私にとって、西郷隆盛はなかなかイメージし難いキャラクターです。「翔ぶが如く」などを読むと、川路利良や桐野利秋は(それが誤解であるにしろ)何となく分かったような気になり、内務省を作って辣腕を振るった稀代のリアリスト大久保利通も何とかイメージできます。ところが、西郷隆盛だけは茫洋として捉えどころがありません。司馬遼さんも、手こずったのではないかと思うのですが。

 薩摩人の海音寺潮五郎が郷土の英雄を書けば、私の様な下手な読み手にも西郷隆盛がイメージできるのではないかと、今度は「史伝 西郷隆盛」(絶版)を読んでみました。以前同じ著者の「西郷と大久保」も読んでみたのですが、月照と入水自殺した1858年から物語の幕が開き、薩長同盟、大政奉還、戊辰戦争など西郷が歴史の表舞台に登場した4年間は全く触れられず、征韓論に跳んで西郷下野で終わっていました。
 「史伝 西郷隆盛」は、「史伝」とあるように小説の形を取らず、肩の凝らないエッセイ風の西郷隆盛・伝です。