原題、Murder in the First。
同じようなタイトルに、『告発』と『
告発のとき』『
告発の行方』があります。今回のご紹介は『告発』です。
脱走不可能な監獄と言われた、サンフランシスコ湾に浮かぶアルカトラズの話です。ジョー・ディマジオが連続安打の記録を達成したとかいう会話が出てきますから、1940年頃の話です。
冒頭、ヘンリー・ヤング（ケヴィン・ベーコン）以下数名がアルカトラズ刑務所から脱獄を図り、失敗したニュース映像がモノクロで映され、アル・カポネや“マシンガン”・ケリーなどが収容されていたという、アルカトラズの伝説が語られます。
仲間の裏切りにより、ヘンリーは脱獄に失敗し、副所長の過酷な取り調べを受け、アルカトラズの地下懲罰房に監禁されます。素っ裸で光の差さない独房に、1000日にわたって監禁され、次第に精神の均衡を失ってゆきます。この描写はすさまじいもので、壊れてゆく人間を演じるケヴィン・ベーコンの演技が光ります。
ヘンリーに過酷な懲罰を強いる副所長を演じるのがゲイリー・オールドマン。取り調べ中にカミソリでヘンリーの足を切りつけて跛（びっこ）にしてしまいます。この人に狂気の敵役をやらせれば、天下一品です。最初にお目にかかったのが『レオン』の情緒不安定刑事、次いで『ドラキュラ』伯爵、『JFK』のオズワルド、最近では『赤ずきん』の異端審問官。起用する方も狂気を期待しているんでしょうね、以上余談。
1000日の監禁の後一般房に戻ったヘンリーは、脱走計画を潰した裏切り者を殺し（Murder in the First）、第1級謀殺罪で裁判にかけられます。ここで、ヘンリーを弁護する国選弁護人として、若い弁護士ジェームズ（クリスチャン・スレーター）が登場します。事務所の上司からは、どうせ死刑と決まっているのだからテキトーにやれみたいなことをいわれますが、大学出たばかりで初めて弁護（Murder in the First）ですから、張り切ります。
このジェームズとヘンリーのコンビが、アルカトラズの虐待を「告発」し、アルカトラズを閉鎖に追い込むというのが、この映画のストーリーです。
ジェームズは、弁護士としてアルカトラズで行われている囚人の虐待が許せなかったのです。それ以上に、同世代の囚人ヘンリーに自己投影したのです。ヘンリーもジェームズも幼くして両親を亡くしています。ヘンリーは空腹の妹のために5ドルを盗み、その店が郵便局を兼ねていたために重大犯罪となりアルカトラズに収容され、ジェームズは弁護士の兄に助けられ、ハーバードで学んで弁護士となります。ヘンリーがジェームズに尋ねます、5ドル盗んだことがあるか？、ジェームズは兄の財布から盗んだことを話し、それでどうなった？二度とするなと言われた。同じ5ドルを盗んだひとりはアルカトラズに収容され、もうひとりは弁護士となってアルカトラズの囚人を弁護します。ジェームズの『告発』は、ヘンリへーに対する同情、虐待という不正に対する正義感というより、運命という不可解なものへの怒りかもしれません。
最初は頑なであったヘンリーは、次第にジェームズに心を開くようになります。ある日、ヘンリーはジェームズに恋人はいるかと尋ね、ジェームズの上着を脱がせて、上着に残った女性の残り香を嗅ぎ取ろうとします。ジェームズは、娼婦を速記者に仕立てて刑務所に連れ込み、ヘンリーに抱かせようとします。娼婦の励ましも虚しく、ヘンリーは抱くことができずに泣き出します。この辺りは本当に切ないです。ちなみに、この優しい娼婦を演じた女優さんは、ケヴィン・ベーコンの奥さんだそうです。
ジェームズは、アルカトラズの所長、副所長を法廷に引っ張り出して裁判に勝ち、陪審員はアルカトラズの調査を勧告し、映画は終わります。
ズクリスチャン・スレーターは、『薔薇の名前』でショーン・コネリーの従者を務める少年僧アドソ。ケヴィン・ベーコンは、『ワイルドシングス』の制作と主演をつとめています。居丈高な裁判官は、『フルメタル・ジャケット』で鬼軍曹を演じたリー・アーメイ。検事役は、『ファーゴ』で狂言誘拐を画策する気弱な車のセールスマンを好演したウィリアム・H・メイシー。ゲイリー・オールドマンに劣らずクセのある俳優で脇を固めています。
なかなかの力作で、お薦めです。
監督：マーク・ロッコ
出演：クリスチャン・スレーター ケヴィン・ベーコン ゲイリー・オールドマン ウィリアム・H・メイシー リー・アーメイ