原題、The Best Offer。監督は、『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ。主演が『シャイン』『英国王のスピーチ』のジェフリー・ラッシュ。面白くないわけはないです。
 一流の審美眼を持つ美術品鑑定士で競売人の愛と喪失の物語、サスペンス仕立て、です。

【登場人物】
オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)
 美術品の真贋を見分ける、有名な鑑定人で競売人。画家ビリーと組んで名品を安く落札させ高値で転売し多額の富を手にしている。その富で女性の肖像画を買い集め、自宅の隠し部屋の壁に飾ってひとり楽しむというのが生き甲斐。この「女性の肖像画」のコレクターというのがちょっと病的で女性恐怖症を想像します。美食家、狷介、当然に独身。 

ビリー(ドナルド・サザーランド)
 オールドマンに才能がないと決めつけられる二流の画家。オールドマンの殖財の相棒。オールドマンに(一流の画家になるには)「君には内なる”神秘性”が欠けている」と言われている。
 
クレア(シルヴィア・フークス)
 両親を亡くし古い屋敷にひとりで暮らす27歳の女性。オールドマンに両親の遺した美術品の鑑定と競売を依頼。「広場恐怖症」のため15年間自室から一歩も出たことが無い。決して姿を現さず、オールドマンとは電話で接触をはかり、自室に閉じこもりドア越しに会話をする「顔のない依頼人」。

ロバート(ジム・スタージェス)
 オールドマンが懇意にする機械修理人。オールドマンが屋敷で見つけた歯車から自動人形(オートマタ)の復元を依頼される。

フレッド(フィリップ・ジャクソン)
 屋敷の管理人。クレアに代わって屋敷を案内する。10年勤めているが彼女の姿を見たことがない。自動人形の部品を見つけオールドマンに渡す。
 

 「顔のない依頼人」に振り回される鑑定人の恋物語です。オールドマンは、この「顔のない依頼人」に次第に惹かれてゆきます。結婚も恋愛もせず肖像画の女性のみを愛してきたオールドマンが初めて愛した生身の女性だったわけです。クレアは、電話で、またはドア越しにクレアと会話するだけで、オールドマンは彼女の姿を一度も見ていません。想像力によって「顔のない」クレアを愛してしまったわけです。
 クレアとは如何なる女性か?、果たしてクレアは実在するのか?、クレアの存在という謎と緊張感がオールドマンを捉え、観客を引き付けます。
 以下ネタバレです。ミステリですから、ネタを知ってしまえば映画の面白さは半減します。