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映画 ヒア アフター(2010米) [日記(2013)]

ヒア アフター [Blu-ray]
 冒頭の津波シーンのため、3.11以降公開中止となった曰くつきの映画です。原題:は“Here after”、「来生」。人間は死んだら何処へ行くのか、来生はあるのか?というところから出発しますが、オカルトでもホラーでもなく、死を抱えて生きている人間の存在を扱った地味な映画です。監督がクリント・イーストウッドで、もうお歳ですから「来生」が気になってこういう映画を作ったのかどうかは分かりませんが。

 パリ、サンフランシスコ、ロンドン、それぞれの地で物語が個別に進行し、やがてひとつに収斂してゆきます。

【パリ】
 TVキャスターのマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、恋人と訪れたモリディブかどこかのリゾート地で津波にあいます。この津波が押し寄せてくるシーンはなかなか迫力があり、リアルすぎて3.11の被災者に気を遣って公開が中止されたのでしょう。マリーは津波に飲み込まれ臨死を体験します。臨死体験というのは、生死の境で見る幻覚、幽体離脱やお花畑や光にあふれた「あの世」の体験です。「来生」が存在するわけですから、今生きている「この世」に対する感じ方、自分の存在そのものが問い直されることになります。
 パリに帰って仕事に復帰しますが、この臨死体験のショックによりキャスターを降ろされ恋人を失います。来世というものに興味を持つようになったマリーは、終末医療に携わる医師から資料を借り受け、“Hereafter”という本を出版します。

【サンフランシスコ】
 元霊媒師のジョージ(マット・デイモン)の物語です。子供の頃の臨死体験で死者と交信する能力を獲得し、霊媒師となります。降霊会を催し、本を出版し、マスコミにも取り上げられ霊媒ビジネスは順調だったようです。

 ジョージの能力は、人の手を握ることでその人をとりまく死者と交信できるという能力です。この霊媒師としては類まれな能力も、普段の生活の中では、人と握手するたびに死者と関わってしまうことになり、人と普通の関係を築くことが困難となります。常に死者を仲立ちとした関係しか築けないということです。ジョージは、「これは才能(gift)ではなく呪いだ」と言います。
 この「手を握ると死者と関わってしまう」ということが伏線となります。

 ジョージは「呪われた」生き方を捨て、給与2000ドルの工場労働者となります。今では、毎夜眠りにつく前にディケンズの朗読CDを聴くという平穏な生活を送っています。

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 ジョージは料理教室に通い始め、そこでメラニー(ブライス・ダラス・ハワード)と出会います。突然の料理教室で驚きますが、これもジョージが普通の人間になろうとした努力?のあらわれなのでしょう。
 教室での料理の素材当てシーンは、ちょっとドキッとします。目隠しをしたメラニーの口にジョージがスプーンで料理を食べさせるだけですがこのシーンが延々でもないですが、けっこう続きます。ふたりの惹かれ合った関係を象徴するシーンで、幾分セックスを連想させます。
 ジョージは聞かれるまま霊媒師であったことを告げ、メラニーの頼みでその能力を披露します。メラニーの手を握ると、昨年亡くなったという父親が現れ、昔彼女にひどいことをしたので謝りたい、いつか許してほしいというメセージを残します。ジョージがそのことをメラニーに伝えると彼女の目からは涙が溢れます。涙は懐かしい父親に会った涙ではないようで、ジョージは、メラニーの心の奥底にある何かを開けてしまったのです。その後、メラニーは二度と料理教室へは現れません。ジョージの危惧通り、降霊の扉を開けることでふたりの関係はもう元には戻らなくなったわけです。「これは才能(gift)ではなく呪いだ」というジョージの言葉が現実として描かれます。

【ロンドン】
 マーカス少年の物語です。マーカスは、双子の兄を交通事故で亡くし、ヘロイン中毒の母親と引き離されて里親に預けられるという不幸の渦中にいます。一卵性双生児は特別な絆で結ばれていると言われます。マーカスは、地下鉄の駅で兄の遺品である帽子を飛ばされ列車に乗り遅れますが、彼が乗るはずだった列車は爆破テロにあい一命をとりとめます。兄の霊に救われたマーカスは、兄に会いたいと何人もの霊媒師を訪ねますが、いずれもインチキで望みは絶たれます。

 死と隣り合わせて生きるマリー、ジョージ、マーカスの物語がひとつに収斂します。

【ジョージとマリーとマーカス】
 ロンドンのbookフェアの会場でジョージとマリーとマーカスが出会います。
 ジョージはリストラで工場を馘首になり、ディケンズゆかりの地を訪ねるためにロンドンに来ます。マリーは、臨死体験を書いた本がロンドンで出版され、自著の宣伝を兼ねてbookフェアの会場にいます。
 ジョージはマリーの書いた“Hereafter”のサイン本を買い求め、その際ジョージはマリーの手に触れ、彼女を取り巻く津波の死者の存在を感じ取ります。これも伏線のひとつ。
 マーカスは里親とともにbookフェア会場会場に来て、webサイトで見た霊媒師ジョージを発見します。

 マーカスはジョージの降霊によって兄と会うことができ、マーカスは兄に励まされたことで悲しみから立ち直ります。マーカスは、マリーに会いたがっているジョージに彼女の滞在するホテルを教え、ジョージはマリーに会うためにホテルに出かけますが、会えずに手紙を残します。この手紙の内容について映画では一切明かされませんが、手紙を読んでマリーは期するところがあったのでしょう、彼女はジョージに会いにゆきます。ふたりはロンドンの街角で出会い、ジョージとマリーはそれぞれ相手の中に自分の未来を発見します。
 臨死を体験したマリー、霊媒師のジョージ、兄を亡くした失意のマーカス、死に取り憑かれた3人がその呪縛から逃れ、幕となります。

 この3人が死の呪縛から解き放たれためにいくつかの仕掛けが施されています。
 ひとつは、ジョージがマーカスの兄を降霊するシーンです。

1)兄はジョージの口を借りてマーカスを励まし、去って行きます。
2)行かないでと叫ぶマーカスに答えて兄は戻ります。
3)ジョージの口を借り、一卵性双生児はふたりでひとり、僕はお前でお前が僕、僕が見守っているから「独り立ち」できると励まします。

このシーンで、1)の降霊は真実ですが、2)と3)はとっさに取ったジョージの嘘です。悲しむマーカスのために、一度去ったマーカスの兄が戻ってきたことにし、ジョージは死者の言葉ではなく自分自身の言葉としてマーカスに語りかけたのです。死者の言葉を伝えることで生者に癒しをもたらした霊媒師ジョージは、自ら言葉でマーカスに癒しをもたらしたわけです。ジョージもマーカス同様に「独り立ち」したのだと思われます。

 もうひとつ、ジョージとマリーがロンドンのカフェで出会うラストシーンです。ジョージはマリーを認め、マリーを抱きしめる幻覚を見ます。霊媒師はついに予知能力まで獲得したのか...実はそうなんですね。Here afteとは、「ここより後」すなわち「未来」のことです。そしてジョージはマリーの手を取りますが、この時ジョージはマリーの中に死者を見なかったのです。ジョージは、「手を握ると死者と関わってしまう」という「呪い」克服したわけです。死者の言葉ではなく、自らの言葉でマーカスを力づけたことがこの克服に深く関わっていることは言うまでもありません。
 臨死体験と“Here after”「来生」、死から出発した映画は、人間の「生」を描いて終わります。

 でお薦めかというと、これはお薦めです。以下余談

 立花隆に『臨死体験』という大部な本があります。立花センセイですから、内外の文献を渉猟し科学的なアプローチを行なっていますが、結論はありません。臨死体験は脳内でおこる現象だというのが通説ですが、何故そのようなメカニズムが人間の脳に用意されているのかは謎だそうです。臨死体験は死の間際で起こる現象ですから、死者の脳の中でも起こっている筈です。死に行く者にたとえ脳内現象とはいえ「幽体離脱」や「お花畑」を見せても仕方がないわけです。なかなか奥深い話しです。再読してみようと思います。

監督:クリント・イーストウッド
出演:マット・デイモン セシル・ドゥ・フランス

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