わが祖国―禹博士の運命の種
  • 作者: 角田 房子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/12
  • メディア: 単行本
 角田房子は『閔妃暗殺』『甘粕大尉』を読みましたが、いずれも確かな調査と堅牢な構成、説得力を持ったノンフィクションです。『甘粕大尉』は『死因鑑定書』が発見される3年も前に、大逆事件の全貌を明らかにするというミステリーそこのけのノンフィクションです。

 本書を読むまで、韓国農業の父と呼ばれる禹長春について全く知りませんでした。韓国では教科書によって小学生でも知っている偉人だそうです。

 禹長春は、閔妃暗殺事件の韓国側当事者を父に、日本人の母として1898年(明治31年)に生まれています。早くに父を亡くし(暗殺)母親の手で育てられた禹長春は、大正時代に多感な青春を過ごし、長じては日韓併合と父の国の独立、母の国の敗戦という怒濤の時代を生き、請われて単身韓国に渡り、かの国の農業近代化に尽くして果てます。