原題はaway from herですから、「彼女から遠く離れて」となり、「君を想う」という文言がくっつくと、これはもうラブストーリーということになります。ところが最後まで見ると、これはラブストーリーどころか、辛口のドラマだということが分かります。何も、アルツハイマーが背景になっているということだけではありません。
 原作は、先日ノーベル文学賞に輝いたアリス・マンロー、監督が、『死ぬまでにしたい10のこと』『あなたになら言える秘密のこと』のサラ・ポーリー。

 元大学教師グラント(ゴードン・ピンセント)とフィオーナ(ジュリー・クリスティ)夫婦の物語です。結婚して44年、カナダの田舎に隠棲して暮らすふたりに、突然老いが襲いかかります。フィオーナがアルツハイマーを発症したのです。家に帰れなくなったり、ワインの名前を忘れたり、自分が消えてゆくようだというフィオーナの言葉は、身につまされます。アルツハイマーは、最近の記憶は消えてゆきますが昔の記憶は残っているようで、ふたりの過去が徐々に明らかにされます。グラントは大学教師の頃、教え子との浮気騒動をお越し、再出発のために20年前にこの田舎に引っ越してきたようです。フィオーナは、グラントが女子大生と手当たり次第に付き合い、それでも私を棄てなかったと言います。グラントの身勝手を非難するでもなく、妻を棄てなかった彼を褒めるでもなく、この言葉は、通奏低音としてストーリーの最期まで奏でられます。