『満州国演義』第7巻を読んだのが2012年7月ですから、1年半振りに第8巻が出ました。

【敷島四兄弟】
 『満州国演義』は、満州国の高級外務官僚である長男・太郎、元馬賊の二男・次郎、関東軍憲兵隊の三男・三郎、満映(満洲映画協会)の四男・四郎の敷島4兄弟を主人公とする、昭和初期から太平洋戦に至る「昭和クロニクル」です。官僚である太郎が政治を、憲兵である三郎が軍事を、民間人である次郎と四郎が「五族協和」の諸相を担当するという構成で、「昭和」を俯瞰しようというのが作家の意図です。

 元馬賊という自由人の次郎は満洲から上海に流れ、陸軍が「南方作戦」のために作った諜報機関に属し、ビルマ独立運動に関わり、第8巻では「インパール作戦」に参加します。三男は憲兵隊を離れ、いずれ起こる対ソ戦のために後方撹乱の特殊部隊に転属となります。この次男三男が動とすれば、長男は満州国政庁の奥の院で紅茶を啜り煙草をふかして破滅に向かう日本帝国をシニカルに眺める静です。四郎は満映にいるのですから、満洲の夜の帝王・甘粕正彦からみで活躍するのか思ったのですが、諜報戦の軍属となります。
 視点として欠けているのが「満鉄」だと思います。四郎あたりを「満鉄調査部」に潜り込ませれば面白かったと思うのですが。