SSブログ

村上龍 ヒュウガ・ウィルス 五分後の世界2 [日記(2010)]

ヒュウガ・ウイルス―五分後の世界 2 (幻冬舎文庫) 『五分後の世界2』と副題は付いていますが、『1』と登場人物の重複は無く『五分後の世界』を舞台とした別個の物語です。

 『1』ではパラレルワールド『五分後の世界』にタイムスリップした小田桐によって、1945年8月15日に敗戦を受け入れなかったもうひとつ歴史、米英露によって分割統治される日本と地下に潜った大和民族(アンダー・グラウンド)が語られ日本最大のスラムオールド・トウキョウが描かれました。

 『2』ではフリーのビデオジャーナリスト、キャサリン・コウリーの眼を通して、タイガーバームからプルトニウムまで買うことのできる世界最大のフリーマーケットオサカ、統治国イギリスの撤退し無法地帯となったシコク、九州にある大歓楽街ビッグ・バンと、アンダーグラウンド(UG)軍防疫部隊の活躍が描かれます。

 

 UG軍に取材を申し込んだコウリーは、反対にUG軍のある作戦の記録を依頼されます。作戦とは国連軍からUGに委託されたもので、ビッグバンで猖獗を極める感染症の発生源を殲滅することです。エボラ出血熱を思わせるこの感染症は、ウィルスによって内蔵が破壊され、全身からの出血と末期の筋収縮発作による頸椎の骨折によって死に至る、致死率100%の感染症です。病原体は、発生源の地名からヒュウガ・ウィルスと呼ばれます。

 作戦の途上、ビッグバンでひとりの生存者が発見され、発病したUG軍の兵士が筋収縮発作を回避して感染症から回復します。致死率100%の感染症からふたりは何故生還できたのか?謎をはらんで物語は佳境に突入します。

 映画の解説をやっているわけではないのですが、『ヒュウガ・ウィルス』はバイオ・ハザードそのままに映像的です。


 『五分後の世界』は、ポツダム宣言を受け入れず原爆を五発落とされ米英露によって分割統治される日本が舞台です。抵抗と虐殺と移民による混血化によって人口は26万人まで減少し、地上を離れて長野県の地下都市で生き延びている大和民族の物語です。国連と一切妥協せず科学技術と麻薬『向現』を武器に国際社会に独自の地位を築こうとするUGが描かれますが、この仮想の日本を描くことで、作者は現在の日本と鋭く対立しようとします。

 




 そして、元の世界に戻らず五分後の世界で戦い続けることを選択した小田桐、圧倒的な危機感をエネルギーに変えてウィルス感染症から帰還したUG軍兵士ミツイ、想像力が現実を超える事実を証明して見せたビッグ・バンの少年モノーが配され、闘いこそが世界を切り開いてゆくという村上龍の革命理論?が物語られています。

 




 ヒュウガ・ウィルスは何故大歓楽街ビッグバンで発生したのか?ヒュウガ・ウィルスの治療と向現(UGで生産され貨幣としても流通する精神昂揚剤、習慣性の無い麻薬)の関係は?UG兵士は何故感染症から生還したのか?多くの謎は解決されないまま、ヒュウガ・ウィルスが世界に蔓延する予感で幕となります。

 




 歴史のifを巧みに使ったロマンあふれる物語です。惜しむらくは、作家の作ったイメージが大きすぎて、小説の枠からはみ出ていることです。『五分後の世界』が生きるためには、この三倍の長さが必要でしょう。

 


タグ:読書
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0