タイトルは『世相』ですが、昭和21年の現在と昭和15年を行ったり来たりしながら、戦中戦後の作者の小説家としての「揺らぎ」を描いています。人はよくも悪くも時代の子ですから、そうした意味で自らを語ることが世相を語ることになるのかもしれません。

【昭和15年】
 昭和15年の夏、バー「ダイス」のマダムから四ツ橋の天文館のプラネタリュウム見物を誘われた話をマクラに、作者が「十銭芸者」の構想を練る話しです。作者はこの年(実際は16年)、『青春の逆説』が発禁となり、

もう当分自分の好きな大阪の庶民の生活や町の風俗は描けなくなったことで気が滅入り、すっかりうらぶれた隙だらけの気持になっている

という状況にあります。