”The Spy Who Came in from the Cold”、原作はジョン・ル・カレの『 寒い国から帰ってきたスパイ 』。ベルリンの壁が存在した冷戦時代、英国情報部のスパイを描くサスペンス映画です。ル・カレの描くスパイは、007とは異なり政治に翻弄される普通の人間として描かれます。主人公のつぶやきです、

スパイを何だと?。だだ下品でみじめな人間だ。俺のような酔いどれや恐妻家が自警団気取りで働いているだけさ。正しき修道士だとでも思ったのか?。

 東ドイツ情報部の二重スパイが西側への亡命に失敗し、イギリス情報部が東ドイツで運用するスパイ網が崩壊します。ベルリンの責任者リーマス(リチャード・バートン)はロンドンに呼び戻され、銀行課に降格となり情報部も辞めてアルコールで身を持ち崩します。
 リーマスはハローワークの紹介で「心霊研究図書館」という怪しい図書館に助手として勤めだします。スパイのあわれな末路です。この図書館でリーマスは英共産党の党員ナン(クレア・ブルーム)と出会い恋に落ちます。007であれば高級レストランでマティーニなんでしょうが、ふたりの逢瀬はナンのアパートで手料理と安物のスコッチ。リーマスは、食料品がツケで買えなかったことに腹を立て、店主を殴り刑務所送りとなります。

 リーマスの出所を待っていたのは、ナンともうひとり、出所者をサポートする慈善団体の男。男は、リーマスにドイツの政治経済を分析する仕事を持ちかけます。身を持ち崩した元スパイをリクルートする東側の諜報員だったわけです。このリクルートを待ってリーマスが向かった先で待ち受けていたのは、イギリス情報部の管理官(007の”M”)とル・カレの小説でお馴染みのスマイリー。リーマスの降格と退職、その後の落ちぶれた生活はすべて東側の諜報員を釣る作戦だったというわけです。
 リーマスは、ベルリンの諜報網を破壊した東ドイツ情報部の高官を失脚させる作戦に従事することになり、「寒い国」東ドイツへと向かいます。面白いのでネタバレ無しです。
 
 リチャード・バートンとクレア・ブルーム   ベルリンの壁
 ベルリンの壁、東西冷戦を背景に、仕掛け、仕掛けられ、誰が敵で誰が味方なのか分からないスパイの世界が描かれます。『007』や『ジェイソン・ボーン』のように、ハイテク機器も派手なアクションもありません。無いからこそそこには人間のドラマがあるわけで、出色の「エスピオナージ」です。ちなみに『ドクター・ノオ(007は殺しの番号)』の公開は1962年。
 NHK/BSで見たのですが、未だDVDになっていないようです。思わぬ拾いものでした。同じジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の映画化『裏切りのサーカス』もお薦めです。

監督:マーティン・リット
出演:リチャード・バートン クレア・ブルーム