映画『武士の家計簿』が面白かったので、原作を読んでみました。原作は小説ではなく、新潮新書です。著者が見つけた古文書から、天保~明治の加賀藩・猪山家の家計を分析し、当時の武家社会の仕組みを解説した歴史の本です。武士の石高が分かっても、それが何に支出されたかが分からなければ、本当の武家社会は見えてこないということのようです。

 まず目を引くのが、「御算用者」という経理役人の話です。江戸時代は身分を世襲する時代ですが、会計役人は算盤と 帳簿をつける能力が必要で、家柄によって世襲出来ない個人の能力によります。身分よりもその武士個人の才能がもの云うわけです。ヨーロッパでも日本でも、経理や地図を読み弾道を計算する軍隊から身分制が崩されてきたと云うのです。

 『武士の家計簿』は、身分制から離陸した、現代のサラリーマンにも似た加賀藩・御算用者、猪山信之、直之、成之三代の物語です。物語といっても「家計簿」から伺える猪山家の内情です。これが意外と生き生きとしています。