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ドゥニ・ヴィルヌーヴ(5) ブレードランナー2049(2017米) [日記(2018)]

ブレードランナー 2049 [AmazonDVDコレクション] これも以前書いた記事の全面改稿です。
 『ブレードランナー2049』は続編ですから、前作『ブレードランナー』(監督:リドリー・スコット)の終わったところから物語を立ち上げる必要があります。ドゥニ・ヴィルヌーヴは、リック・デッカード(ハリソン・フォード)とアンドロイドのレイチェルの関係、ロイ・バッティなど人間に反逆するレプリカントを発展させて新しい物語を作りました。つまり、1)レイチェルがデッカードの子供を産むこと、2)単発的だったレプリカント反逆を組織化することで(そこまでは描かれていませんが)『ブレードランナー』を発展させます。

 改良型レプリカントのブレードランナー”K”は「解任」に赴いた先で人骨の入ったトランクを発見します。人骨は子供を出産して死んだ女性のもので、シリアルナンバーが刻まれています。レプリカントが子供を産んだわけです。レプリカントが生殖する、これが『2049』のストーリーの根幹です。シリアルナンバーからこの人骨はレイチェルであり子供の父親はデッガードであることによって、1982年版『ブレードランナー』に繋がるという仕組みです。

 ロス警察は、レプリカントが繁殖するという事実は社会秩序に混乱を招くと考え、Kにレイチェルから生まれた子供の「解任」=抹殺を命じます。Kは、全く同じDNAを持つ男女の子供の存在を突き止め、人骨の入ったトランクが埋められていた木の根本に、子供の誕生日と考えられる”6.10.21”の文字を発見します。Kが幼い頃持っていた ”木彫りの馬” にも同じ日付があった記憶により、自分はこの子供、レイチェルの産んだ子供だったのではないかと疑い始めます。つまりKは、ウォレス社によって製造されたアンドロイドではなく、レイチェルから生まれたアンドロイドなのか?。Kは、生まれたものには「魂」があると子供の始末に躊躇します。自分が「生まれた存在」であれば、魂を持った存在として人間と同じではないか。アンドロイドの生殖は、人間とアンドロイドを分かつものは何なのか?、人間とは如何なる存在なのか?を問うことになり、これが『2049』のテーマです。

 もうひとつが、ホログラムのジョイ(アナ・デ・アルマス)という女性の存在です。ジョイは、ウォレス社のAI搭載のホームオートメーションシステム(wikipedia)で、Kのヴァーチャルな恋人のような存在です。ジョイもウォレス社の製品であり、ウォレス社のアンドロイドがウォレス社のヴァーチャルリアリティに恋をするという不思議な世界です。室内でしか存在出来ないジョイに、Kはポータブル端末をプレゼントし外に連れ出します。初めての外界で、ジョイは手のひらで雨を受けます。無機質な酸性雨が春雨?に変わり、なんとも幻想的なシーンです。人間が作り出した負の産物である酸性雨が、ジョイによって詩的なイメージへと変質し、Kが手のひらで雪を受け止めるラストシーンに繋がります。またKに恋するジョイは、娼婦と同期することによって身体を獲得しKと結ばれます。人間が忘れてしまった詩的イマジネーションや恋が、アンドロイドやAIに色濃く存在するという逆説です。

 『ブレードランナー』は、異星の植民地で過酷な労働に従事する6人のレプリカントが、自由と尊厳を求めて反乱を起こして地球に逃亡し、デッカードが「解任」する話でした。『2049』でも、レプリカントの反乱は引き継がれています。レイチェルの出産に立ち会ったレプリカントの女性は語ります。

⁠あの子の誕生は、我々が奴隷以上の存在である証 我々の仲間からの誕生は、支配からの開放を意味する 革命の時が来る 軍隊を組織している 仲間を開放したい 大義のための死は何よりも人間らしい ”彼女”が我々の軍を率いる
、と。

 人間の支配からの開放を目指すレプリカントは”革命”を準備し、”奇跡”によって誕生したアンドロイドの子供が革命軍を率いるというのです。これは、処女受胎によって生まれ、被抑圧民族ユダヤの民の救済を目指した「ナザレのイエス」の暗喩です。これで『2049』の続編は大体想像がつきます。ならば、彼女はマタイなのか、マルコなのか、はたまたイスカリオテのユダなのか?、革命軍を率いる”彼女”は、十字架にかけられるのか?。ジャンヌ・ダルク、フランス革命で民衆を導く自由の女神(ドラクロア)かも知れません。

 レイチェルの産んだ子供は女の子ですから、”K"はレイチェル子供ではなく製造されたアンドロイドと言うことになります。Kは、アンドロイドの記憶を作るステリン博士を訪ね、幼い頃の”木彫り馬”の記憶は作られたものではなくKの実体験であることを確認しています。後にデッカードによって明かされますが、Kは”女の子”を隠すために作られたクローンです。『2049』 の面白さは、アンドロイドが子供を産む奇跡とその子供がアンドロイドを開放する革命の指導者となる物語が、その子供のクローン=偽物の視点で描かれた物語だということです。前作『メッセージ』以上に深遠な物語です。続編が本編より面白い映画は滅多にありませんが、この映画だけは感心しました。続編が待たれます。

監督 :ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス

【ドゥニ・ヴィルヌーヴ】
2009 静かなる叫び
2010 灼熱の魂
2013 プリズナーズ、複製された男
2015 ボーダーライン
2016 メッセージ
2017 ブレードランナー 2049・・・このページ
2021 DUNE/デューン 砂の惑星
2024 砂の惑星part2

タグ:映画
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