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ハルノ宵子 隆明だもの(2023晶文社) [日記 (2024)]

隆明だもの
0.4%
 隆明とはあの吉本隆明のことです。吉本は2012年に亡くなっており、1970年代に親しんだので(個人的には)全盛期は1960〜80年代の最早過去の人。《あの頃》には、三浦つとむ、村上一郎、島尾敏雄、江藤淳等の著名人がキラ星の如く登場し吉本家を訪れます。

「なんて贅沢な幼少時代なんだろう!」と、思われることだろう。私だってそう思う。しかし、そう思うのはイヤその前に(父も含めて)、ここに登場した人の名前を誰ひとりとして知らない方が、日本人の99.6%位なのだということを勘違いしてはならないと思う。(p34)

著者によると、この本を手に取るのは0.4%に属する日本人らしいですが、図書館では在庫1に予約が42入っていますから、それなりの人気です。人吉本の長女で吉本ばななの姉で漫画家・ハルノ宵子が語る吉本「隆明」です。

死期を悟った老猫
昔から猫は、死を予感すると姿を消すと言われている。・・・そろそろアブナイかな・・・というノラが、軒下の暖房入りの箱にうずくまっている。でもある日力を振りしぼって、1歩2歩と箱の外へ出てヘタり込んでいる。また暖かい箱の中に戻してやる。しかし翌日には、1歩進んだ所で力尽きて死んでいる。そうだった・・・出て行こうとするノラ猫を「情けない」なんて思ったことはない。死ぬために出て行くんじゃない。1歩でも2歩でも、自分の力で生きるために行くんだ。生ぬるい家も家族もいらない。最後には真の自由と孤独の時間を生きるために、すべての老人も出て行くのだと思う。(p24 )

87歳の死期を悟った吉本が、外出姿で杖を持って老猫の如く玄関で倒れていたというのは、0.4%の人間には痛ましい、と言うより「あの隆明が!」と言うショッキングな話です。著者は猫についての漫画やエッセーのある愛猫家だそうですが。また、

吉本家は、薄氷を踏むような"家族"だった。父が10年に1度位荒れるのも、外的な要因に加えて、家がまた緊張と譲歩を強いられ、無条件に癒しをもたらす場ではなかった(父を癒したのは猫だけだ)。(p131)

そう言えばトルストイは家出して片田舎の小さな駅で亡くなっています。

サヴァン症候群
父の場合は、ちょっと特殊だった。簡単に言ってしまえば、“中間"をすっ飛ばして「結論」が視える人だったのだ。本人は自覚していなかったにしろ、無意識下で明確に見えている「結論」に向けて論理を構築していくのだから”吉本理論”は強いに決まっている。けっこうズルイ。(p56)

 よく書評で触れられる箇所です。サヴァン症候群(高機能自閉症)かどうかは別にして、無意識下で明確に見えている「結論」に向けて論理を構築していくというという部分はよく分かります。難解で鳴る『共同幻想論』も、吉本は60年安保の渦中で対立する相手、権力というか国家の実体は国民というか日本人の「共同の幻想」ではないかと感じた(結論付けた)わけでしょう。その幻想の正体を『遠野物語』『古事記』を使って論理付けたのが『共同幻想論』。吉本は詩人として出発し、感性で捉えた詩=結論に論理を肉付けして評論家となります。

ボケるんです!
 《ボケるんです!》《非道な娘》は、著者が、糖尿病で眼が見えず歩行困難となりボケの来た吉本を介護する話です。本書のタイトル『隆明だもの』の「だもの」の後に省略された部分が本書の核心です。吉本隆明の読者のオジさんたちよ心してかかれ!、でしょうか。団塊の世代御用達のちょっと恐ろしい本です。

タグ:読書
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