ここで原作を手に入れたので、読む前に再度DVDを観ました。
ドイツ映画です。NHK・BSの録画で観たので全編これ耳慣れないドイツ語でしたが、いや良かったです。潜水艦映画と云うとクルト・ユルゲンスとロバート・ミッチャムの『眼下の敵』を思い浮かべますが、『Uボート』もこれぞ戦争映画、男の映画です。
ソナーの探査音のインターバルが短くなり、駆逐艦のスクリュー音が次第に近づき、映画と分かっていても観ているこちらまで緊張します。駆逐艦に追われて、制限深度90mのUボートが230mまで潜ります。水圧で船体が悲鳴を上げ艦内のボルトが弾け飛ぶ緊迫感は手に汗を握ります。『Uボート』は潜水艦映画の醍醐味を堪能させてくれます。
『Uボート』は徹底したリアリズムで押し通しています。映像がリアルかというと決してそうではありません。むしろ、荒波を蹴たてて進むUボートの姿は昔のTV映画のように作りものめいています(事実模型の撮影だったそうです)。出港時に颯爽としていた艦長以下乗り組み員が戦況の閉塞感や長い航海でやつれ垢じみてゆき、観ている方が臭いを感じてきます。
第二次世界大戦のUボートを扱った映画ですが、ナチの匂いが全くしません。常に髭をそり制服をビシッと着こなす先任将校が唯一ナチ臭いですが、艦長他からヒトラーユーゲントの『坊や』の如き扱いで軽くいなされ、艦内で堂々とイギリスの歌が歌われる闊達さです。あからさまな描写はありませんが、戦争そのものに吹っ切れないものを抱きながら、自分たちの置かれた立場、使命を全うしようとする純粋さを描いています。それがそのままラスト悲劇を盛り上げるわけです。そうした意味で『Uボート』は青春映画かもしれません。事実一番年長の艦長さえ30歳?です。時代の大きなうねりに投げ込まれた個々人の善意とひたむきな努力は、戦争の大義のまやかしを剥ぎとります。こうした真摯な兵士が攻撃する側にも攻撃される側にもいることが、戦争の本当の悲劇なのでしょう。Uボートにしろ「特攻」にしろ、敗者の側から描いた映画はやりきれません。
作戦行動を終えたUボートは母港ラ・ロシェルへ戻ることになるのですが、スペインのビゴ経由で ラ・スペツィア(イタリア)へ向かえという命令が入ります。ラ・スペツィアへ行くためには、敵艦隊がひしめくジブラルタル海峡を通過しなければならないわけです。ここは見せ場です。なんと280mまで沈むんですね。wikiで調べるとジブラルタル海峡の水深は286mだそうで、海底まで沈んだんだことのになります。ジブラルタル海峡でなかったらアウトですね。乗組員の必死の修復で見事海底から浮上しますが、感動的です。
映画は1941年のドイツ占領下のフランス軍港ラ・ロシェルから始まり、ラ・スペツィアで終わります。ジブラルタル海峡を無事通過しやっとたどりついた目的地ラ・スペツィアで待っていたものは・・・ネタバレで書けませんが、この結末こそ『Uボート』を優れた戦争映画にしていると、勝手に思いこんでいます。
原作:ロータル=ギュンター・ブーフハイム
監督・脚本:ウォルフガング・ペーターゼ
キャスト:
艦長:ユルゲン・プロホノフ
ヴェルナー少尉:ヘルベルト・グレーネマイヤー
機関長:クラウス・ヴェンネマン
第一当直士官(副長):フーベルトゥス・ベンクシュ
第二当直士官:マルティン・ゼメルロッゲ
一等航海士:ベルント・ダウバー
機関兵曹長ヨハン:アーウィン・レダー