「源氏」つながりです。『源氏物語』には、「桐壷」と「箒木」の間には「輝く日の宮」という欠落した帖があるという説があります。この帖には、源氏が藤壺、六条御息所と初めて関係を持ち、朝顔との馴れ初めが描かれていると言われています。この失われた帖の謎に、文芸評論家で小説家の丸谷才一が挑んだ小説です。

 冒頭からコケます。

紺のジーパンに黄色いセーター、白いスニーカーの十五の娘は、右手に華奢なバッグを下げて黄昏の間近い街へ、千鳥ケ淵の染井吉野の花びらが微風に舞ひ、風に運ばれた揚句、天からしきりに零れつゞける路へと歩み入る。