原題、L' HOMME DU TRAIN。パトリス・ルコントの描く世界は、人間の内部世界が排他的に自己完結する世界だと思います。仕立屋の恋で仕立屋は無償の愛に殉じ、髪結いの亭主では愛を永遠に閉じこめるために濁流に身を投げます。排他的、自己完結、あるいは独善、ひとりよがり、どうとでも言えますが、人間の内部世界は他人の斟酌を拒否する魂の王国なのです。
 パトリス・ルコントが男同士の世界で魂の王国を描くとどうなるのか?、『列車に乗った男』はそんな映画です。

 男がふたり。ひとりは銀行強盗を企む中年ギャング(ジョニー・アリディ)。もうひとりは、30年にわたる国語教師を退職した初老の男(ジャン・ロシュフォール)。この全く異質なふたりがふとしたことで出会い、ギャングは誘われるままに元教師の家に滞在します。