テロリストによる修道士殺害事件ですから、神の存在、神の沈黙を鋭く問う映画かとおもったのですが、違いました。期待とは違ったのですが、これはこれで面白いです。1996年に元仏領アルジェリアで起きた実話だそうです。フランスではヒットしたようですが、ヒットするのが不思議なほどたいへん地味な映画です。

 アルジェリアの辺鄙な村の修道院に暮らす8人(実際は9人)のフランス人修道士の物語です。修道院は、医療奉仕や細々とした相談に乗ったりで村人と深く結びついています。村の娘が、恋をするとはどういうことなんだと老修道士に聞いたりしています。修道院が村人の宗教上の拠り所になっているかというと、そんなことはなく村人はイスラム教を信仰しています。キリスト教というと、信者を集めた日曜礼拝などの布教活動を連想しますが、そうしたシーンは一切ありません。修道院は、8人の修道士が修行のために暮らす自給自足の僧坊のようなもので、共同体、コミュニティーです。
 畑を耕して作物を植え、採れた蜂蜜をバザーで売るなど、修道士による祈りと労働の日々が美しい映像で描かれます。ことに素晴らしいのは、修道士により朗々と詠われる詠唱です。祈りと声楽が一体となったこの詠唱は、宗教映画の最高のBGMです。
 余談ですが、修道院を舞台に詠唱にのせて連続殺人事件が起こる映画が、名作『薔薇の名前』です。