BSシネマ 死ぬまでしたい10のこと（2003西加）

　『ヒアアフター』に続き、またも死にまつわる映画です。原題はMy Life Without Me、私のいない私の人生。

　癌で余命2ヶ月と宣告された23歳の主婦アンの物語です。アン（サラ・ポーリー）は病院に入らず、自宅で死を迎えたいと家族にも病名を隠し普段通りの生活を続けます。17歳で長女を19歳で次女を出産し、失業中の夫ドン（スコット・スピードマン）と母親の実家の庭のトレーラーハウスで暮らすという、恵まれているとは言えない生活です。

　サラは、残された2ヶ月の間になすべきことやりたいことを書き出します。所謂「棺おけリスト」です。

1.娘たちに毎日愛していると言う

2.娘たちの気に入る新しいママを探す

3.娘たちが18歳になるまで、（毎年）誕生日のメッセージを贈る

4.家族でビーチへ行く

5.好きなだけお酒とタバコを楽しむ

6.思ってる事を話す

7.夫以外の人とつきあってみる

8.男性を夢中にさせる

9.刑務所のパパに会う

10.爪とヘアスタイルを変える

　『最高の人生の見つけ方』という定年を控えたオジサンの「棺おけリスト」に比べると、6歳と4歳の娘を残して死ななければならない若い母親のリストは切ないです。「娘たちの気に入る新しいママを探す」とは何と切ないか。
　「娘たちが18歳になるまで、（毎年）誕生日のメッセージを贈る」ために、アンはカセットテープに娘に宛てたメッセージの録音を始めます。この録音が、「語り」となって泣かせます。
　「夫以外の人とつきあってみる」「男性を夢中にさせる」とは、なかなか可愛い望みです。アンは夫を愛しているという設定ですが、17歳という早すぎる結婚のため、失われた青春を取り戻したいと思っても、まぁ許されるのではないでしょうか。死というもにが免罪符になっている嫌いはあるにしてもです。
　アンは途中で一度だけ感情を抑えきれなくなって爆発しますが、余命2ヶ月の割りには落ち着いています。運命を自らの中に封印し、自暴自棄にもならず、ひたすら母として妻として生きるわけで、ちょっと立派すぎですね。

　アンを取り巻く登場人物もなかなか多彩です。

・失業のため生活はアンの収入に頼り、トレーラーハウスから脱出できない夫ドン。

・肩に力が入りすぎてちょっと斜めに構えたアンの母親（デボラ・ハリー）。十分の誕生日にひとりでバーに入り、失意の人生に涙します。

・何故刑務所に入ったのか明かされませんが、アンとの面会で「世の中には、相手が望むように生きられない人間もいる、愛しても人を幸せにできない」と話す父親（アルフレッド・モリーナ）。

・子供好きだが、配属された小児病棟で結合双生児が生まれ、亡くなるまで30時間知っている限りの歌を歌って看取った看護師（この看護師は、「娘たちの気に入る新しいママを探す」の候補となります）。

・ダイエットを人生最大の目標とする職場の同僚。

・アンの目を見て余命2ヶ月を告げることが出来なかった気の弱い医師（医師は、毎週の診療と引き換えに、娘たち宛てたメッセージの録音テープを預かることになります）。

・コインランドリーでアンと知り合い、↑7と8をアンにもたらす測量士リー（マーク・ラファロ）。

　アンとリーの「不倫」は、でおそらく賛否両論でしょうが、この不倫を持ってくることで映画に現実感を与えていることも事実です。これがないと、余命2ヶ月の若い母親の「きれい事」で終わってしまいます。

　家族でビーチへ行くこともなかったですが、娘たちに毎日愛していると言えました。髪型を変えることはありませんでしたが、爪は綺麗に飾りました。父親にも会い、夫以外の人とつきあって男性を夢中にさせる望みもかないました。2ヶ月が過ぎ、予定通りアンは亡くなります。

　看護師アンは、「娘たちの気に入る新しいママ」となり、アンの母親はバーで恋人が出来そうになり、職場の同僚は相変わらずダイエット中。測量士はアンを失った痛手から立ち直ろうとし、気の弱い医師は託されたテープを律儀に送ってくれるでしょう。

　アンが死んだ後も、「アンのいないアンの人生」は淡々と流れてゆきます。たぶん、これがこの映画一番感動的なところでしょう。人の生とは、死とは何か？が、映像の裏側から静かに伝わってきます。私も、「ToDo」リストをちょっと見直そうかなと思います（笑。

　これはお薦めです。

 

　同じイザベル・コイシェとサラ・ポーリーのコンビで『あなたになら言える秘密のこと』が7月13日BSで放映されます。これも見てみます。

監督：イザベル・コイシェ
出演：サラ・ポーリー　スコット・スピードマン　マーク・ラファロ