【サラの物語】
アパートから追い立てられる時、サラはとっさの判断で弟を納戸に隠し外から鍵を掛けます。タイトルの『サラの鍵』の謂れです。サラたちは屋内競輪場に集められそこから収容所に送られますが、アパートに残してきた弟が気になって仕方がありません。ここから、サラの弟救出劇が始まります。
サラは収容状を脱走しパリに向かう途中、デュフォール(ニエル・アレストリュプ)という老人夫妻に助けられ匿われます。デュフォールは、脱走したユダヤの少女だと知ってサラを追っ払いますが、同じく脱走した少女が病気になり、老人の犬とともに納屋で寝ている姿を見て同情心が湧くわけです。サラたちを救ったのは、この犬かも知れません(犬好きにはちょっと胸に滲みます)。
病気の少女は亡くなり、ユダヤ人隠匿はナチの知るところとなりますが、老夫婦はサラを守り通します。
サラとデュフォール夫婦は、納戸に閉じ込めた弟を救出するためパリに向かいます。サラがアパートを出てから何日、何週間が経過しているのか明らかにされませんが、弟は餓死しているものと思われます。サラの渡した一瓶の水であるいは生き延びているかも知れません。生きていて欲しいと願うサラに感情移入し、果たして生きているのか?という‘suspense’が観客を引っ張ってゆきます。
サラのアパートの部屋には新たにフランス人が入居しています。新しい住人と老夫婦の前でサラが納戸の鍵を開けると、そこには変わり果てた弟の姿が現れます。
【ジュリアの物語】
ジュリアはサラのその後を追跡するわけですが、同時にもうひとつのサイドストーリーが展開します。ジュリアは45歳で二人目の子供を妊りますが、夫はこの妊娠を喜ばず、ジュリアに中絶を言い渡します。「いのち」の話しです。ホロコーストも中絶も命を「摘む」ということにおいては同じ意味を持ちます。ユダヤ人絶滅収容所で命を摘まれた子供たちのように、ジュリアに芽生えた命もまた摘み取られるのか、です。
サラと弟について新たな事実が、それも夫の父親からもたらされます。サラとデュフォール夫婦が弟の遺体を発見した現場にいたフランス人とは、この義父とその父親だったのです。この偶然が、さらにジュリアの探索を後押しします。
ジュリアは、サラを追跡するうちにデュフォール夫婦に行き当たります。デュフォール老人の孫を探し当て、サラは、デュフォール夫婦に引き取られますが、ある日突然に失踪した事実を知ります。その後一度だけ結婚を知らせる手紙がNYのブルックリン?から来たことで、サラ追跡の舞台はNYに移ります。
デュフォール夫婦のもとから失踪したサラはNYに渡り、アメリカ人と結婚しますが、ひとり息子を残して交通事故で亡くなっていたことが判明します。サラ追跡の中で、ジュリアは子供を生むことを決意したようです。
ジュリアの旅は、サラのひとり息子の住むイタリアへと続きます。サラの息子ウィリアム(エイダン・クイン)は、サラがユダヤ人であることに衝撃を受け、ジュリアンの探すサラが母親であることを認めません。サラの半生を知ったウィリアムは、NYの祖父(サラの夫)を訪ね、祖父から母親の遺品を受け取り、サラの事故が自殺であったことを知らされます。
サラの遺品からは弟を閉じ込めた納戸の「鍵」が発見され、納戸に閉じ込めて死なせてしまった弟を忘れることができず、自責の念で自らいのちを断ったことが明かされます。
ウィリアムはジュリアと再会し、ジュリアの娘の名が「サラ」であることを知ります。この映画で語られるのは、いのちの連環の物語です。
この手の映画には弱いので、文句なくお薦めです。
【この手の映画】
出演:クリスティン・スコット・トーマス メリュジーヌ・マヤンス ニエル・アレストリュプ エイダン・クイン