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ローリー・リン・ドラモンド あなたに不利な証拠として(2008ハヤカワ文庫) [日記 (2024)]

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫 ト 5-1)
 原題、“ANYTHING YOU SAY CAN AND WILL BE USED AGAINST YOU.”とは、警官が被疑者を逮捕する際に告げる「ミランダ警告 (あなたの供述は、法廷であなたに不利な証拠として用いられる場合がある)」だそうです。

 キャサリン、リズ、モナ、キャッシー、サラの5人の女性警官を主人公とする警察小説です(連作短編)。警察小説は普通、フロストやヴェルーヴェン、カール(特捜部Q)など男性の刑事が主人公です。こちらは女性の「制服警官」で彼女たちが犯人を探すわけではありません。警察小説ですが『フロスト』や『特捜部Q』とは大分に趣が違います。女性警官の生態小説とも言うべきものです。2005年アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短編賞、ハヤカワ・ミステリ文庫の一冊で、2006年「このミス」ベスト1ですから、ミステリーなんでしょう。

キャサリン「完全」
 警官歴15ヶ月22歳のパトロール課女性警官「キャサリン・ジョーバート巡査は完全(absolute)に決められた手順にのっとり」終夜営業のレストランに盗みに入った20歳の黒人青年を撃ち殺します。内部調査は、キャサリンに落ち度はなくほかに選択肢はなかった、発砲は正当防衛だと結論づけます。

それでも、ときどき自宅の廊下に一人で坐っていると、(撃ち殺した)ジェフリー・リュイス・ムーアがわたしの身体の表面や内側でちらちらうごめく。頭蓋骨の奥で脳みそにくるまれ、彼がわたしの中に存在する。彼のかけらが今もここに残り、わたしは彼を追い出せずにいる。(p36)

正当防衛とは言え、人を撃ち殺した体験は彼女に暗い影を投げかけます。生身の人間である警官は、事件に遭遇すると、殺人であれ傷害であれ事件は警官の記憶を呼び覚まし揺さぶります。続く『味、感触、視覚、音、匂い』では死体の臭いが子供の頃の記憶を呼び覚まし、キャサリンの記憶に土足で踏み込んで来ます。

サラ「生きている死者」
 同僚を庇う女性警官グウェンや嫌味な巡査部長が登場し、やっと警察小説らしくなります。
 女子大生がレイプされ殺される事件が発生します。この事件について、サラたち婦人警官は不思議な行動を取ります。

 (女子大生)ヴァルの遺体が発見された翌晩、わたしたちは現場に集まった。深夜の午前1時、月が雲に浸り、濡れた土と腐った草の濃厚な匂いがミシシッピ河岸に漂う中、九人の非番の女性警官は…円陣 を組んだ。事件現場に最初に駆けつけた警官のマージが、そのときの模様を詳しく静かに語った。それから全員で、死んだ女子大生に五分間の黙禱を捧げた。

婦人警官によるサバト(魔宴、魔女の夜宴・夜会)です。

 隣人ドリスの通報によって、サラは乳房を切り落とされテニスラケットでレイプされた死体を発見します。ドリスは犯人は夫だと証言しますが、見たわけではなく、最後まで犯人は分かりません。
 テニスラケットでレイプされた殺人現場でもこのサバトが行われます。

頭の変な女たちだの、迷信的儀式だの、死者を呼び起こす霊術だの、ほかの警官に何を言われるかわからない。とりわけ男性警官に。惨殺された女性の名誉のため、彼女がどんな人だったかを記憶に刻み、彼女が生きて必死で守ろうとした人生に少しでも重みを与え、「わたしたちはあなたを忘れない、あなたとあなたの事件を一生忘れない」と誓うことの必要性を、いったいどう説明したらいいのだろう?(p326)

この時現場に舞い戻った犯人の1人を女性警官が誤って撃ち殺します。丸腰の民間人を警官が撃ち殺したわけで言い逃れは出来ません。警官に事件を通報したドリスが加わり、彼女たちは被害者の夫を湿地のコテイジに拉致し、何とワニに喰わせます。これだけの話です。

 全編、被害者はすべて女性で加害者は男性というミステリーです。

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映画 ポトフ 美食家と料理人(2023仏) [日記 (2024)]

ポトフ 美食家と料理人 [DVD]
 『ヴィーガンズ・ハム』(blog内リンク)は際物だったので、口直しに正統派のフランスの料理映画『ポトフ』。邦題に「美食家と料理人」と付くように、美食家とその料理人の料理を介在としたラブストーリーです。監督は『青いパパイヤの香り』(blog内リンク)のトラン・アン・ユンですから美少女も登場します。
 冒頭から調理シーンの連続、さながらNHK「きょうの料理」ですw。いずれも凝った料理で見応え十分。

 ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は20年にわたって美食家ドダン(ブノワ・マジメル)の料理人。ドダンのレシピでウージェニーが料理を作り、ドダンの美食家としての名声を支えるパートナーです。2人の関係は美食家と料理人以上のものがあり、ドダンは「今夜寝室をノックしても?」と問い「いつも聞くが結婚しないか?」を彼女は軽く受け流します。2人は20年にわたって仕事と人生のパートナーです。「結婚はデザートから始まるコース料理の様なものだ」と負け惜しみ、これは伏線。登場人物は、この2人の他に午餐会でドダンの料理を賞味する4人、料理人見習いの少女ポーリーヌ(ボニー・シャニョー=ラヴォワール)、下働きのヴァイオレット。
ポーリーヌは、ソースの材料をすべて言い当てる料理の絶対音感を持つ少女です。

 ドダンに皇太子から食事の招待が舞い込みます。皇太子はドダンに美食家として勝負を挑んだわけです。メニューは3部構成の豪華コースで、ドダンは料理の羅列過ぎなかったと酷評します。返礼のメニューに、ドダンはポトフをえらびます。ポトフはフランスの家庭で何世紀も出されてきた料理だ、フランスそのものだ、と。

 ウージェニーが倒れ、ドダンは彼女のために料理を作ります。美食家が料理人となるわけです。メニューはポトフ。デザートに指輪を仕込み、ここに至ってウージェニーはドダンのプロポーズを受け入れます。結婚披露宴でのドダンの言葉は映画の主題のひとつです。私は人生の秋、実りの秋、美食の秋にウージェニーと結婚する、秋に結婚し冬の喜びを享受しよう、と(ジュリエット・ビノシュは60歳ですからまさに人生の秋です)。
 (伏線があって)ウージェニーは病気で亡くなります。ラストは無人の調理場、カメラがパンしありし日の2人を捉えます。

20年も一緒に暮らしているのに なぜあなたは私の瞳に映り続けるの?(ウージェニー)
すでに持っているものを求め続けるのが幸福だ それが君だ(ダドン)
大事な質問よ わたしはあなたの料理人?それとも妻?
料理人だ
ありがとう  FIN

わざとらしいセリフもフランス語だと絵になりますw(字幕ですがw)。美少女はどうなった? →どうやら料理人の道を歩き出したようです。料理がお好きならオススメです。この手の映画では『デリシュ』が一番?。
監督:トラン・アン・ユン
出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル

【料理の映画 blog内リンク】

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ドラマ The100 ハンドレッド(2014〜2020米) [日記 (2024)]

THE 100/ハンドレッド 1stシーズン 前半セット (1~10話収録・2枚組) [DVD]  アメリカのTVドラマには、『ファーゴ』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ウォーキング・デッド』など結構面白いものがあります。AmazonPrimeで☆4つ半の『The100 ハンドレッド』を見てみました。

100人
 核戦争が起こり地球は人間の住めない土地となって100年、人類は各国の宇宙ステーションを繋いだコロニーで暮らしています。よくある設定です。コロニーは厳格な法と専制的な議長と議員によって運営され、子供は1人に制限され、法を犯せば死刑等の厳罰に処せられます。
 例えば、ヒロインの一人オクタヴィアは妹として生まれたため床下で生活する幼少期を送っています。女医アビーの夫はステーションの欠陥を指摘した為に死刑となります。後にこのコロニーの論理が100人の若者に淘汰される辺りも見どころとなります。

 宇宙ステーションは酸素が不足し余命3ヶ月、口減しのため、些細な罪で犯罪者となった若い男女100人が地球に送られます。彼らが生き延びれば、地球の環境は安全でありコロニーの住民は帰還しようという計画です。映画は、地球に送り出された「100人」と、宇宙ステーションに残された人々のサバイバルの2本立てとなります。この辺りは今までにない設定です。

 ドラマは2014〜2020年まで100本が制作されていますからヒットしたようです。「チープだが、見続けています」というレヴューがある様に、ドラマとしてはご都合主義で荒削りですが、一度見出すと次々と見てしまうこととなりますw。

 地球に送られた「100人(ハンドレッド)」は、宇宙船の残骸から道具を作り、狩りをし、人類の残した食料、武器を見つけサバイバルが始まります。グループに分かれて諍い、若い男女ですから恋愛、三角関係もあり、暴力的で粗野な男のビルドゥングスロマンもあり、けっこう見せてくれます。宇宙版「15少年漂流記」の様なものです。

グラウンダー、ウンテン・マン
 当然の様に地球は無住の地ではなく放射能汚染から生き延びた人間がいます。ハンドレッド VS. 槍と弓を使うグラウンダー(森の民)と呼ばれる地球人との戦いのドラマとなります。地球が住める環境になったことを知ったステーションの住民は地球に移住し、ハンドレッドの若者とステーションの住人が合流します。若者たちは、サバイバルとグラウンダーとの戦いで成長し、リーダーが生まれ、宇宙での生活しか知らないステーションの住人(大人)を陵駕します。若者 VS. 大人、リベラル VS. 保守の諍いは面白いです。

 地球の住人はグラウンダーだけではなく、核シェルターで生き延びた旧文明の科学技術を受け継ぐマウンテン・マンがいます。彼らはシェルターで暮らしたため放射能の耐性が無く、外気に当たると死ぬ種族。そのためグラウンダーを捕らえて輸血によって生き永らえていると言う設定です。ハンドレッド×グラウンダー×マウンテン・マンの三つ巴の戦いとなります。この3グループは、宇宙で生き延びた人類、放射能汚染の地球で文明を喪って生き延びた人類、核シェルターで文明を維持しながら生き延びた人類、とそれぞれの環境によって特化したものの同じ人類です。現在の民族紛争や「新冷戦」のカリカチュアと考えると面白いです。

 ハンドレッドの40人がマウンテン・マンに捕まり、彼らはハンドレッドの骨髄を移植することで放射能の耐性を獲得します。ハンドレッドは、40人を救出するためグラウンダーと同盟を結び、ハンドレッド+グラウンダー VS. ウンテン・マンとなります。

 ここまでがシーズン1と2で、面白いですがストーリーはちょっと息切れ、こ辺で終わりにします。

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若竹千佐子 おらおらでひとりいぐも(2017河出書房) [日記 (2024)]

おらおらでひとりいぐも (河出文庫)
 岩手県南部のとある町に暮らす、後期高齢に手の届いた桃子さんの話です。桃子さんの独白は東北弁で記され、「東北弁とは最古層のおらそのもの」だそうです。

 桃子さんは、挙式3日前に1964年の東京オリンピック開会式のファンファーレと共に「どこかきらびやかなものがここでないどこかにあるはずだ」と故郷南部を出奔します。東京で宮沢賢治の童話の主人公に似た周造に出会い結婚し、二人の子供を育て夫を見送り子供は独立し今は独り暮らし。挙式3日前に出奔した以外は、何処にでもいる昭和の女性の半生です。この出奔事件でも分かるのですが、桃子さんは自立心、独立心が強い女性です。
あいやぁ、おらの頭このごろ、なんぼがおがしくなってきたんでねべが
どうすっぺぇ、この先ひとりで、何如(なんじょ)にすべがぁ

いくぶん認知症気味の桃子さんの元にもう一人の「オラ」が現れます。桃子さんが右に行けば左に、左に行けば右に揺り戻す桃子さん「最古層」です。やがて周造の声が聴こえる様になり、亡くなった「ばっちゃ」と話し、現実と過去が入り混じり半分あの世に足を突っ込んでいるかの様です。老いるという事はこういうことなんだ、という話が続きます。

亭主が死んで初めて、目に見えない世界があってほしいという切実が生まれた。
何とかしてその世界に分け入りたいという望が生じた。
・・・おらの思っても見ながった世界がある。そごさ、行ってみって。おら、いぐも。おらおらでひとりいぐも
切実(な思い)は桃子さんを根底から変えた。亭主が今ある世界の扉が開いたのだ。

タイトルの「おらおらでひとりいぐも」は、宮沢賢治が妹トシ子を悼んだ詩『永訣の朝』の一節から取られています。たぶん「いぐ」は「逝ぐ」です。「おらおらでひとりいぐも」は、トシ子同様に桃子さん強い思いです。

 桃子さんは白装束の女達が故郷の八角山に向かう白昼夢を見て、自分もまた⁠八角山の麓で生きてきた女達の1人であることを自覚し、こんな幻覚を見ます、

歩いだんだべな、歩いだんだべ
寒がったべ。暑がったべ。腹も減っていだべな。てへんだったな
アフリカを出たのは他の人がたに追い立てられて行き場を失なったからなのが、
獣を追って知らず知らず元の地を離れてしまったが、それとも東に夢を見だのが
灼熱の砂漠を歩いだべ 遠くヒマラヤを横目に見だのが
凍てつくシベリアを歩いで来たのが
・・・津軽海峡は歩いで渡ったのが
それとも草の船を漕いで南からやってきたのが

 桃子さんは、20万年前にアフリカを出て世界に散っていった「ミトコンドリア・イブ」の末裔であることを自覚します。そして「死」とはそうした人類の祖に連なることである、と。小説は、孫(女の子)「さやちゃん」の来訪で終わりますが、これもまた作者の企みでしょう。

タグ:読書
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映画 母と暮らせば(2015日) [日記 (2024)]

母と暮せば [DVD]
 長崎の原爆で息子を亡くした母親と亡霊となった息子の物語です。広島の原爆を描いた黒木和雄の『父と暮らせば』と対になる映画で、沖縄を舞台とした『木の上の軍隊』とこまつ座「戦後“命”の三部作」をなしているそうです。
 『父と暮らせば』は、娘・宮沢りえと原爆で命を落とし亡霊となった父・原田芳雄。『母と暮らせば』は母・吉永小百合と原爆で亡霊となった息子・二宮和也。舞台は、娘と父、母と息子の二人芝居だそうです。

   この世  あの世(亡霊)  舞台
父と暮らせば 娘・宮沢りえ 父・原田芳雄  広島
母と暮らせば 母・吉永小百合 息子・二宮和也  長崎

 『父と暮らせば』では、父親が亡くなっていることは途中まで伏せられ、娘と暮らす父は実は亡霊だったというレトリックで成り立っています。『母と暮らせば』の方は最初から息子は亡霊として登場しますから、井上ひさし(山田洋次)はこの劇(映画)の力点を何処に置いたのか?です。

 「舞台」は二人芝居ですから登場人物は母・伸子と亡霊の息子・浩二で、この2人の会話によって成り立っています。夫は他界、長男は戦死、次男の長崎医科大学の学生・浩二は原爆によって命を落とします。独りとなった伸子の元に浩二が霊となって現れます。母親と恋人・町子(黒木華)への思いで成仏できず霊となってこの世に戻ってきたわけです。映画ではこの町子が重要な役割を担います。町子は、浩二を亡くし生きる気力を無くした伸子を支え、浩二と伸子に義理を立て3年経った今も独身。闇屋で伸子に思いを寄せる上海のオジサン、町子を慕う小学校教師の黒田を配し、母と息子の会話劇が進行します。

 浩二は死んでいますから、会話の中身は二人の思い出。浩二をスパイ容疑から救った思い出、旧制高校の文化祭の思い出など、母子の絆に支えられた思い出に支えられて伸子は生きることが出来たわけです。夫と息子二人、愛する人を立て続けに喪うという運命を背負った人間は、その後どう生きていけばいいのか?という命題とその答えのドラマです。

 山田洋次の「いかにも」と言う人情噺も吉永小百合が演じると臭みが抜けます。素直に観ればけっこういい映画で、吉永小百合の存在は大きいです。『木の上の軍隊』も映画化され2025年に公開されるようです。

監督、脚本:山田洋次
原案:井上ひさし
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華

タグ:映画
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珍客 [日記 (2024)]

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 朝のこと、庭に出ると珍客です。手のひらに乗るほどの子猫。近づいても逃げません。ボール箱で日除けを作り水を飲ませて…と大騒ぎ。何時の間にかいなくなったので、親猫が迎えに来たんでしょう。飼ってやってもよかったので、ちょっと残念。

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映画 ヴィーガンズ・ハム(2021仏) [日記 (2024)]

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 原題、Barbaque(肉)。フランス映画には、料理とフランス革命を掛けた『デリッシュ』、『ポトフ』など「食」に引っ掛けた洒落た映画があります。カニバリズム(人肉嗜食)をアメリカで映画にすれば『羊たちの沈黙』『ハンニバル』になりフランスではこういう映画になります。タイトルの「ヴィーガン(ヴィーガニズム)」は、動物に由来する食品を一切口にしない過激なベジタリアンという意味らしいです。これがポイント。

 狂信的なヴィーガンがヴァンサンの精肉店を襲います。ベジタリアンのヴィーガンにとっては精肉店は忌むべき存在、抹殺の対象だというわけです。このヴィーガンのひとりをヴァンサンが事故で轢き殺したことでストーリーが始まります。ヴァンサンは死体を持ち帰り解体して処分、肉屋ですから死体の解体はお手のものw。何と一部をハムに加工します。この「人肉ハム(ヴィーガンズ・ハム)」を奥さんのソフィーが売ってしまい、その美味しさが評判を呼びお客が殺到。菜食のヴィーガンの肉ですから美味しいわけでしょう。と書けばグロですが、そこは仏映画、ソフトに描かれます。
 実はこの肉屋は経営が傾き、夫婦は離婚一歩手前。ところがヴィーガンの肉をイラン豚と称して販売し店は繁盛、喧嘩ばかりしていた夫婦仲も改善されます。これが2つ目のポイント。

 ヴァンサンとソフィーは、イラン豚を求めてヴィーガン狩りを始めます。誰を見ても食肉に見え、「上等の霜降りだ」と夫婦で囁き合う辺りは笑ってしまいます。ヴァンサンによると最高の肉は神戸肉だそうです。3ヶ月に30人のヴィーガンが行方不明となり(つまり食肉にされた)、しまいには肥満の少年から娘の恋人のヴィーガンまで狙う有り様。いくらなんでもこれは...、もう止めようと言う矢先に肉にペースメーカーが混じっていたことで足がつき捕まって、”FIN”。この映画にオチはありません。

 と書いても面白くもなんともありませんが、飽くなき美食の追求と行き過ぎたヴィーガニズム、そんなものが渾然一体となったフランスならではのブラックユーモアです。ジャン=ピエール・ジュネの『デリカテッセン』と似たブラックユーモアで、好き嫌いの分かれる映画でしょう →私は好きです。

監督:ファブリス・エブエ
出演:マリナ・フォイス、ファブリス・エブエ

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三宮 麻由子 わたしのeyePhone(2024早川書房) [日記 (2024)]

わたしのeyePhone  iPhoneではなく ”eyePhone”と言うところがこの本のミソです。著者は視覚障害者で、全盲のことをシーンレス(Scene Less)と書きます。シーンレスの著者がSiriの読み上げ機能を使って健常者同様、場合によってはそれ以上の環境を手に入れるエッセイです。

 シーンレスの著者は、Siriの画面を読み上げてくれるVoce Overや「音声コントロール」でiPhoneを健常者同様に操作します。音声入力してボイスオーバーで確認すれば正確な文章が書け、メールやエッセイ(著者はエッセイスト)が作成出来るようです。「5期ぶりの増加」→「ゴキブリの増加」などは笑ってしまいますが、我々でも普通に経験する話です。
 驚いたのは画像をコミュニケーション手段に使っていることです。著者は花を生けそれを写真を撮ってLINEで送り、お母さんから批評を貰うことによって華道や書道を楽しんでいるのです。友人に料理の画像を送ったり、服装のコーディネートの助言を貰ったり、と画像を使ったコミュニケーションが成立します。

 著者は4歳でシーンレスになり4歳までの「視覚記憶」があります。iPhoneを使うようになって、この視覚記憶に変化が生じて来たといいます。

アイコンたちが行儀よく画面に並んでいる様子がイメージできてきた。最初は点字の本をなぞるのと同じく画面上のアイコンを一つ一つ触って、横と縦の指の動きで点としての位置と距離だけをおぼえていた。それがあるときから、アイコンが並ぶ画面を一つの「面」として意識するようになった。ちょうど、見える人が画面全体を一瞥するように、私のイメージにも長方形のスマホ画面全体がいっぺんに浮かぶようになったのだ。

チョット感動しました。

 第3章「スキャン アイキャン」もナルホドと感心させられます。著者は缶詰やレトルト食品を購入すると、(写真に撮るなどして)誰かに読んでもらい点字ラベルを添付しています。文字をスキャンして音読する「リアルタイム読み上げ機能」で、誰かに「読んでもらう」から自ら「読んでみる」に変わります。iPhoneとデジタルがシーンレスの自立に一役買うわけです。
 本書の結びは、

ある日私の掌に突然入ってきた小さな四角い相棒がこれからどんな未来へと一緒に歩んでいってくれるのか、楽しみである

【私のiPhone】

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R・D・ウィングフィールド 夜のフロスト(2001創元推理文庫) [日記 (2024)]

夜のフロスト (創元推理文庫 M ウ 8-3)  原題Night Frost、そのまんま。『クリスマスのフロスト』『フロスト日和』に続くシリーズ第三弾(個人的には4冊目)。全750ページで持ち重りのする1冊 (でも一気に読めます)。

 俗物マレット署長、万年巡査部長のウェルズとデントン警察署のお馴染みが顔を揃えます。そうそう嫌味な検視官ドライズデールも健在。アレン警部は流感にかかって病欠、この流感は警察の戦力を半減させるほど猖獗を極めますが、マレット署長の願いも虚しく流感もフロスト警部を避けて通り過ぎます。このシリーズにはフロストと組まされる新任の若手刑事が登場し、「坊や」と呼ばれフロストの時間を無視した捜査や下品な悪口雑言に付き合わされることになってます。今回は24歳のフランク・ギルモア部長刑事。

 今回もいろんな事件が起こります。少女が行方不明となり、放火事件、墓場荒らしに動機不明の自殺と自殺未遂、老女だけを狙う強盗(連続老女切り裂き魔)。流感でデントン署の警官は流感で半減のところ立て続けに事件が起こり、アレン警部は病欠のため、全ての事件がフロストの両肩にかかってきます。登場人物は死体も含めて44名!。
 行方不明の少女が納骨堂から腐乱死体で発見されストーリーは動きだします。毎回動き出すまでが長いんですが、その間はフロストの下品な冗談で退屈しない様になっていますw。

 下品な冗談とは、例えば検屍官のドライズデールと助手のミス・グレイが検視解剖に取り組む様子を見て、

「あのふたり、寝てると思うか?」 フロストはギルモアの耳元で囁くと、検屍官の助手を務 める女のほうを視線で示した。…「せっせと励んでる最中に、こうして腰を振ると、のしかかってる相手の胃袋の内容物が攪拌され、それぞれの臓器が揺さぶられてるんだ、なんてことが頭をかすめたりしたら…萎えちまわないのかね」

時と場所をわきまえない下品なジョークだけではなく、こんな意外な一面も披露されます。老婆が姿を現さず部屋では猫が騒いでいるという通報が入り、フロストが現場に駆け付けます。

最初に開けたドアは、キッチンに続いていた。隅の暗がりで、一対の緑色の眼がきらりと光〝にゃあ〟とひと声、窮状を訴える鳴き声があがった。フロストは冷蔵庫から牛乳を取り出して皿に少しだけ注いで猫のまえに置くと、それを一心不乱に舐め続ける猫の、せわしない舌の動きを見守った。

ジョークが通じない猫には優しいのですw。微笑ましいフロストが描かれたのは初めてでしょう。フロストは猫を飼ってません、飼ってたのはピエール・ルメートルのヴェルーヴェン警部です。

 本書に至って、フロストの独善は、嘘、ハッタリ、証拠の捏造と過激になります。そこまでやる?ですが、元々我々読者は下品でルール無視のハミ出し刑事を楽しんでいるわけですからいいわけです。マレット署長も大「活躍」します。署長室にふんぞり返るだけではなく、取調室、殺人現場にまで出張って、トンチンカンな指示を出し現場を混乱させます。ラストの大詰めでは、フロストが犯人とクレーン上で大活劇を演じる現場にも登場し、フロストに毒にも薬にもならない指示を出します、「目指すべきは、迅速にして手際のいい解決だ。あくまでも正規の手続きに則って――それを旨とするように」と。

 とまぁ、今回も芹澤 恵さんの名訳で下品なフロスト警部が十二分に楽しめます。
クリスマスのフロスト』『フロスト日和』『フロスト気質』『夜のフロスト』と読んできました。あと『冬のフロスト』『フロスト始末』が残っているのですが、さてどうしようか?。

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映画 ツイスター(1996米) [日記(2014)]

ツイスター [Blu-ray]
  監督ヤン・デ・ボン、脚本マイケル・クライトン、製作キャスリーン・ケネディー、よく分からない製作総指揮にスピルバーグという豪華メンバーによるパニック映画です。
 日本で自然災害といえば地震と台風(最近は豪雨も加わりましたが)。アメリカでは映画になるくらいですから竜巻、トルネードなのでしょうか。日本で台風の発生と進路はわりと正確に予測されていますが、竜巻はそこまでいっていないようです。竜巻を研究する若者グループ(竜巻ハンター)が観測のために竜巻に突入する話です。竜巻情報が出ると、車に観測機材を積んで突入するわけですからパニック映画と言うより冒険映画。未知のものに挑むフロンティア精神に富んだアメリカらしい映画です。
 竜巻だけでは物足りないので、ラブコメ要素も加味されています。気象学者のビル(ビル・パクストン)は、婚約者メリッサを連れて昔の仲間で竜巻ハンターのジョー(ヘレン・ハント)の元を訪れます。離婚届にサインをもらうためです。竜巻発生の知らせを受けて竜巻ハンターは出動、この辺りは『ゴーストバスターズ』のノリです。ビルとメリッサはこの騒ぎに巻き込まれ、元ハンターのビルも熱くなり竜巻に突入する始末。
 竜巻ハンター達は、多数の観測機器を竜巻の中心部にばら撒き、進路予想の精度を上げる実験をしています。この成否もプロットのひとつ。
 映画の見どころは、竜巻の凄まじさです。電柱をなぎ倒し家を破壊し、車が巻き上げられ牛が宙を飛びます。CGを駆使した映像は迫力満点です。竜巻の勢力はF0~5(藤田スケール)で表すそうで、ハイライトは当然F5。映画のセリフを借りれば、F5の破壊力は「神の領域」だそうです。何とタンクローリーが宙を舞います。それに比べるとラブコメなど何だソレです。
 ジョーとビルはF5竜巻に遭遇し、観測機器をばら蒔き命からがら逃げ延び実験は大成功。予想通り離婚はナシとなりますw。
 納涼にピッタリの映画で、オススメです。監督のヤン・デ・ボンは『スピード』の監督だそうです。Amazonprimeで観たのですが、探せばまだまだ面白い映画はあるようです。続編の『ツイスターズ』もあるそうですが、おそらく続編は二番煎じ面白くない?。
監督:ヤン・デ・ボン
出演:ヘレン・ハント、ビル・パクストン、フィリップ・シーモア・ホフマン

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