も東北、九州に帝大が新設され、慶応義塾、早稲田、明治、法政など専門学校が大学となり、そこに学ぶ学生が読者として小説家・漱石を支えたことになります。

 日清、日露戦争で読者を増やした新聞が、新しい書き手として漱石に目を付け、漱石は明治40年、朝日新聞に入社します。結果的にですが、漱石は博士、帝大教授を蹴ったわけで、40歳の華麗なる転身です。何故漱石は朝日新聞に入社したのか?。明治40年正月の菅虎雄と高浜虚子に宛てた手紙には、

もうつくづく教師の仕事は嫌になった。イギリスから帰国して、自分がこれから何をすべきかを考えてみた。わかっていたことは、安寧に毎日を送ることだ。それが私の神経には一番良いらしい。ところが、千駄木の家から帝国大学にむかって道を歩くと、学舎が近づくにつれ、胸の奥からイライラとする黒いかたまりが湧いて来て、門をくぐる頃には、もう爆発しそうになってしまう。いつ爆発してしまうか、私にもわからない。
うつ病、適応障害です。そうした折に朝日新聞から入社の誘いがあり、朝日新聞の示す入社の条件は、

月給二百円。賞与は二回。賞与のうち六月には五十円の特別賞与も加える。新聞社に出社するのは、月に二回。ただし、新聞小説の連載が始まれば欠勤してよい。金之助は朝日入社を決意し、契約書にサインした。十日後、帝国大学へ退職願を提出した。帝国大学では金之助の待遇について大変に気遣い、英文学の教授に迎えようとしていたところだった。

 明治41年6月、朝日新聞に『虞美人草』の連載が始まり、大正5年絶筆『明暗』まで、漱石は律儀に小説を書き続けます。
 「漱石」というと構えてしまいますが、肩の凝らない読み物としてそれなりです。『猫』から読み返してみようか...。

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映画 一度も撃ってません(2020日) [日記 (2022)]

一度も撃ってません [Blu-ray]  『団地』に続いて阪本順治、今度は石橋蓮司が主演で、大楠道代、岸部一徳も登場します。

本作は、阪本監督や石橋ら役者仲間が、今は亡き俳優、原田芳雄の家に集まったときに、「石橋を主演にした映画を作ろう」という話になったのがはじまりだという。(産経新聞)

 そんな話ですから、桃井かおり、佐藤浩市、豊川悦司、江口洋介、妻夫木聡、柄本明など錚々たるメンバーが脇を固めます。

石橋蓮司(市川、御前零児)
 そんなジャンルはありませんが、ハードボイルド・コメディです。78歳の石橋が演じるのは売れない小説家、市川。純文学から出発してハードボイルドに転向し、原稿を出版社にせっせと持ち込むもいずれもボツ。編集者は北方謙三の二番煎じ、三番煎じだと言い、ハードボイルドさえ時代遅れなのにもっと陳腐、物語が無いと酷評します。つまり、この映画は時代遅れのハードボイルドなんだと、制作者自身が言っていることになります。
 市川の小説は、伝説の殺し屋の仕業だと噂される未解決殺人事件をリアルに描写したものだそうです。市川は、友人から持ち込まれる殺しの依頼をヒットマンを使って実行する「伝説の殺し屋」。ヒットマンの情報を元に「ハードボイルド」を執筆するわけです。その市川のキャラクターはというと、教師をしていた妻(大楠道代)の年金で暮らし、ゴミを出し洗濯物を干す主夫。夜になるとコートとボルサノーリを纏いショットバーで殺しの相談する裏稼業、決めセリフは「夜は酒が連れてくる」従ってペンネームは御前零児w。
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岸部一徳(石田)
 市川に殺しを依頼する石田を演じるのが岸部一徳。女絡みで馘になったヤメ検で元暴力団の弁護士、資格剥奪されて今は警備会社の裏顧問、「表に出ないドブ浚い」と言われる(『団地』とは打って変わって)凄いキャラクターです。岸部一徳はコメディ・キャラですが、こういう悪役も似合います。
 石田が依頼したターゲットは、高配当を餌に巨額の金を集め倒産を繰り返す投資コンサルタント。餌食になって自殺した被害者や自己破産は数知れずという詐欺師。これでは、「必殺仕事人」の元締じゃないですか。

大楠道代(弥生)、桃井かおり(ひかる)
  弥生は、小学校だか中学校の教師をして売れない小説家・市川を支えてきた糟糠の妻 。自室に鍵をかけ、夜な夜な巷を徘徊する市川の素行に不審を抱き、長年連れ添った夫との関係に疑問を持ちます。市川の行動を追う中、ショットバーでひかると出会います。
 ひかるは、元ミュージカルのスターで市川と石田の50年来の友人。ひかるがウドンを湯がくシーンがあり、ウドン屋の主人なのかパートなのか?。夜な夜なバーに現れ、あの口調で石橋蓮司と岸部一徳に絡みます。バーでシェーカーを片手に”SummetTime”を歌う芸まで披露してくれます。
 ひかるは弥生に市川との馴れ初めを語ります。1960年代末、機動隊に追われて逃げ込んだ喫茶店で市川と石田に出会ったそうです。市川は二浪してやっと入った二流私大の学生、石田は司法試験しか頭にない国立大の学生。その成れの果てが、売れない小説家と資格を剥奪された元弁護士ということです。

 2020年に「団塊の世代」を映画にすれば、「一度も拳銃を撃たなかった」というハードボイルドとなります。徹頭徹尾ハードボイルドのカリカチュアであり、1969~1970年代の青春のカリカチュア、いやオマージュです。『一度も撃ってません』とは、なかなか切ないタイトルです。

監督:阪本順治
出演:石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、桃井かおり

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絵日記 日除け [日記 (2022)]

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 夏日になったので遮光カーテン吊りました。

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伊集院 静 ミチクサ先生 (上) (2021講談社) [日記 (2022)]

ミチクサ先生 上 子規
 『ノボさん 小説 正岡子規と夏目漱石』の続篇です。今度は漱石が主人公。タイトルの『ミチクサ』は、自伝小説と言われる小説『道草』に由来するものと思われます。上巻では、誕生から大学予備門、帝国大学、松山、熊本の教師時代までが、子規との交流を軸に漱石の「青春」が描かれます。多くが『ノボさん』と重複しています。子規の他、秋山真之、森鴎外、陸羯南まで歴史上の人物が登場しますから、小説としては「絵」になります。寄席で秋山真之、子規と漱石が出会うシーンは笑ってしまいます。主人公は漱石なのですが、ベースボールに興じ、俳句革新運動にのめり込む天才・子規に比べ、秀才漱石は絵になりにくい人物です。

 漱石と子規はともに慶応3年生まれ、日本の近代国家形成とともに成長し、国家の青春と漱石、子規の青春が重ねられます。秋山好古、真之、子規を描いた司馬遼太郎『坂の上の雲』に比べると、本書には彼らに及ぼしたであろう明治という「時代」が希薄です。大学を卒業し中学教師として社会に出る夏目金之助と、日本が初めて体験した近代戦争=日清戦争が無縁であった筈はない思うのですが、子規が日本新聞社の特派員として病を押して従軍するエピソードが描かれる程度。漱石の初恋のは多くのページが割かれていますが。

熊本時代
 子規が登場しない熊本五高の教師時代になると、やっと夏目金之助が動き出します。熊本時代、漱石は鏡子と結婚しています。鏡子が精神に変調をきたし夜中に徘徊するため、鏡子と自分の手首を寝間着のヒモで結んで寝たエピソードが登場しますが、熊本時代の漱石はそれなりに幸せだっと描かれています。

熊本の夏目家の収入は金之助の俸給百円である。この時代、すべての官吏は来たるべき列強との海戦に備えて、軍艦製造のための製艦費として月給の十分の一を政府から差し引かれていた。その残りから進学の折の父、小兵衛からの借金の返済が月々十円。数年前から姉へ三円の仕送り。本代が二十円。

鏡子に本代を23円に増額して貰ったくだりです。『こころ』『道草』を読むと漱石は金銭に敏感でした。当時漱石の住んだ家の家賃は13円、「名月や十三円の家に住む」の句があります。
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 子規庵(台東文化ガイドブック
 熊本時代に子規を根岸の「子規庵」に見舞った描写は、冗長な上巻の白眉です。子規の結核はカリエスを併発し、書斎の6畳にほぼ臥せった日常です。漱石は病床で眠る子規の枕元で、

金之助は思わず息を止めた。そこにいくつもの花をつけた葉鶏頭が光の中で揺れていた。
・・・十坪にもみたないちいさな庭なのに、限りなくひろがって映った。その花たちに抱かれて、子規は少年のごとく眠っていた。
「ここが、ここが君の宇宙なのか……」
金之助は静かに枕元に座った。

『病牀六尺』を著し、鶏頭の十四五本もありぬべし糸瓜咲て痰のつまりし仏かな、と詠んだ鷄頭とヘチマのあった庭です。作者は、どうも漱石より子規への思いが強いようです。 →下巻へ

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映画 団地(2016日) [日記 (2022)]

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 久々に映画。面白いのですが、どこが面白いかよく分からない映画です。大阪の団地に住む夫婦を巡る荒唐無稽な話、それだけなんですが、藤山直美、岸部一徳はじめ役者の絶妙の演技なのか、ストーリーなのか...。

 団地に住むヒナ子(藤山直美)、清治(岸部一徳)夫婦の話です。夫婦は、ひとり息子が交通事故で亡くなったことで漢方薬局を畳み団地に引っ越した様です。ヒナ子はスーパーのレジ係のパートタイマー、清治は毎日近所の雑木林で植物観察の日々。漢方が忘れられず薬剤原料を団地に持ち込んいます。この辺りは退職した年金生活者の典型的な姿です。夫婦を取り巻くのが、君子(大楠道代)、正三(石橋蓮司)夫婦他の団地の面々。団地の主婦が近所の噂話に興じ、バックに浜村淳のラジオ番組が流れ、これぞ大阪の団地!。大阪人なら千里ニュータウンの団地を思い浮かべます、監督の阪本順治は、団地は「時代に取り残された“昭和な空間”」だとインタビューで語っていますから『団地』は昭和の映画だと云えます。

 団地のありふれた日常に、ネクタイ姿の真城(斎藤工)が登場します(ネクタイ姿で登場するのは真城のみで逆に怪しい)。真城は清治の薬局の元常連客で、店が閉まったため漢方薬を求めて清治の元を訪れます。この日本の怪しい真城が映画の肝。
 清治は、団地の自治会会長に落選し落ち込んで床下収納庫に引き籠もります、押し入れではなく何で床下収納庫?。収納庫には漢方薬の材料が入っているからでしょうか。団地の住人たちは、2ヶ月も清治の姿を見かけないため、ヒナ子に殺され死体が部屋に隠されているのではないかと噂し始め、この辺りからドタバタコメディーの本領発揮となります。真城が”仲間”のために5,000人分の漢方薬を清治に依頼し、落ち込んだ清治は元気を取り戻し、夫婦揃って5,000人分の漢方薬の製造を始めることになります。
 真城とは何者なのか?、5,000人の”仲間”とは?。ラストのオチでこの映画のテーマが解明されます、ナルホド。

 「多忙な藤山さんのスケジュールが「2週間ほど空く」と聞きつけ、企画をにわかに立ち上げ、一気に自分でオリジナル脚本を書き上げたんですよ。」と阪本順治が語っていますが、2週間で制作されたんでしょうか。 舞台は、ほぼ団地とヒナ子と清治の住む部屋(セット)だけ。B級もここに極まった映画ですが、役者、脚本が揃うと面白い映画が作れると云う見本みたいなものです。

監督:阪本順治
出演:藤山直美、岸部一徳、大楠道代、石橋蓮司

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山本淳子 枕草子のたくらみ ⑤ 枕草子とは何か? (2017朝日新聞) [日記 (2022)]

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書)  続きです、これが最終。

 和泉式部は敦道親王との恋の真実を世に問うため『和泉式部日記』を書き、紫式部は藤原道長の要請で彰子出産のルポルタージュ『紫式部日記』を書きます。では清少納言は何のために『枕草子』を書いたのか?。長徳事件のあおりで清少納言が引きこもり、定子が「慰めに何か書いてみれば」と紙を送ったことがキッカケで身辺雑記、随筆の『枕草子』が生まれます。定子の女房ですから、定子中心とした後宮の生活が描かれたわけです。

 定子は990年14歳で11歳の一条天皇に入内します。母・貴子に漢学の素養を仕込まれた定子は、学問好きの天皇との仲も良好だったようです。敦康親王を産み、1000年次女の出産で亡くなります、享年24歳。父親が藤原北家の筆頭・道隆で皇后に登り、順風満帆の筈だった人生は、18歳の時に道隆が亡くなり、兄と弟が長徳事件を起こし道長が台頭したことで暗転します。謀反人の家系となったのですから貴族社会での風当たりは強く、内裏を出て出家してしまいます。つまり皇后の地位から身を引いたのです。

 清少納言は993年に定子に出仕します(定子より10歳ほど年長)。定子は、漢学の素養があり、機知に富んだ清少納言がお気に入りだった様です(例えば「香炉峰の雪」など)。著者によると、定子と清少納言を中心に?定子の後宮は華やかな文化的サロンを形成していた様です。996年に長徳事件よって定子は内裏を去り、清少納言も道長派という噂が立ったため定子の元を去ります。この頃『枕草子』が書き始められたようです。自宅に引き籠もってヒマだった、定子の華やかな後宮を懐かしんだ、ということでしょう。草紙を記す紙(ノート、当時紙は貴重品)は以前に定子から貰ったものですから、『枕草子』は、定子を慰めるために彼女と後宮の女房を読者として書かれたものです。事実、『枕草子』は定子の元に届けられます。

 定子は次女の出産で命を落とし、清少納言も内裏を去り、翌年には藤原棟世と再婚しています。清少納言は定子没後も『枕草子』を書き継いだと考えられています。登場人物の官位からそれが伺われるそうです。枕草子』は、定子存命の間は定子を慰めるために、定子が没して後は定子鎮魂のために書かれたと云うのが著者の意見です、ナルホド。

 年表にすると、

990:定子入内
993: 清少納言、定子に仕える
995:道隆没、道長藤原氏の長者となる
996:長徳事件、定子出家
    清少納言『枕草子』の執筆を開始
997:定子内裏を出る
    清少納言復職
999:定子内裏に戻る、敦康親王を出産、彰子入内
1000:定子没
    清少納言内裏を去る(『枕草子』執筆を継続)

紫式部 vs. 清少納言、② 清少納言、引きこもる、③ 女房の勧め、④ 清少納言を取り巻く男たち、 ⑤ 枕草子とは何か? →この項、終わり。

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絵日記 BBQ [日記 (2022)]

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 コロナも下火になったので、BBQしました。「一発着火の技」 →コレ大した技では無いのですが着火剤要らずのスグレモノ。確かに一発で炭に火が付きます。今回好評だったのが子供が始めたマシュマロ。ポテトチップスに挟んで食べる美味しいと云うのですが、オヤツですね。BBQも肉と野菜を焼くだけでは飽きてきたので、新しいレシピが要ります、次回課題。

タグ:絵日記
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山本淳子 枕草子のたくらみ ④ 清少納言を取り巻く男たち (2017朝日新聞) [日記 (2022)]

枕草子のたくらみ 「春はあけぼの」に秘められた思い (朝日選書)
 続きです。清少納言はけっこうモテたらしい。道長からも歌を贈られ(道長は清少納言のお気に入りと定子にからかわれている)、長徳事件で道長に寝返った藤原斉信も、引き籠もった清少納言の住まいを熱心に探すほど彼女に執心していた様で、彼女には藤原実方という恋人もいたらしい。枕草子には清少納言と関係深い男性、橘則光、藤原行成が登場します。

橘則光
 清少納言が10代の頃、最初に結婚した男性です。一子をもうけますが後に離婚(破綻)。清少納言は定子の後宮に出仕して間まもなく、蔵人(天皇の秘書官)として後宮に出入りする則光と再会します。

気まずい関係であったに違いないという気がするが、そうではなかった。二人は互いに「妹、兄」と呼び合い、さばさばした「きょうだい分」という新しい関係をスタートさせたのだ。二人のことは天皇をはじめ皆が承知で、則光は同僚や上司からまでも「兄」というあだ名で呼ばれた という。(第80段)

清少納言はこの頃の二人の在り方を、こう記しています、

かう語らい、かたみのうしろ見などする
(こうして親しく付き合い、お互いの助けとなり合った)
「語らひ」は男女の深い間柄を言う言葉なので、ここから清少納言と則光の仲は内裏で再燃したのだと推測する向きもある。

 二人の離婚にどういう経緯があったのか、性格の不一致?、則光の浮気(平安時代にあっては当たり前)などと想像してしまいますが、離婚しても互いに「妹、兄」と呼び合うという関係は不思議です。当時は、正妻という地位はあるものの一夫多妻ですから、婚姻による男女の結びつきは現代より緩い関係だったのではないかと想像します。何しろ、男が3夜連続して女の元に通えば結婚成立?ですから、通わなくなったら離婚というか破綻。離婚という概念も曖昧だったのでしょう(女性の財産は保証されていた様ですから、離婚しても困らない?)。正妻であれば北の対から実家に戻れば離婚。従って、清少納言と則光も、再会して気持ちが通じ合えば撚りが戻ってもそう不思議ではないのでしょう。則光も清少納言への手紙で、

便なき事など侍りとも、なほ契りきこえし方は忘れ給はで、よそにてはさぞと見給へとなひ思ふ
(不都合な事などがありましても、やっぱり昔のよしみは忘れないで下さい。よそでは今まで通り私を『元夫で今は兄貴の則光だ』と見てほしいと思います。)

「契った仲ではないか」と未練を残し、清少納言の方は、

 崩れ寄る  妹背の山のなかなれば  さらに吉野の 川とだに見じ
(私たち、山崩れでくっついてしまった妹背山の中のような仲だもの、川は堰かれて流れないわよね。私たちもそう。あの『古今集』の歌のような男女の仲ではもうないのよ。だから私は、もう決して「彼」とは見ないわ。よそだって、どこだって。)

甘えるな!というわけですw。清少納言は、何故こんな元夫婦の痴話喧嘩のような話を書いたのでしょうね。

藤原行成
 蔵人頭(天皇の秘書室長)若手官僚で、清少納言より6歳年下。天皇の使いとして定子の元を訪れ清少納言と親しくなります。

行成は)派手に見せたり言葉を飾ったりして風流面をすることはなく、ただありきたりの人のようにしているので、皆はそうとしか思っていない。でも私は彼がもっと深みのある人だと知っているので、「凡庸ではありません」など中宮様にも申している・・・彼は、いつも「『女は己を喜ぶ者のために化粧をする。士は己を理解してくれる者のために命を捧げる』と言うよね」と「史記』の好きな私に合わせて一節を引いて言って下さったりしていて、私が理解者だということをよくご存じだ。第130段

漢学を通じて清少納言は行成とウマが合う様で、時に深夜まで語り明かす関係となります。

つとめて、蔵人所の紙屋紙ひき重ねて、「今日は、残り多かる心地なむする。 夜をとほして、昔物語も聞こえ明かさむとせしを、鶏の声にもよほされてなむ」と、いみじう言多く書き給へる、いとめでたし。

翌朝、清少納言に行成から手紙が来ます。手紙が 役所の用紙だという辺りは行成と云う人物が想像されます。「名残惜しい」「昔話でもしたかったのに鶏の声にせきたてられて」と書くあたりは、後朝(きぬぎぬ)の別れ、男女の仲だったのかどう。彼女の返信は、

夜をこめて 鳥の空音 にはかるとも 世に逢坂の 関はゆるさじ

関所には番人がおりますのよ、そう簡単には会えません(男女の仲にはなれません)と。行成が返します、

逢坂は 人越えやすさ 関なれば  鳥鳴かぬにも あけて待つとか

逢坂の関は今はありませんから通行自由、別に鶏など鳴かずとも開いています。清少納言さんあなたも私を通してくれるのでしょう、と。これはもう恋の贈答歌です。著者は、

清少納言は行成とのエピソードを記すことで、職の御曹司転居後の定子に、中関白家文化とは別の、実のある力強い味方がいたことを示している。 彼を登場させたことには、明らかに政治的意図があると言ってよい。

「御曹司転居」とは、定子の兄弟が上皇を襲った長徳事件で彼女が内裏を去ったことを指します。著者によると、清少納言は、内裏を去っても定子には天皇の庇護があると言いたかったと云うのですが、私はモテたんだと云う自慢話に聞こえます。


タグ:読書
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