この宝物を持ち主に返すことで、彼女は《世界と調和》し徐々に孤独から解放されることとなります。これを機に、アメリは次々と周りの人々に《密かな》お節介をやきはじめます。この《密かな》というところがアメリらしいところでしょう。
例えば、近所の八百屋の主人が店員に辛く当たるの見て、この店員に代わって《密かに》主人を懲らしめたり(笑えます)、ひきこもりの父親を再び外の世界に引き出そうと奇策を弄したり(これも笑えます)、アパートの管理人に夫の手紙を天国から配達したり、カフェの同僚と常連客の恋のキューピッドを勤めたり、こうしたエピソードのひとつひとつがユーモラスで少し哀しく心温まるものです。
そして今度はアメリ自身が恋に陥ります。内気なアメリの恋の告白には笑ってしまいます。
世界を旅し記念写真を送ってくる人形、ルノワール『舟遊びする人々の昼食』など小道具もなかなか凝っています。
フランス映画ですからエスプリにあふれた会話もあります。たとえば、八百屋の主人に投げかけるパンチの効いた一言、
街の排水溝には芝居のプロンプターが隠れている。気の弱い人が言葉につまるとセリフを教えてくれる。
『コリニョンさん、あなたは野菜以下ね、少なくとも野菜には芯(ハート)があるもの』
排水溝のプロンプターがアメリに教えるのですから、笑います。というぐあいに、映画全体がオシャレでユーモアとペーソスに溢れています。
映画に登場するヘンな人々をご紹介します。以下ネタバレです。
●アメリの父
元医者で、妻(アメリの母)を亡くし隠遁生活。人生に目的を失い自宅に引きこもりがち。庭に妻の廟を作り、ドワーフ(人形)を飾っている。
●カフェの女主人シュザンヌ
元サーカスの曲馬乗り。空中ブランコの恋人に別れ話を切り出され、馬から落ちてビッコとなった。
●アメリの同僚ジョルジェット
病気が好きで薬を常用。アメリのたくらみでジョゼフと恋に落ちる。
●アメリの同僚ジーナ
お祖母さんの影響で、店の常連にマッサージをしている。ジョゼフのかつての恋人。
●カフェの常連ジョゼフ
はっきり言ってストーカー。ジーナが誰と付き合っているか調べに毎日カフェに現れる。アメリのたくらみでジョルジェットと恋に落ちる。
●カフェの常連、売れない小説家イポリト
出版社に原稿を持ち込み、30回断られた経験を持つ。どうもこの映画のラストでは売れたかも?(売れそうな予感)。
●スチュワーデスのフィロメーヌ
アメリの父の《ドワーフ》を世界中に旅をさせ、彼女自身も白雪姫になれたらしい。
●アパートの管理人マドレーヌ
夫が会社の金を使い込み恋人と南米に駆け落ちし、交通事故で死亡。夫のラブレターを思い出としている。アメリのたくらみで、天国の夫からラブレターが届く。
●八百屋の店員リュシアン
いつも主人にいじめられているグズだが心優しい青年。
●八百屋の主人コリニョン
店員リュシアンにつらく当たるが、気のいい八百屋。ジュリアンに代わってアメリに仕返しをされる。
●アパートに住人で画家レイモン(別名ガラス男)
骨がもろくなり(と信じ)家具に布を捲いて暮らし、20年間部屋を一歩も出たことがない。20年間、ルノワールを1年に1枚模写している。アメリと親しくなり、アメリを勇気づける。
●アメリの部屋の40年前の住人ブルトドー
アメリの部屋の40年前の住人。一人娘と不和となり、孫とも会えず孤独な日々を送っているが、アメリから40年前の宝物を贈られたことで娘と仲直りする。
●ポルノショップの店員ニノ
捨てられたスピード証明写真のコレクターというマイナーな青年。アメリが一目惚れする。
●謎の男
4カ所のスピード証明写真のBOXで、それぞれ3回写真を撮った謎のスキンヘッド。
小道具1 小道具2
この少女(赤い丸印)が話題となります ニノが拾った怪傑ゾロ(アメリ)の写真
アメリを演じるオドレイ・トトゥですが、『ダ・ヴィンチ・コード』のソフィー・ヌヴーです。髪型が違うので全く気付きませんでした。ブルトドーを探すエピソードで、画家のレイモンが言います『ブルドトーじゃない、ブル《ト》ドー。トトゥの《ト》』これは彼女の本名オドレイ・トトゥにひっかけたんですねぇ。 もうひとり、リュック・ベッソンの『アンジェラ』のジャメル・ドゥブーズが出ています。特異な風貌と隻腕で、これは分かりました。
ひさびさにフランス映画を堪能しました、これはお薦めです(^^)/。
監督:ジャン=ピエール・ジュネ
出演者:
オドレイ・トトゥ
マチュー・カソヴィッツ
ジャメル・ドゥブーズ