原題”Des Gens Sans Importance”、「重要でない人々」が何故「ヘッドライト」になるかというと、主人公がトラック運転手だからです。原題の方が映画の雰囲気をよく伝えています。監督は『地下室のメロディー』『ダンケルク』のアンリ・ヴェルヌイユ、主演は『望郷』『大いなる幻影』のジャン・ギャバン。この顔ぶれでモノクロとくれば渋いという他はない映画です。


 パリ、ボルドー間500kmを往復するトラック運転手のラブストーリーです。ジャン・ギャバンはどちらかと言うと強面のギャングのイメージがありますが、四十歳超えてラブストーリー?。

 ジャン(ジャン・ギャバン)は、トラック運転手の溜まり場のカフェに立ち寄り、1時間半眠らせてくれと部屋に上がります。『バグダッド・カフェ』のようなところです。ジャンはベッドに横になり、2年前のクリスマスイヴに思いを馳せます。
 
 ジャンはボルドーに近いこのカフェで、ウェイトレスのクロチルド(通称”クロ”、フランソワーズ・アルヌール)と出会います。ジャンはパリの線路際のボロアパートに住み、17歳の娘を頭に3人の子持ち。仕事がら家を留守にしがちで、たまに帰れば妻、娘と喧嘩が絶えず安息の場が無いという存在。クロもまた、母親と継父のいる実家には居づらく田舎のカフェでウェイトレスをしているという境遇。タイトル通りの”Des Gens Sans Importance”。ふとしたはずみで父娘ほど歳の離れたジャンとクロが恋愛関係になります。父親のいないクロはジャンに父性を求め、妻との折り合いのジャンは、若いクロに青春の幻影を見たのかも知れません。ジャンとクロの行く末は、モノクロームの映像の如く”noir”。この映画にカラーは似合いません。似合うのは、青空ではなく夜と霧と雨。

 二人の逢瀬は、ジャンがカフェに立ち寄る束の間。時間が無ければ短い言葉を交わすだけ。おまけにパリとボルドーの遠距離不倫。ボルドー往復の度にカフェに立ち寄ることが会社に知れ、ジャンは路線変更を命じられ会社を辞めます。待てどもジャンはカフェに現れず、クロは妊娠を告げる手紙を書き、返事がないためパリに行きホテルの掃除婦として働き出します。クロとの仲、クロが妊娠していることが妻と娘に知れジャンは家を出ます。失業し不倫がバレて家出、愛人は妊娠という八方塞がりの中で、クロは子供を中絶します。

 ジャンは牛を運ぶ仕事に就き、クロとの新しい生活を始めるために彼女をトラックに乗せてボルドーへ向かいます。中絶手術で体調を崩したクロは、500kmのトラックの旅に耐えられず、夜の雨と霧の中くしくもジャンと出会ったカフェで命を落とします。

 1時間半が過ぎて、ジャンは2年前のクリスマスイヴから始まった恋の回想から現実に立ち帰ります。中年のトラック運転手とウェイトレスの恋と死、エミール・ゾラの国の映画です。

監督: アンリ・ヴェルヌイユ
出演:ジャン・ギャバン フランソワーズ・アルヌール