続きです。
呪文
 三体文明の探査船が飛来し、「宇宙防衛軍」がこれを向かい撃つスペースオペラとなります。三体文明は地球文明より遥かに進んだ文明ですから、数百隻の宇宙防衛軍は、たった一隻の探査船よって全滅、三体人の侵攻まで後二世紀半となります。

 『三体Ⅱ上』で、面壁者・羅輯は50光年彼方の地球外生命体に向けて「呪文」を発信しました。下巻では、呪文の謎と人類生き残りを賭けた三体文明との駆け引きが描かれます。
 呪文は、地球から50光年離れた、文明の存在する(しそうな)惑星系187J3X1の座標データでした。羅輯は、「私はここにいる!」というメッセージを宇宙に向けて発信したのです。地球ではなく何故187J3X1の位置情報だったのか?。羅輯は、メッセージを発した後人工冬眠に入り、100年後に目覚めた時、187J3X1は塵の星間雲を残して跡形もなく消えていることを知ります。187J3X1は何故消えたのか?。これが『三体Ⅱ』のキモです。

 187J3X1は何者かによって消し去られたのです。『スター・ウォーズ』でも、レーザー砲によって星1個を吹き飛ばしますから、まぁこれもアリです(笑。羅輯によると、銀河系には何万何十万という文明が存在するといいます。だから「宇宙社会学」が成り立つわけですが、では何故文明と文明は出会わなかったのかというと、文明は気配を殺してお互いに出会うことを避けているといいます(フェルミのパラドックス)。文明は、その星の環境下で発展しますから、それぞれ独自の発展過程を持つ文明は、コミュニケーションすることもお互いに理解することは不可能。人類と三体文明はコミュニケーションしているではないかというツッコミは無し。文明は、地球の科学技術が300年で飛躍的に発展したようにブレークスルーする可能性があり、何時自分たちの存在を脅かす脅威となるかも知れない。従って、もし宇宙に他の文明を見つけたら、たったひとつの賢明なやり方は(自分が滅ぼされる前に)すぐに相手を滅ぼすことである、と。これが187J3X1が消えた答えです。宇宙に潜む高度な文明によって、187J3X1星系は宇宙から消されたのです。
 地球という同じ環境で育った文明も、殺し合いばかりしてきたのですから…。
 
 こういうエイリアンばかりではなく…  こういうエイリアンもいる

暗黒森林
 羅輯によると、以上の理論の元で宇宙は「暗黒の森」のごときものだと言います。

宇宙は暗黒の森だ。あらゆる文明は、猟銃を携えた狩人で、幽霊のようにひっそりと森の中に隠れている。そして、行く手をふさぐ木の枝をそっとかき分け、呼吸にさえ気を遣いながら、いっさい音をたてないように歩んでいる。そう、とにかく用心しなきゃならない。森のいたるところに、自分と同じく身を潜めた狩人がいるからね。もしほかの生命を発見したら、それがべつの狩人であろうと、天使であろうと悪魔であろうと・・・できることはひとつしかない。すなわち、銃のひきがねを引いて、相手を消滅させること。この森では、地獄とは他者のことだ。みずからの存在を曝す生命はたちまち一掃されるという、永遠につづく脅威。これが宇宙文明の全体像だ。フェルミのパラドックスの答えでもある。

 宇宙の暗い森では、全ての文明は森の中に生きている狩人のような存在である、位置が曝される瞬間に他の狩人に銃撃されて殺される、やられる前にやれ!です。これが『三体Ⅱ』が「暗黒森林」とされる所以であり、さらになぜ地球人は宇宙人に会えないのか?という「フェルミのパラドックス」の答えのひとつだと言います。随分ペシミスティックな話です。

 187J3X1星系が宇宙から消えたことによって、宇宙社会学の「暗黒の森」理論は見事に証明されたのです。葉文潔が地球外知的生命体探査の巨大電波望遠鏡で「来て! この世界の征服に手を貸してあげる」と宇宙に発信し、三体文明が信号をキャッチし地球侵略が始まるわけです。三体協会は地球の位置を三体文明に教えましたが、まだ「暗黒の森」に姿を曝したわけではありません。羅輯は、この「暗黒森林」理論を使い智子を使って三体人を脅迫します。つまり、地球の座標を宇宙に曝せば地球は異星文明によって滅ぼされ、三体文明の地球侵略は不可能となります。さらに三体星の座標を曝せば三体文明は滅びます。さぁどうする! →三体人は地球侵略を放棄し、人類は、取り合えずは生き残ります。『三体Ⅲ 』が発売されていないので、人類の行く末は?ですが。

 巻末に、中国の作家(陸秋楼)よる面白い解説があります。「暗黒森林」理論は羅輯よって唱えられますが、これは葉文潔の宇宙社会学の公理から導き出されたものです。「暗黒森林」理論は、葉文潔の体験した「文化大革命」の暗黒から産み出されたのではないか、というものです。

自分の身を潜めて、存在が曝される文明を攻撃すると、いうやり方は、じつは密告に酷似している・・・葉文潔が経験した文化大革命は、多分人類史上もっとも密告を奨励する時代のものだった。・・・いったん密告の標的になるとすべてが終わる。注目されると消滅される可能性が高い。自分の存在を消すことこそが安全な生き方。こういう時代こそ「黒暗森林」であり、こういう時代に生まれた人間こそ「黒暗森林」の狩人ではないかと思う。

 「黒暗森林の狩人」とはあまりにもネガティブです。『三体Ⅲ 死神永世』で「孤独な狩人」は如何なる結末を迎えるのか...「死神」ですから、きっと希望からは縁遠い世界でしょうね。2021年春まで待たないといけないらしい。