どこの組織にもいるタイプで、思わずニヤリトさせられますが、クイーグ艦長の場合少し度が過ぎています。夜中の1時に全士官を集めて、苺アイスクリームの盗み食いの犯人探しをするに及んでは、異常としか言いようがありません。“シャツ”で怒りを爆発させ、全員が俺をバカにしているとかやりあっている間に操艦に失敗し曳航索を切ってしまいます。これも非を認めずロープのせいにします。上陸用舟艇の護送任務では、砲撃を受けると黄色いペンキを流して(救難信号?)早々と退却してしまい、部下の信頼を失います。そんな艦長を、キーファー大尉(フレッド・マクマレイ)はパラノイアの精神病だと決めつけ、非常時には艦長の権限を停止してケイン号を率いることを副長のマリク大尉(ヴァン・ジョンソン)に助言しています。
というとんでもない艦長に率いられたケイン号が台風に遭遇し、沈没寸前となります。命令通りの航路を変更しようとしない艦長と、沈没を避けるため進路を変更しようとする副長の意見が対立し、副長は艦長が精神を病んでいるとし、その権限を剥奪します。副長は進路を変更し、ケイン号は沈没を免れます。つまり、キーファー大尉の言う非常時で、副長のマリク大尉は法○条によって艦長を馘首にしたわけです。
ところが、この行為が叛乱罪にあたるとマリク大尉は軍事法廷に引っ張りだされます。面白いのはここからです。艦長クイーグ中佐は本当に精神を病んでいたのか?という点が論点となります。
この艦長をハンフリー・ボガートが演じています。ハンフリー・ボガートというと、斜めに構えたハードボイルドなヒーローというイメージですが、演技派だったとは知りませんでした。振幅の激しいクイーグ中佐を見事に演じています。この演技で、観客は全員艦長の精神障害を認めますが精神鑑定の結果は正常。ではマリク大尉は反乱罪に問われるのか。
弁護人グリーンウォルド大尉(ホセ・フェラー)が登場し、クイーグ中佐にケイン号での出来事を回想させながら、次第に追い詰めて行きます。シャツ事件、鉄兜事件、ワイヤー切断事件、黄色のペイント事件、苺アイスクリーム事件、最初は冷静であったクイーグ中佐が、次第に自分を失ってゆくハンフリー・ボガートの演技は、この映画の一番の見どころです。法廷はクイーグ中佐の病気を認めるかの予兆で閉廷が告げられます。
シーンは一転、マリク大尉の無実を祝うパーティー。そこへ酔ったグリーンウォルド大尉が現れ、キーファー大尉に酒をぶっかけます。グイーグ中佐をパラノイアだと決めつけ、マリク大尉に法律を教え今回の事件の大元を作った張本人にだと言うのです。グリーンウォルド大尉は、海軍にあってはいけない艦長の精神病を暴き、立派な先輩を退役?に追い込むという役割を担ってしまい、同じ海軍の将校?として忸怩たる思いにかられたわけです。怒りの持って行き場がなくキーファー大尉に酒をぶっかけたわけです。
映画では、軍事法廷の判決はぼかされています。マリク大尉は無罪となっていますから、判決は2つ考えられます。
1)艦長は病気であり、マリク大尉の行為は正当な行為であり叛乱罪には当たらない。
2)艦長は嵐の中で操艦するという重圧で一時的に心神喪失に陥り、マリク大尉は艦長を補佐したのである。
海軍のプライドと伝統が許さない1)はありえません。艦長を精神病と認めずにマリク大尉を無罪放免とするには、2)しかないと思うのですが、如何なものでしょう。
事件が終わって、キース少尉は転属となります。ところが、配属された先の艦長が、気の合わなかったケイン号の前艦長というオチがつきます。サラリーマンならよくある話しで、ニヤリとさせられます。
ハンフリー・ボガートの汚れ役というのが見どころです。只、撮影に協力してもらった海軍に気を使ってか、歯切れが悪いです。
久々に「造反有理」という言葉を思い出しました。艦長に叛乱を起こす副長の物語に『クリムゾン・タイド』があります。核攻撃の命令をめぐるの艦長ジーン・ハックマンと副長デンゼル・ワシントンの息詰まる駆け引きが見どころです。こちらの方もお薦めです。
監督:エドワード・ドミトリク
出演:ハンフリー・ボガート ホセ・フェラー ヴァン・ジョンソン フレッド・マクマレイ