宮尾登美子の『寒椿』を原作とした東映映画です。原作の方は「」に始まる宮尾登美子の「女衒・岩伍」シリーズのバリエーションで、四人の芸妓の物語ですが、宮尾登美子、東映とくれば「岩伍」となり、原作を換骨奪胎した東映任侠映画となります。宮尾作品の映画化は、鬼龍院花子の生涯(1982)、陽暉楼(1983)、序の舞(1984)、櫂(1985)、夜汽車(1987)、寒椿(1992)、藏(1995)と7本全部が東映。序の舞、藏以外は所謂ヤクザ映画です。東映は、下火となった『日本侠客伝』、『昭和残侠伝』、『緋牡丹博徒』の各シリーズの代わりに、宮尾登美子を原作とする「文芸任侠映画」?を作るようになったんでしょう。



 宮尾登美子の原作が任侠映画の原作となる理由は、宮尾が作り出した土佐の女衒「岩伍」のキャラクターでしょう。岩伍は、『櫂』以下の土佐ものに登場しますが、どちらかというと脇役。『岩伍覚え書』でその強烈な個性が明らかになりました。置屋に芸妓を紹介する「芸妓紹介業」、ひらたく言えば「人買い」、女衒。度胸と男気で世間の裏街道を生きる稼業です。



 この岩伍を『陽暉楼』で緒形拳が見事に演じました。今回は西田敏行。太目で憎めないキャラクターの西田でどうなんだろうと思いましたが、さすがです。



 映画は原作の換骨奪胎。女衒・岩伍の任侠映画ですが、『櫂』を引きずり、女衒商売に馴染めず家出した岩伍の妻・喜和、息子・健太郎が登場し、ストーリーに陰影を添えます。



 博打の借金で首が廻らなくなった男が、岩伍のもとに娘(南野陽子)を売りに来ます。娘は、高知で第1号となったバスの元女車掌。後に普通選挙法の施行の話が出てきますから時代は昭和3年頃。岩伍の紹介で、源氏名・牡丹として「陽暉楼」から芸妓に出、たちまち売れっ子となります。この牡丹をめぐる男たちの物語です。



 牡丹を争う地元、土佐銀行の頭取・中岡と南海銀行の御曹司。これに土佐銀行に寄生する新興暴力団の田村(萩原流行)、牡丹に片想いの田村の子分・仁王山(高嶋政弘)が絡み、折から施行された普通選挙で中岡と御曹司が立候補し、地方経済に政治と暴力と色が絡むドロ沼の状況となります。岩伍はドスを引っ提げこの泥沼に溺れかけた牡丹を助けます。この世の理不尽を長ドスで解決する、東映任侠映画の伝統です。



 東映任侠映画には違いないのですが、鬼龍院花子の生涯、陽暉楼に比べると良くできています。



監督:降旗康男

出演:西田敏行 南野陽子 高嶋政宏 萩原流行