トーキー時代(1928)の作品のリメイクだそうです。
リメイクだけで4度もあり、本作はその4度目。極め付きの浪人者時代劇です。原田芳雄 、 石橋蓮司、 黒木和雄と来れば、『龍馬暗殺(1974)』を思い浮かべますが、社会の底辺に据えた視点、遊女との愛など共通点があります。『浪人街』は、夜鷹を狙って辻斬を重ねる旗本と4人の浪人の物語です。その4人とは、
夜鷹のヒモ。天文学?を学ぶために江戸に出てきたようですが、どう間違ったのか今では夜鷹・お新(樋口可南子)のヒモ。八方破れで剽軽、時おり星座表を眺めたりする変わり者。
来歴職業不詳。言葉に訛りがあるので、東北出身でしうか。何があったのか自ら禄を離れて浪人となったようで、刀の試し切りで食っているようです。居合いの達人。
夜鷹たちの用心棒をやりながら、頭を殴らせて小遣いを稼いでいます。浪速から江戸に流れてきたようで、これも浪速出身の屋台の「二八そば」で食べたうどんに涙を流し、夜鷹たちに読み書きを教えているという気のいい浪人。
上司の罪を背負って浪人となった小倉の武士。暮らしのために小鳥を飼い、妹おぶん(杉田かおる)に針仕事をさせて帰参の日を待っています。
夜鷹辻斬りが旗本の仕業だと勘づいた太兵衛が殺され、同僚の夜鷹と太兵衛の敵討ちを企んだお新は旗本に捕まります。 お新救出のために、荒牧源内、母衣権兵衛、土居孫左衛門の3人が数十人の旗本を相手に大立回りを演じるシーンがこの映画のハイライトです。その強いこと強いこと、まさに千切っては投げ千切っては投げというトーキー時代の時代劇はかくやという剣戟。
母衣権兵衛 の居合いは凄絶の一言。荒牧源内は人格が八方破れならその剣も八方破れで、「酔拳」ならぬ「酔剣」。土居孫左衛門は、先祖伝来の鎧兜に身を固めて途中で奪った馬に乗り戦国の合戦さながら。
ところが最後には決めてくれます。「風蕭蕭として易水寒し、壮士ひとたび去ってまた還らず」と荊軻の詩を呟いて...。この赤牛弥五右衛門の鮮やかな変身ぶりこそがこの映画の魅力なのです。
オリジナルの『浪人街』がどういう映画か分かりませんが、 1990年版『浪人街』には、黒木和雄と脚本の笠原和夫の新しい解釈があるはずです。それが、赤牛弥五右衛門の人物造形なのかどうか。
時代劇ファンにはお薦めです。
出演:原田芳雄 石橋蓮司 勝新太郎 樋口可南子 田中邦衛 杉田かおる