原題は”Diplomatie”、外交。「パリよ、永遠に」というロマンティックな中身ではありません。第二次世界大戦中、フランスは1940年~1944年までドイツの支配下にありました。連合軍のノルマンディー上陸によってドイツはフランスから撤退します。撤退に際し、ヒトラーはパリを廃墟にしてしまえという乱暴な命令を下します。所謂「パリは燃えているか?」です。ドイツ軍は、橋や駅、エッフェル塔、凱旋門、オペラ座などに爆薬を仕掛けます。この爆破計画が実行されると数百万人に被害が及び、パリの歴史的建造物は瓦礫と化します。エッフェル塔も凱旋門も残っていますから、この計画は実行されなかったことになります。この映画は、パリ爆破を”Diplomatie”、外交によって如何に回避したかを描いた歴史ドラマです。

 登場人物はスェーデン総領事ノルドリンク(アンドレ・デュソリエ)とドイツ軍パリ市防衛司令官コルティッツ将軍(ニエル・アレストリュプ)の(ほぼ)二人だけ。舞台もコルティッツの執務室であるホテルの一室という舞台劇です。第二次世界大戦で中立を保ったスェーデンの外交官は、この映画のように戦争の裏で和平工作に携わっていたのでしょうか。ノルドリンクはスェーデンの外交官ですがパリ生まれのパリ育ち。故郷パリが廃墟になることに耐えられず、密かにパリ市防衛司令官コルティッツを訪ね、降伏と爆破計画の中止を進言します。スェーデン総領事として正面から訪ねるのではなく、ホテルの隠し扉からコルティッツの部屋を密かに訪れます。この秘密の通路というのが、ナポレオン三世がホテルに囲った女優と密会するために使った通路だと言うのですから、さすがパリ。

 ノルドリンクは、パリを廃墟にした将軍として歴史に汚名を残したいのか?とコルティッツに迫ります。ドイツ軍全てが狂信者ナチというわけではなく(軍による暗殺クーデター計画もあった)、コルティッツはヒトラー崇拝者でもなくパリ爆破に疑問を持っています。ただ、「家族連座法」という法律が制定され、コルティッツが命令を守らないと自身は処刑、類は家族にまで及ぶためパリ爆破をせざるをえません。家族を取るかパリを守った名誉を取るかという究極の選択に迫られます。
 ノルドリンクはコルティッツの家族を秘密裏にスイスに逃がすことを提案します。レジスタンスの降伏案を持って訪れた、しかも知り合って間もないスェーデンの外交官は信頼に値するのか、また軍人としての矜持はと、コルティッツの心は揺れ動きます。この辺りのノルドリンクとコルティッツの駆け引きが見処のひとつです。
 ノルドリンクの説得が効を奏しコルティッツが決断し、パリは燃えなかったわけです。

 ノルドリンク演じるアンドレ・デュソリエは、私にとっては『クリクリのいた夏』のアメデです。監督は『ブリキの太鼓』のフォルカー・シュレンドルフ。戦闘場面もない地味な戦争映画ですが、ハリウッドのアクション映画に飽いた人にはお薦めです。

監督:フォルカー・シュレンドルフ
出演:アンドレ・デュソリエ ニエル・アレストリュプ