中学生と小学生の兄弟が引き起こすちょっとした「事件」を軸に、主婦達の井戸端会議、兄弟の若い叔母と彼等が英語を習いに行っている青年の淡い触れ合いが描かれます。小津安二郎の世界には違いないでしょうが、『東京物語』とは少し毛並みの違った”ホームドラマ”です。

 父親(笠智衆)と母親(三宅邦子)に叱られ、実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)は全く口を利かないという反抗に打って出ます。英語を習いに行くと偽って、近所にTVを見に行っていたことが原因で叱られたのです。実と勇は、家にTVが無いから見に行くんだTVを買ってくれ、と駄々をコネ、男は無駄口を叩くなと父親は怒り出します。言葉を荒らげる笠智衆も珍しい。じゃぁ口を利かない!と実は家でも学校でも一言も口をきかない反乱に出ます。兄に引きづられて幼い弟の勇までダンマリを決め込む始末、なかなかカワイイです。
 TVが未だ珍しい当時、人気のあった相撲中継を近所で見せてもらうわけです。TV、洗濯機、冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれた1950年代末の話で、団塊の世代には懐かしい話かもしれません。洗濯機を近所が買ったことが、自治会費未納事件とからんで近所の奥さん連中の話題となり、この時代を物語っています。
 彼らが住むのは、大きな川の土手の下、同じ形、同じ間取りの住宅で、玄関のガラス戸を開ければすぐ隣、玄関越しに近所の噂をネタに井戸端会議が始まるという濃密な共同体が形成されています。この息苦しさに嫌気が差し、若い夫婦は引っ越しますが、引っ越し荷物のなかに「ナショナル」の炊飯器があったりで、日本が高度成長へ向かう前夜ですね。

 1959年には現在の天皇と皇后の結婚式があり、このパレードが放映されることでTV(モノクロ)は一気に普及します。赤提灯で、酔客がTVによる「一億白痴化(大宅壮一)」を話題にしています。兄弟の反乱が成功したわけでもないのですがこの家にもTVが入り、それがキッカケで勇と実は口を利くようになり、昭和34年の物語は幕を閉じます。

 面白いかというと、それはゆったり流れる映画の時間をどう捉えるかによります。現在のドラマのテンポに慣れた我々にはとても見みていられませんが、実と勇の世代には懐かしい風景であり、面白いかもしれません。 

監督:小津安二郎
出演:設楽幸嗣 島津雅彦 三宅邦子 笠智衆 佐田啓二 久我美子