これを読むつもりで間違って『相剋の森』を読んでしまいました。やっと本命、直木賞、山本周五郎賞W受賞の『邂逅の森』です。両方ともマタギを主人公としていますが、『相剋の森』と違ってこちらは浮ついたところも無く重厚です。舞台を大正~昭和に取り、山形のマタギ富治の波乱の一生を描きます。
 『相剋の森』の魅力は、日露戦争から第一次世界大戦を経て日中戦争に至る時代を背景に、奥羽山脈の山深い村で、自然と一体となってマタギが熊を狩る姿や、原初的な男女関係です。

 マタギとして鉄砲の腕を誇る25歳の富治は、名主の娘・文枝と恋仲になり文枝は妊ります。文枝とは村の行事である渓流の漁で知り合い、当時一般的であったという「夜這い」によって関係を深めてゆきます。この男女関係も土俗的かつ牧歌的で好感が持てます。文枝には親の決めた医者の許嫁があり、結局生まれる子供を許嫁と育てることでふたりは結婚します。文枝は生まれてくる子供を取り、富治は捨てられたということになります。
 子供の父親が同じ村にいては問題が多いということで富治は鉱山に追いやられ、物語は第二部へと続きます。