「鬼龍院花子の生涯」の夏目雅子は今ひとつでしたが、「時代屋の女房」の夏目雅子はキラキラと輝いています。何でもかんでも任侠映画に仕立ててしまう五社英雄と森崎東の差でしょうか。
 夏目雅子に見惚れていると見逃してしまいそうですが、暗喩に満ちた実に不思議な映画です。この映画には、それぞれの事情を抱えた何組かの男女が登場します。

 
 
【様々な男女】
 
●安さん(渡瀬恒彦)と真弓(夏目雅子)
⇒映画の軸となる男女です。「鶴の恩返し」か「雪女」の様に、真弓はある日突然現れて古道具屋・時代屋に居着き、主人の安さんと暮らし始めます。真弓がどこから来たのか、どんな過去を持っているのかは全くの謎。これもお伽噺めくわけですが、理由もなく突然いなくなり、数日経って何事もなかった様に戻ってくることを繰り返し、ある日出て行ったきりふっつりと消息を絶ちます。真弓とは何者なのか、どこから来て何処へ行ったのか、一切が謎です。
 映画は、取り残された安さんの真弓探しの物語でもあります。

●安さんと美郷(夏目雅子)
⇒結婚のため故郷に帰る前の晩、押しかけるようにして安さんと結ばれます。翌朝美郷は、自分の乗った故郷に帰る電車をホームの端まで追いかけて欲しいと安さんに頼みます。この頼みは切ないですね。美郷は東京での生活に見切りを付けて故郷に帰るわけで、せめて、自分に追いすがる恋人がいるという仮想にひたりたかったわけです。
 この美郷も夏目雅子が演じていますが、美郷と真弓は表裏一体ということでしょう。
 
 真弓                        美郷