生麦事件〈上〉 (新潮文庫)

  • 作者: 吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫


 薩摩藩主(ではないが事実上の藩主)島津久光の大名行列の前を横切っイギリス人を、無礼打ちにした有名な事件のドキュメンタリーです。生麦事件が時代にどう作用し、如何に明治維新を準備したかが、多彩な人物を登場させ克明に描かれています。

 攘夷武士によイギリス公使館討ち入り事件が解決していなのに今回の事件ですから、日本の治安はどうなっているのだとイギリス側が怒るのは当然です。大名行列は、藩の威信を示すものであり、その行列を乱す者は討ち果たしてもよい、という習慣法が日本にはあるのですが、これが幕末の外国人に通じる筈もありません。

 薩摩藩の行動は姑息の一言に尽きます。大急ぎで現場を離れ、京都に逃げ込みます。幕府に追求されると最初は浪人の仕業といい繕い、言い逃れができなくなると架空の藩士をでっち上げます。ついには、薩摩に帰って対イギリス戦争の準備を始めます。この時代、幕府の威光は大藩・薩摩には全く通用しなかった訳です。

 一方の幕府の対応です。