エニグマのハードウェアはすでに捕獲済みですから、『鍵』が解読できれば暗号文は復号可能となります。この鍵を解読し、ドイツ軍の暗号無線を復号する英国機関がGCCS(ブレッチリー・パーク)のようです。
頻繁に出てくる気象報告がこの『鍵』にあたると考えられます。多くの『鍵』のサンプルが集まれば、この鍵を解くことが出来たようで、後半の船団を犠牲にしてUボートの暗号サンプルを蒐集するシーンがこれですね。
この映画とかかわってくる背景です。
さて、映画に戻ります。
映画でも出てきますが、エニグマがシャークに代わってローターの数が3枚から4枚になり、今までの鍵解読の手法が通用しなくなりジェリコがブレッチリー・パークに呼び戻されたわけです。英国がエニグマの解読に成功したことは極秘であり、ドイツ軍がシャークによって暗号鍵を強化したことは、この解読情報が漏れていることを意味しています。この漏洩を調査するのがウィグラム(ジェレミー・ノーサム)で、ブレッチリー・パークの解読班にスパイがいるとにらんで、ジェリコを執拗につけ回します。
一方、クレアを忘れられないジェリコはクレアの友人ウォレス(ケイト・ウィンスレット)の助けを借りて彼女の行方を追います。そして、クレアの部屋の床下から解読前の暗号が発見され、解読後の暗号はブレッチリー・パークから消えているという謎が現れます。
この辺りのストーリー運びは上手いです。よくある手だと思うのですが、失踪した恋人を探すうちに、恋人の隠れた一面が浮かび上がり謎が謎を生んでやがて驚くべき真相が明らかになる・・・これです。
以下ネタバレ反転(ご注意、観る前に読むと面白さが半減します)
・クレアは暗号解読の情報が欲しくてジェリコに近づいた。
・クレアの情報は恋人である解読班のジェリコの同僚パックに流れていた。
・クレアが隠匿していた暗号は、東部戦線から発せられた情報であり、『カティンの森事件』の詳細な報告であった。クレアはこれをパックに伝えた。
・パックは、ドイツ軍の『カティンの森事件』の報告書の中に弟の名前を発見する。パックはポーランド人である。
・ソ連軍のポーランド人虐殺情報をつかんだヒトラーは、これをプロパガンダとして利用しようとした。
・連合軍に不利な情報であり、英国当局はこれを隠蔽した。
・パックはこの隠蔽を不当と考え、虐殺を公表するためドイツ軍に協力する決心をする。ウィグラムの言う『敵の敵は味方』。
・パックがドイツ軍に漏洩しようとした情報は、『シャーク』の解読?
・クレアにとって、パックの行動は祖国イギリスへの裏切りであり、パックに協力したクレアは身を隠す。
・パックが情報漏洩元であることを突き止めたウィグラムは、パックがクレアを殺害したとして捜索する。
・クレアは、ウィグラムが放った(スパイを炙り出す)スパイだったが、任務の途中でパックを恋してしまう。あるいは、パックを誘惑する任務が恋に変わる。ジェリコに近づいたのも任務。
これが映画『エニグマ』のミステリの真相だと思うのですが、どんなもんでしょう。
冒頭で、犬が森に埋められた死体を発見し、中盤でドイツ軍が森に埋められた大量の死体を発掘するシーンがあります。カティンの森事件ということは分かったのですが、こういうふうにつながってくるとは思いもよりませんでした。原作(ロバート・ハリス著の『暗号機エニグマへの挑戦』)を読んでいないので何とも言えませんが、英国の情報機関にポーランド人を配し、暗号解読と『カティンの森事件』をからめてスパイものに仕上げ、事件の影に美女ですから、上手いなと思います。
ケイト・ウィンスレットですが、丸いメガネの小太りのオネーチャンですから、最初分かりませんでした。暗号を解いたり書類を盗み出したりのなかなか活躍で、最後はジェリコと結ばれますが、もうひとつピンときません。ヒロインはやはりクレアのサフロン・バロウズでしょう。
個の映画の制作に、ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが名前を連ねています。映画にも出演(クレジット無し)しているらしいので探してみました。↓ これです、右から二人目。ジェリコがクレアと知り合って踊りに行きます。そのダンスホールの客として、チラと顔を出しています。
ミック・ジャガー(右から二人目) ケイト・ウィンスレット
監督:マイケル・アプテッド
制作:ミック・ジャガー
出演:ダグレイ・スコット ケイト・ウィンスレット サフロン・バロウズ ジェレミー・ノーサム ミック・ジャガー