ドゥニ・ヴィルヌーヴ(2) DUNE/デューン 砂の惑星（2021米）

　原題、Dune。ドゥニ・ヴィルヌーヴのSFには『メッセージ』『ブレードランナー2049』があります。フランク・ハーバートの大河小説『デューン砂の惑星』（1965）を原作とするSFで、宇宙船や惑星間航行が出てきますがSFというよりファンタジー、「砂の惑星」サーガです。皇帝が統べる宇宙帝国で、専制に反乱を起こす惑星国家の物語です。

　冒頭、「夢は深淵からのメッセージだ」というナレーションが入り、主人公のポール（ティモシー・シャラメ）の夢や幻覚が何度も挿入されます。その夢に現れる少女チャニ（センデイヤ）は終盤に登場しますから、ポール夢はpart2で解明されるのでしょう。

　惑星アラキス（デューン）では、寿命を延ばし惑星間航行には欠かせない物質スパイス（メランジ）が採れること、アラキスを統治するハルコンネン家はスパイスを採るために原住民フレメン族を抑圧し戦いがあったことがチャニによって語られます。スパイスは皇帝の命により、ハルコンネン家に代わってアトレイデス家がアラキスの新たな領主となります。アトレイデス家の当主レト公爵（オスカー・アイザック）はポールに言います。アラキスは政治的に危険な所だ、諸大領家はアトレイデス家に期待し皇帝は脅威を感じている。ハルコンネン家からアラキスを奪い両家を戦わせればどちらも勢力を失う。だがアラキスの真の力が手には入れば当家は最強となる、アラキスの先住民フレメンと手を組めば…と。これが『DUNE/デューン 砂の惑星』の背景です。

　皇帝の「読真師」で「ベネ・ゲセリット」（教団？）の教母がレト公爵の愛妾でポールの母親ジェシカ（レベッカ・ファーガソン）のもとを訪れます。ポールの能力を試し、

ジェシカはポールに修行をさせ、男の救世主「クウィサッツ・ハデラック」を作ろうとした。ポールが本物でも覚醒前に炎に飛び込もうとしている。我らの野望は壮大、あの子がダメでも次に望みをつなぐ。アラキスでの下準備はした。

と教母はジェシカに告げます。ポールが救世主となってフレメンを糾合し帝国に反旗を翻す、これが冒頭20分ほどで語られる『Dune』のアウトラインです。

　皇帝の目論見通りハルコネン家はアラキスに攻め入ります。レト公爵は殺され、ポールとジェシカは辛くも脱出してフレメン族の少女チャニと出会うわけです。ポールはチャニと結ばれ、被抑圧民族フレメンの救世主となって…というよくあるある物語です（たぶん）。よくあるある物語ですが、フレメン族の住む地は昼間は気温が50℃にもなる砂漠。人は「保水スーツ」無しでは生きられず、「砂虫」の徘徊する不毛の地。灼熱の砂漠でのサバイバルあり、砂嵐あり、砂虫の襲来あり、と見せ場満載です。そこで貴重な物質スパイスが採れるわけで、『Dune』はスパイス争奪の物語だとも言えます。

　

　宇宙船や翅を羽ばたかせて飛ぶ乗り物（オーニソプター）は登場しますが、コンピューターもロボットも登場しません。1万年未来のSFですが、戦いは主に剣を使い、保水服という人体からの水分を回収するスーツは登場しますが、フレメン族は中東の砂漠の民の様な民族服を着ています。『アラビアのロレンス』です。ポールの母親ジェシカはハルコンネンに捕まった際には敵兵を声でコントロールして逃れるという超能力の持ち主です。実は魔女？。

　スペースオペラと言ってしまえばそれまでですが、この映画は、1万年未来の宇宙と不毛の砂漠を舞台にした王国の興亡史、叙事詩です。叙事詩ですから、Scienceを極力排除してFictionを中世風に味付けしたところが魅力です。ドゥニ・ヴィルヌーヴの映画は『灼熱の魂』『複製された男』『メッセージ』などヒネったものが多いですが、『Dune』は純粋にエンターテイメントです。Part2が2024年4月に公開されます。「読真師」「ベネ・ゲセリット」「クウィサッツ・ハデラック」等Part1の謎が解かれるのでしょう。

　この映画を観るとジブリの『ナウシカ』を連想します。砂漠は「腐海」、砂虫は「王蟲（オーム）」、帝国は「トルメキア」に相当し、地下に砂漠緑化の環境試験所がある辺りも似ています。『ナウシカ』は小説『デューン砂の惑星』の影響を受けているのかも知れません。そう言えば、翅を羽ばたかせて飛ぶビーグルは、『ラピュタ』に登場しています。

監督：ドゥニ・ヴィルヌーヴ

出演：ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン

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