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R・D・ウィングフィールド クリスマスのフロスト(1994創元推理文庫) [日記 (2024)]

クリスマスのフロスト フロスト・シリーズ (創元推理文庫)  英国デントン警察犯罪捜査部フロスト警部シリーズの第一弾です。
 冒頭、8歳の女の子が行方不明となり、新米刑事がデントン警察署に赴任するなど、フロスト警部はいっこうに現れません。少女は24歳の娼婦の娘。フロストは、やっと現れたと思ったら、下品な言葉で同僚をからかい、捜査会議を欠席したことで署長と一悶着。フロストの格好たるや、薄汚れたレインコートにえび茶色の趣味の悪いマフラー、プレスの利いていないよれよれのズボ ン(奥さんは亡くなり、独身)、年齢は四十代後半といったところ。おまけに事務仕事が大の苦手で、机の上は乱雑を極めオフィスは散らかり放題という、絵に描いたよう駄目刑事。フロストが警部になれたのは何かの間違いだそうです。そう言えばカミーユも警部。警察の階級は、巡査→巡査部長→警部補→警部→警視・・・警視総監で(日本の場合)、つまり上から6番目。軍で言えば尉官の上、佐官の下に当たるそうです。フロストの上司に当たるマレット署長は警視ですから、警部は現場の長。
 その一見落ちこぼれ刑事が颯爽?と事件を解決する辺りが『フロス警部トシリーズ』のキモです。『窓際のスパイ』の様なよくあるパターンと言えば言えます。

 上昇志向の塊の様な署長マレット、マレットを追い越して署長を狙うアレン警部、警察長(本部長?)の甥でこれも上昇志向の強い新米刑事のクライヴ、人のいい部長刑事ハンロンとデントン署の面々の手際のよい紹介の後、フロストとクライヴのが少女失踪事件の捜査に乗り出します。ベテラン刑事と新米刑事のコンビ、これもよくある設定です。クライヴによってフロストの人となり、捜査が炙り出されるわけです。このコンビは、

若い娘が出て来た。その娘を見て、クライヴは思わず脈拍が速くなるのを感じた。高性能爆弾級の肉体というやつだった。…豊かな胸に粘着フィルムのようにぴったりと貼りついたコットンのTシャツ。ここしばらくお目にかかったこともないような、デラックス・サイズのだった。蛇の眼のように、相手の視線を捕らえて離さない不思議な力を秘めた胸だった。 クライヴの視線は、事な隆起に釘付けになった。
おおっ、なんという眼福!」 フロストがかすれた声で言った。

というものw。フロストは、クライヴが捜査に同行した婦人警官に気があることに気づき、彼女を家まで送るように車を降ります。クライヴは、お茶でもと婦人警官を下宿に誘い、口説いている最中にフロストが現れ…と、もう一度笑わせてくれます。本筋の少女失踪事件に挟まれるこうしたクスグリが本書の魅力でもあるわけす。
 クスグリだけではありません。フロストは身を挺して犯罪に立ち向かいジョージ十字勲章の栄誉に預かります。この捨て身の行為は、実は奥さんとの確執に疲れたフロストの殆ど自殺行為であった事が明かされます。一見ノー天気なフロストにも苦労はあるわけです。

 事件の方は、娼婦の客で毎週彼女の元を訪れる英語教師、少女のヌード写真を撮るのが趣味の教会区司祭(コイツが怪しい!w)、淫行常習犯、女霊媒師、と容疑者が浮かび、そうこうする内に「子供は預かった、使い古しの5ポンド札で2000ポンド用意しろ」ということになり、失踪事件が営利誘拐事件となります。一方で、身代金を運ぶ娼婦が襲われ、30年前の白骨死体が発見され、銀行員が殺害され…と、立て続けに事件が起こりフロストはてんてこ舞い。誘拐事件はどうなった?と思わせて最後は誘拐事件に収束するという構成です。

 本書には、ピエール・ルメートルの様な「騙される」快楽はありません。誘拐事件が進行し、フロストの与太話、クライヴのボヤキ、フロストに振り回されるマレット署長とフロスト警部の無軌道振りを楽しんでいる内に500ページが終わってしまいます。リズム感のある芹澤恵さんの「訳」がいいです。海外小説の場合、小説そのものの質もさることながら翻訳が面白さを大きく左右します。

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ピエール・ルメートル わが母なるロージー(2011文春文庫) [日記 (2024)]

わが母なるロージー (文春文庫)
 「ヴェルーヴェン警部シリーズ」のスピンアウトだそうです。恋人のアンヌが登場しル・グエンは未だ犯罪捜査部長ですから、『アレックス』と『傷だらけのカミーユ』の間に位置する話です。

 パリ18区で爆発事件が起おこります。爆破跡から、第一次大戦で使われた140ミリ砲が爆発したものと考えられます。フランスではこの140ミリ砲の不発弾が今でも発見されるようです。さらに、犯人を名乗る青年ジャンが(TVで顔を知った)カミーユの元に自首して来ます。ピエール・ルメートルは毎回驚く様な設定を用意しますが、今度はそう来るか、です。

 ジャンは7個の140ミリ砲を使った時限爆弾を仕掛け、18区で爆発したのはその1個。残る6個は24時間間隔で爆発するようにセットした、爆弾を仕掛けた場所を教えて欲しければ、母親ロージーの釈放と2人の新しい身分、500万ユーロを用意しろとカミーユを脅迫します。母親は、ジャンの恋人を轢き殺し刑務所に収監されています。近所でもジャンと母親の不仲は有名であり、恋人を殺された母親を釈放するために何故テロを起こす必要があったのか?。この謎と時限爆弾のスリルで読者を引っ張ります。

 ジャンは、二発目は午前9時にセットし幼稚園に仕掛けたと自白しますが、場所は明らかにしません。政府は、フランスの全幼稚園児に退避命令を出すのか?、出した時のパニックと国民から突き上げの間で揺れます。なす術もなく午前9時を迎え爆発は起きません。爆弾は本当に存在するのか?それともハッタリか?。第一次大戦当時の不発弾が起爆する可能性は25%で、残りの6発のうち最低でも1発は爆発するわけです。

ただの脅しなのか、真の脅威なのかがわからない。そこが問題だ。
「しかもこれはわれわれを泥沼に引きずり込む罠でもある」とカミーユは分析した。
「われわれは、爆発しない可能性が高いと知りつつも、爆弾のあとを追いかけつづ
けることになるわけだからな」
そう、たしかに矛盾している。だが不確実な要素があるからこそ、ジャンの脅し
がますます効いてくる。耐えがたい選択肢しかないからだ。まず見つからないだろ
うと思われる爆弾を無我夢中で探しまわるか、それとも、どれかが爆発して数十人
の死者が出るかもしれないと思いつつ、なにもせずに待つか。

 カミーユは、3発目の爆弾探しに取りかかり取り調べを再開し、カウントダウンをリセットしふたたび新たな24時間と向き合うわけです。爆弾は存在するのか?、警察はジャンの要求を飲むのか?、ジャンの本当の目的は何か?。
 身長145cm、絵を描きながら考えを纏めるカミーユの原型を作った母親の名前もロージーだったと思います。その理由は触れられていませんが、結末を考えると分かる様なきがします。シリーズの番外編で中編ですがさすがピエール・ルメートル、面白いです。これでシリーズが終わりらしいのですが、残念。

《カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ》
 悲しみのイレーヌ(2006)
 その女アレックス(2011)
 傷だらけのカミーユ(2012)
 わが母なるロージー(2014)・・・このページ

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映画 サイド・エフェクト(2013米) [日記 (2024)]

サイド エフェクト [DVD]
 原題“Side Effects”、副作用。薬の副作用をめぐるサスペンです。

 冒頭、エミリー(ルーニー・マーラ)の車が駐車場の壁に激突し、自殺未遂として精神科医師バンクス(ジュード・ロウ)と接点が生まれます。エミリーは鬱病で医師シーバート(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)の治療を受けていた過去があり、再発しバンクスの診療所に通院しセラピーを受けるようになります。

 エミリーは抗鬱の薬が合わないとバンクスに新薬の服用を依頼します。効果は無く、徘徊や地下鉄に飛び込みそうになるなどの副作用が出て、遂には副作用による心神喪失のまま夫マーティン(チャニング・テイタム)を刺し殺してしまいます。エミリーは23歳でマーティンと結婚し、1年後に夫はインサイダー取引で逮捕服役、自宅を差し押さえられセレブな生活から転落して鬱病を患います。4年後に夫が出所し、これからと言う時に刺殺してしまったわけです。
 裁判の結果、エミリーは薬による一時的な心神喪失により無罪となるも精神医療センターに収容されます。大きく報道され、薬を処方したバンクスは信用を落とし患者は減り、エミリーとの不倫の写真が捏造され、患者と性的な関係を結びその夫を殺害したと噂されます。医師として追い込まれ、家庭も崩壊寸前。

 リスベット(ドラゴンタトゥーの女)のルーニー・マーラですからそんな単純な話では無いw、とバンクスが思ったかはどうかは別にして、エミリーの証言に疑問を抱いたバンクスは調べ始めます。件の新薬を勧めてくれたと言う会社の同僚は実在せず、駐車場の壁に激突した事故では安全ベルト装着しており自殺未遂は狂言、エミリーは嘘をついていたわけです。副作用をもたらした薬の製薬会社の株価は暴落し、一方で高騰する製薬会社が出たという情報がもたらされます…。やはりリスベットのルーニー・マーラだ!w。キャサリン・ゼタ=ジョーンズには件の薬の副作用に関する論文もありますから一枚噛んでいる?。そしてジュード・ロウのルーニー・マーラとキャサリン・ゼタ=ジョーンズへの反撃が始まりますw。

 普通、病気は血液検査等で病状を把握できます。精神科医は患者の証言から病状を類推し治療しますから、患者が嘘をつけばお手上げ →前半。これを逆手に取って精神科医が嘘をつけば患者はお手上げ→後半、という映画です。なかなか面白いサスペンスです。

監督:スティーヴン・ソダーバーグ
出演:ジュード・ロウ、ルーニー・マーラ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、チャニング・テイタム

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ピエール・ルメートル 傷だらけのカミーユ(2016文春文庫) [日記 (2024)]

傷だらけのカミーユ (文春文庫) 合本 悲しみのイレーヌ その女アレックス 傷だらけのカミーユ【文春e-Books】  原題“Sacrifices”=犠牲、「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」第3作。『悲しみのイレーヌ』から5年が経過し、『その女アレックス』の翌年です。カミーユはイレーヌの死から立ち直り、アンヌという恋人が出来たようです。アルマンの葬儀の日(そう、ケチのアルマンは癌で亡くなるんです)、そのアンヌが宝石店の強盗事件に巻き込まれ重傷を負います。ヴェルーヴェン班は、ルイは健在ですがアルマンは亡くなり、マレヴァルはイレーヌの事件で情報漏洩が発覚して警察を追われ、残りは富豪の御曹司ルイだけ。上司で親友のル・グエンは警視長に出世し、捜査部長はウルサ型のミシャール女史という設定です。

 恋人が犯罪に巻き込まれ重傷を負ったわけですから、カミーユはいきり立ちます。被害者が恋人であることがバレると捜査から外されますから、アンヌとの関係を隠して捜査に乗り出します。アンヌとの関係を隠しながら、アンヌを気遣い、犯人を追いつめる、この辺りが本書の面白いところです。

 強盗犯の「男」はショットガンを持ってアンヌを殺そうと病院に侵入、向かい打つカミーユvs.強盗の対決となり、前作『その女アレックス』でヴェルーヴェン班とアレックスが交互に描かれた様に、三人称でカミーユが、一人称「おれ」で「男」が描かれます。実は、この「おれ」が「主要な登場人物」の誰に相当するのか、が本書の核心です。

 アンヌを執拗に付け狙うのは、顔を見られただけではない何かを知っているからだ、と。カミーユのアンヌへの愛情とこの謎でストーリーは展開します。ショットガンをぶっ放す荒っぽい手口から、ヴァンサン・アフネルの犯行と推定され、カミーユは停職や配置転換を顧みず、上司を無視して警官を動員して狩り出す始末、完全に公私混同。カミーユはアンヌを病院から連れ出し、郊外の母親ロージーのアトリエに匿います。そのアトリエをショットガンを持った「男」が襲うわけです。
 ところがと言うか、アンヌは勤務先の旅行会社に在籍せず、あらゆる検索にアンヌという人物はヒットしません。

 アンヌ・フォレスティエは実在しない。ではアフネルが狙っているのは何者だ。

アンヌは何かを知っているから狙われたのではなく、アンヌだから狙われたのです。おまけに、アトリエを襲った「男」は派手に銃をブッ放すだけでアンヌを殺しません。室内に侵入すると「少しは落ち着いたか?」とアンヌに問います。男は強盗事件でアンヌには重傷を負わせ、銃を持って入院したアンヌを付け狙い、執拗にアトリエにまで追いかけてきたわけです。男とアンヌの関係は?、となりストーリーは一気に真相へと向かいます。

 『悲しみのイレーヌ』では最後の50ページでひっくり返されましたが、本書では3日間構成の3日目に作者にしてやられることになります。ミステリーですからこの辺りで止めますが、「3部作」イヤァ面白かったです。『その女アレックス』→『悲しみのイレーヌ』→『傷だらけのカミーユ』と翻訳順に読みましたが違和感なし、むしろ正解でした。

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いせ ひでこ ルリユールおじさん(2011講談社) [日記 (2024)]

ルリユールおじさん 絵本です。NHK「ラジオ深夜便」で作者のインビューを聴き、「そういう世界もあるんだ」と図書館で借りてきました。そういう世界とは、絵本という世界と製本・装丁という世界です。

 作者は、パリで、ショーウィンドーに本が飾られた風景に感動し、その店が忘れられず再訪して本書が生まれたと言います。店とは製本の工房です。ルリユ−ルは名前かと思ったのですが、

Relieurは、主にフランスで製本・装幀を手作業で行う職人を指す言葉である。また、その工程自体もルリユールと呼ぶことがある。Wikipedia

だそうです。作者はその工房を訪れ製本・装幀の工程を見学し、その時の体験が『ルリユールおじさん』に結実します。
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 ソフィーのお気に入り植物図鑑の装丁が壊れます。そんなに気に入っているのならルリユールに修繕して貰えば、という露天商の本屋さんの助言で「ルリユールおじさん」の工房を尋ねます。ルリユールのおじさんは、ルリユールには「もう一度つなげる」という意味があると教え、傷んだ表紙にソフィーの大好きなアカシアの木をあしらい、金の文字で“ARBRES de SOPHIE(ソフィーの木たち)”と刻印し図鑑は蘇ります。それだけの話です。

旅の途上の独りの絵描きを強く惹きつけたのは、 「書物」 という文化を未来に向けてつなげようとする、 最後のアルチザン (手職人) の強烈な矜持と情熱だった。手仕事のひとつひとつをスケッチしたくて、 パリにアパートを借り、何度も路地裏の工房に通った。 そして、 気づかされる。
本は時代を超えてそのいのちが何度でもよみがえるものだと。(あとがき)

 青を基調に、パリの下町と工房の様子を描いた絵は、お気に入りの本を修繕して何度も読みたいソフィー、本を修繕して文化を残すルリユールの伝統と調和して郷愁を誘います。昨今、表裏をボール紙(カルトン)で装丁し書名を刻印したハードカバーは少なくなっています。愛書家ではありませんが、それでも一生持っていたい本はあります。
 コミックや絵本は読まないのですが、たまには絵本もいいですね。

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映画 ゴヤの名画と優しい泥棒(2020英) [日記 (2024)]

ゴヤの名画と優しい泥棒[DVD]  原題“The Duke”。1961年、ロンドン・ナショナルギャラリーから政府が14万ポンドで買い入れたゴヤの「ウェリントン侯爵(Duke)」が盗まれます。で、邦題は『ゴヤの名画と優しい泥棒』、この盗難事件をめぐるコメディーです。そう言えば『やさしい本泥棒』というのがありました。

受信料不払い運動
 ケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)の下にBBCの調査員が受信料を払えと訪れます。家のTVはBBCが映らない様にコイルを外していると一悶着、バントンは2週間刑務所に拘留され新聞記事となります。バントンは、TVは老人の孤独を癒やす薬だ、貧しい老人から受信料を取るのはけしからん、政府は老人の受信料を無料すべきだ!と、息子のジャッキーと受信料不払い運動を始めます。60歳ですから老の一徹と言うか信念というか…。こういう旦那を持つと奥さんのドロシー(ヘレン・ミレン)は苦労するわけで、税金を払うのは国民の義務だと支払い、バントン家ではBBCの映らないTVに視聴料を払っていることになります。ジム・ブロードベントとヘレン・ミレンの演技がこの映画の見どころでもあります。
 NHKの受信料問題が、イギリスでは1960年に起こっていたわけです。

 バントンは、国がゴヤの「ウェリントン侯爵」を14万ポンドで購入したニュースを聞いて、14万ポンドあれば全国の年金受給者の受信料が賄えると抗議のためこの絵を盗みます。実際「ウェリントン侯爵」は1961年に ケンプトン・バントンというバスの運転手によって盗まれたそうで、映画はこのTrueStoryということになります。

 当局は「資金力と専門技術を持つ国際犯罪組織による窃盗事件」と発表しますが、実際はハシゴを使ってトイレの窓から侵入し、清掃のためセキュリティーが解除される午前4時半に絵を持ち出したという単純なもの。バントンと息子は、「ウェリントン侯爵」を人質に年金受給者のTV視聴料無料化を当局に要求しようということになります。ところが奥さんにバレて、バントンはナショナルギャラリーに絵を返しに行き捕まります。実は絵を盗んだのは息子のジャッキーです。

裁判
 ここからが本番で、バントンの裁判が始まり全英注目の的となります。人定尋問で、アンタはケンプトン・バントンか? →ケンプトンは競馬場から取った名ではないがそこでタネを仕込まれたかも、ダービー馬に騎乗したケンプトンだ。生まれは? →裏の寝室。などの返答で法定は笑いのうず。
 ハッチンソン弁護士(実在人物だそうです)は陪審員に向けて戦術を展開します。若くして結婚? →止むなく、愛の力です、運命だった。続いて受信料不払いで捕まった話になります。バントンは答えます、1914年、若者たちは戦線に送られ帰郷した。今や65歳以上の年金老人でとても貧しい。孤立し、誰ともつながれない生き方はつらすぎる、と冒頭のTVは老人の孤独を癒やす薬だという主張に繋がります。政府はこの絵に14万ポンド払ったが、その金の利子だけで多くの老人の受信料が賄え孤独が救われる云々。
 ハッチンソン(マシュー・グッド)は陪審員に語りかけます。隣人があなたの芝刈り機を借り、数ヶ月返さなかったらそれは犯罪か?、バントンはゴヤの絵を借りて自分の哲学を実行しようとした。彼は社会の弱者に利益をもたらそうとした、そしてゴヤを返却した。芝刈り機の返却は誰でも遅れがちになる、(ニヤッと笑って)「バントンは隣人なのです」。 → ハッチンソンさんそれは詭弁ですw。

 評決は「ウェリントン侯爵」を盗んだ罪はnot guilty、絵の額縁(持ち帰る際に捨てた)を盗んだ罪で3ヶ月の服役となります。「2000年、75歳以上のTV受信料は無料となった」というコメントが流れてTheEnd。NHK向きの映画なんですが、NHKでは間違っても放映されないでしょうねw。 →オススメ。

監督:ロジャー・ミッシェル
出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、マシュー・グッド

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川上未映子 黄色い家(2023中央公論) [日記 (2024)]

黄色い家  母親は水商売、父親は行方不明と絵に描いたような貧困母子家庭の高校生《伊藤花》の物語。

わたしたちはずっと母親のスナッ クの日当だけが頼りのその日暮らしで生きてきたのだ。それはそのまま、くしゃくしゃの千円札と小銭を集めて生きているような

生活です。家を出るために1年半かけて貯めたアルバイト代70万円が、母親の男とともに消えます。花は高校を中退し、家を出て母親の友人・黄美子とスナックを手伝い、これも絵に描いたよう様な転落です。底辺の境遇ですからこれ以上の転落はないわけで、あるのは花の「這い上がり」。花と黄美子のスナックに、キャバクラ勤めの蘭、実家は裕福だが不登校の高校生・桃子が加わり4人の生活が始まります。赤の他人が家賃と食費を出し合い一つ屋根の下で暮らすわけで、それぞれは擬似家族を求めたと言うこともできます。「一家」全員が他人という映画『万引き家族』とよく似ています。

ぶっちゃけ、最初はまじかーってびびったけど、ぜんぜんいけた。今日の感じだったら楽勝。 あたし超超、超がんばれるから。

と言う会話が続き、読む方は疲れますw。おまけに高校中退の花の独白は「かな」が多く読み辛い。

 男に逃げられて女に騙されて借金を作り、癌になった母親が現れます。哀れを感じた花はスナック経営で貯めた200万円を貸します。前半は、「しわくちゃの千円札と小銭」を集めた生活、アルバイトで貯めた70万の盗難、スナック経営で貯めた200万と、18歳の元女子高生と《お金》の話が続きます。西(の方角)に《黄色》を置くと金運があがると言った黄美子の言葉から、花は黄色の小物を揃え部屋に「黄色コーナー」を設けます。タイトルの「黄色い家」とは生存と欲望の源泉「金」の象徴であり、行く当ての無い4人が支え合って生きるSweetHomeでもあり、擬似家族と金銭のせめぎ合いでもあります。
 ビル火災でスナックが焼け、4人は生活の糧を失い後半に入ります。花は、元通り4人が働けるスナック再建のため、黄美子の友人・在日韓国人の安映水を通じヴィヴィアン(通称ヴィヴ)から仕事を紹介されます、その仕事とは偽造キャッシュカードで口座から金を引き出す「出し子」。生きるために花は犯罪に手を染め、元高校生の貧困脱出物語がカード詐欺のサスペンスに変わります。

普通に笑ったり怒ったり泣いたりしている、つまり今日を生きて明日もそのつづきを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろう。…。でもわたしがわからなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手にいれたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。(P429)

黄美子、蘭、桃子との生活を犯罪で支えるこっちの世界の花の問いに、これを読んでいるそっちの世界の人間はどう答えるか?です。

 4人が支え合って生きるSweetHomeも家賃が払え食費の工面が出来てのSweetHome。蘭がキャバクラを馘になり、桃子が勘当され黄美子の収入が絶たれ、「一家」の生活が花の肩に掛かって来ます。更に花は問います、

お母さん、お母さん、わたし大変なんだよ、どうしていいかわかんないんだよ、・・・お母さんはどうやって、どうやっていままで生きてきたの、わたしが子どもの頃、もっと小さかった頃、お金もないのにどうやって、いったいどうやって生きてきたの、・・・ねえお母さん、いまどうしてるの、お母さんいままでつらくなかった? こわくなかった?ねえお母さん、生きていくのって難しくない? すごくすごく難しくない?お金稼ぐのって、稼ぎつづけないといけないのって、お金がないとご飯も食べられなくて家賃も払えなくて病院も行けなくて水も飲めないのって、すごくすごく難しくない?ねえお母さん、わたしわからないんだよ、どうしていいかわかんないの、いますごく難しいの、難しいんだよ、どうしていいかわかんないの、ねえお母さん聞こえてる? ねえお母さん…。

 花の「仕事」に蘭と桃子が加わります。事故クレジットカードで新幹線チケットを買い金券ショップで現金に代えるカード詐欺。花は蘭と桃子に給与を渡し、残金は4人のユートピアであるスナックの再建資金としてダンボール箱にプール、20歳前の娘3人は数ヶ月で500万円を貯めます。このダンボールの現金が後に事件を引き起こします。

 ヴィヴからの連絡が途絶え、破綻が訪れます。花は、仕事(シノギ)を仕切り、「上がり」を管理する一家のリーダー。互いに支え合う関係は、やがて花が一家を「支配」する構図へと変化します。ダンボールの貯金は2000万円に膨れ上がり、欄と桃はスナック再建の資金だった2000万円に所有権を主張し、困難の中では団結していた「黄色い家」は大金を前に崩壊します。
 第九章「千客万来」迄の逆境から抜け出そうと足掻く花の生きさまは魅力的ですが、十章「境界線」以降、抜け出した後に見える風景は生な欲望の連鎖であり「生きていく難しさ」です。終章、「崩壊」の20年後に花は黄美子を訪ねます。黄美子は花との同行を拒みますから「黄色い家」の絆は確認できなかったようです。終章のタイトル「黄落」で、4人に幸せをもたらす《金》の黄色は黄昏の黄色に変わり、花は40歳にして人生の黄昏を迎えたと言うことになります。
 『万引き家族』は、家族の絆は血の繋がりではなく、ともに暮らした歳月と共有した体験だという映画でした。『黄色い家』では、絆はお金によって保証されお金によって簡単に壊れると言う小説です。

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ピエール・ルメートル 悲しみのイレーヌ(2015文春文庫) [日記 (2024)]

悲しみのイレーヌ (文春文庫)  原題“Travail soigné ”丁寧な仕事。邦題より本書の中身を的確に表しています。パリ警視庁「カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ」の第1作。先に読んだ第2作『その女アレックス』では簡単に触れられているヴェルーヴェン班の刑事ルイ、アルマン、カミーユの上司ル・グエン部長の逸話や妻イレーヌとの馴れ初めから結婚も描かれます。第2作ではイレーヌは誘拐され殺されたことになっていますから、この第1作でその顛末が語られることになるわけです。

 ストーリーは、ロフトの壁に釘で打ち付けられた若い女性の頭が自分の胴体を見降ろしている、しかも2体という酸鼻を極める殺人現場から始まります。被害者は娼婦、凶器に電気ドリル、塩酸、チェーンソー 、釘打ち銃、数種類のナイフ、ライターが使われた猟奇殺人。壁には「わたしは戻った」と血で書かれ、ニセの指紋が署名としてこれも血でスタンプされています。このスタンプから2年前の迷宮入り事件が同一犯による殺人であることが判明し、カミーユは、2年前の事件がジェイムズ・エルロイの小説『ブラック・ダリア』に酷似していることに気づきます。今回の女性2人のバラバラ殺人は、B・E・エリス の『アメリカン・サイコ』の「見立て殺人」であることが判明します。ソルボンヌ大学の教授の協力で、ミステリーから抽出したキーワードで未解決事件の調書を検索すると、ミステリー小説の「見立て殺人」が次々に明らかになります。『ブラック・ダリア』は昔読みましたが確かに面白い。

 マザーグースに沿って人が殺される所謂「見立て殺人」はミステリーではよくある設定ですが(『そして誰もいなくなった』など)、『悲しみのイレーヌ』はミステリーを「見立て」に使ったミステリー小説というわけです。
カミーユは犯人はミステリー小説の愛読者だと考え、ミステリ専門誌に広告を出し接触を試みます。犯人から返信があり、原作を如何に忠実に再現したかを得々と語ります、原題“Travail soigné ”丁寧な仕事の謂れです。

ミステリがこれほどもてはやされるのは、人々が無意識のうちに死を求めているからです。そして謎を。…人々は死のイメージを求めます。 そして、その渇きを癒すことができるのは芸術家だけです。作家は死を夢見る人々のために死を描き、悲劇を求める人々のために悲劇を書いています。しかし人は常に多くを求めます。もはや物語では満足できず、血を、本物の血を求めるようになります。人類は芸術という形で現実を変貌させることによって、自分たちの欲望を正当化しようとしているのですが…その欲望が満たされることは決してありません。人々が本物の血を望んでいるからです。だとすれば…芸術と現実をつなぐ細い道の一本くらいあってもいいのではないでしょうか
…(p349) 

わたしは自分がなすべきこと、自分の存在意義、自分に託された本当の使命に気づきました…文学と現実を結びつける輪―それこそわたしのテーマだ、と。

犯人が企てた見立て殺人は5件、
 エミール・ガボリオ『オルシヴァルの犯罪』
 シューヴァル&ヴァールー『ロセアンナ』
 ウィリアム・マッキルヴァニー『夜を深く葬れ』
 ジェイムズ・エルロイ『ブラック・ダリア』
 B・E・エリス 『アメリカン・サイコ』
 イレーヌが誘拐され、犯人自らが書いた小説『影の殺人者』をなぞった第6の事件が起こります。ピエール・ルメートルは、最後の50ページでそれまでの400ページをひっくり返すという離れ技をやってのけます!。シリーズ第2作『その女アレックス』を先に読んだのですが全く問題ありません。

《カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ》
 悲しみのイレーヌ(2015)・・・本書
 その女アレックス(2011)
 わが母なるロージー(2011)
 傷だらけのカミーユ(2012)

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第二の脳 [日記 (2024)]

スクリーンショット 2024-05-18 11.38.15.jpeg  スクリーンショット 2024-05-19 7.55.00.png
メモアプリとblog
 老化と伴に物忘れが進み「アレ何だっけ?」ということがよくあります。こういう時にはスマホのメモを検索すると大体解決します。Evernoteのキャッチコピー「第二の脳」は言い得て妙です。この手のメモ帳は、クラウド経由でPC、スマホなど複数の端末で利用出来るので重宝します。もうひとつが日記代わりのblog。カボチャの種は何時蒔けばいいのか? →自分のblogを検索すると疑問は解決しますw。メモアプリとblogは脳の延長、記憶の引き出しです。
 ところがです、スマホのEvernoteがupdateで重くなり、アレコレ試した後UpNoteに乗り換えました。Evernoteのデータがソックス移行できること、動作が軽くサッとメモれることが条件でUpNOteにしました。乗り換えて半年になりますが、メモ、画像、webクリップなど何でも放り込んで第二の脳として重宝しています。

UpNote
 UpNoteのメリットは、100円/月(プレミアム)で容量と端末が無制限、且つデータの移行が簡単に出来ることです。webクリップも容量を気にせず使えます。メモ帳のキモは階層構造にあると思います。まずmy Notebookでメモを作成し、書き終わるとしかるべきノートブックに移動します。この時メモをどのノートブックに入れるべきか悩みますが、UpNoteでは複数のノートブックを指定できるので便利です。例えばiPhoneについてのメモは、スマホとMacのノートブックに登録しておきます。料理レシピは、レシピの下位の煮る、焼く、炒めるのノートブックに入れ、牛、豚、鶏、魚のタグを付けておきます。縦横から検索できます。クイックアスセスには、文字通り頻繁にアクセスするノートを登録しています。
 メモ代わりに写真を撮る場合があります。写真にテキスト化してメモにしておけば、中身まで検索対象になるので便利です。Googleでも可能ですが「一太郎pad」を使うとテキスト化の精度が上がります。

 iPhone、iMac、Windowsノートと3台使っていますが、何時でも何処でも第二の脳を検索出来ます。これで老化した脳を補完しているわけですが、心配なのはUpNoteとSSブログの永続性。UpNoteはベトナムの会社で、SSブログは無料版を利用していますから、サーバーが壊れるか今月でお終いと言われれば脳みその半分が失われるわけですw。アンタがクタバル方が早い?。で、3ヶ月に1回データをエクスポートすることにしました。

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映画 天国でまた会おう(2017仏) [日記 (2024)]

天国でまた会おう[Blu-ray]
同名小説を原作とした映画です。第一次世界大戦後の1919年、パリを舞台に戦争で傷ついた男と戦争で成り上がった男たちの物語です。戦死者の墓地建設で一儲けを企むプラデルと追悼記念碑の詐欺でこれも一儲けを企むエドゥアールに、戦争で顔の半分を無くしたエドゥアールを養うアルベールエドゥアールの富豪の父親、姉マドレーヌ、プラデルの犯罪を暴くメルランが絡み、映画は原作を忠実に描きます。

 砲撃で口と頬と顎を失ったエドゥアールは様々な仮面を作り被ります、映像になるとインパクトがあります。エドゥアールは、仮面によって本来の自分を隠し様々な姿に変身、飾りの付いた幻想的な仮面、能面の様な仮面、紙幣で飾り立てた仮面で登場します。仮面劇の役者であり(喋れないため)パントマイムを演じます。仮面の匿名性は、第一次世界大戦で傷ついた兵士、死んだ兵士の象徴でもあるわけです。
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 第一次世界大戦では1600万人が戦士し、2000万人が負傷したと言います。兵士たちを弔う墓地、祖国の英雄を称える記念碑の建造の機運が生じ、プラデルとエドゥアールはこれに乗るわけです。プラデルは、いい加減な身元確認、いい加減な棺桶を作って利ザヤを稼ぎます。エドゥアールとアルベールは記念碑のパンフレットを作り、予約を募って手付金詐欺をはたらきます。自分たちを戦争に駆り出し、殺し負傷させた国に対する仕返しです。プラデルは戦争の英雄となり余剰物資で焼け太り、エドゥアールは負傷してみにくい姿となり、アルベールは職を失います。やっていることは同じで「復讐するは我にあり」です。

 映画は原作以上に明快です。プラデルは悪事が露見し(アルベールが戦場生き埋めとなった様に)墓地の工事現場で生き埋めとなり、エドゥアールは父親と和解しますが、「天国でまた会おう」とばかり自殺します。小説を読んでも映画を観ても???。フランスにはこの映画(小説も)が成立する背景があるのでしょうが、日本人には正直ピンと来ません。

監督:アルベール・デュポンテル
原作:ピエール・ルメートル
出演;アルベール・デュポンテル、ナウエル・ペレス・ビスカヤール

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