「ブルックス・ブラザーズからパワーブックまで」を読むと、VANジャケット世代のアメリカに対する郷愁と鬱屈がよく出ている。ブルックス・ブラザーズは言うまでもなくトラッドな服飾店で、パワーブックはアップルのパソコンである。40台半ばの村上春樹氏は、アメリカで買うものが(買いたいなと思うものが)無かったと宣う。ジョン・F・ケネディーやポール・ニューマンが着こなしたスーツやジャケットの彼方にある「アメリカ」は最早存在しないと嘆く。氏がアメリカで買ったものは、車はVW、家具はイケア、オーディはデンオン、TVはsonyだったらしい。そして唯一のアメリカ製品はマック(apple)だったというオチが付く。別に経済のグローバル化とアメリカ工業力の凋落を論じた文章では無いが。(ヘェ~村上春樹はマックで原稿書いているんだ。)
そう云えば、80年台末~90年代前半のアメリカを旅行したが、買ったものと云えば、アーミーナイフ(スイス製)とつまみのビフジャーキーと子供の土産のルアーやデゴイだった。アメリカ製と云えばZippo程度、appleのパソコンは欲しかったが、こちらは買わなかった(もって帰るのが大変)。服装に興味が無いのでブルックス・ブラザーズは行かなかったが、NYのエディー・バウアーで奥さんのセーターを買った。アメリカ製ではなかったろうが、ちょっと日本には無いデザインだった。
作家のプリンストン滞在記と云うと、古くは文芸評論家・江藤淳の「アメリカと私」がある。村上春樹と同様、作家としてプリンストンに招かれ、プリンストンでの生活を綴った随筆である。昔読んだので記憶があいまいだが、江藤淳の「アメリカと私」には、アメリカで生活する初々しさと気取りがあったような気がする。1960年代と90年代の時代の差、江藤淳と村上春樹の資質と云うより世代の差であろう。
江藤淳と読み比べると更に面白そう →☆☆☆☆★